第31話 想像力こそパワー!


 今日も出撃から戻ると、機人のチェックをしながら、団員たちと一緒に、気分良くコミュニケーションをとっていた。


 やっぱり自分が活躍できるのは嬉しいし、仲間に認めてもらえるのも嬉しい。

 そして晩飯食ったら、明日のために部屋に戻ってしっかり休息する。


 戦果はレトレーダーのおかげってのが、かなり大きいと思うけど、なんだかここ数日の出撃で、俺自身の実力も付いて来たんじゃないかって感じるようになってきていた。


 索敵能力のおかげで敵と対峙することが増えたから、戦闘の経験値が貯まってレベルアップしてるみたいだ。ゲームみたいにパラメータが変わるわけじゃないけど、日に日に成長できているのが実感できる。


 攻撃バリエーションも増えたし、敵の攻撃パターンも分かってきた。何度も攻撃、回避を繰り返すことで、動きの無駄が消えてるようにも思える。


 装甲機人を動かすには頭で考えたことが腕を通り、操縦桿クオーツを経由しているんだけど、頭で考えるよりも早く、体が反応しているような不思議な感覚を味わっている。


 なんていうのかな、機人と一体化してる?

 そんな感覚だ。


 おかげで自分の体を動かしているのと、そんなに変わらないから疲労度も減っている気がする。まあ、その分作戦時間が増えているんだけど、本番だともっと長くなるのは間違いないし、十分な休息もとれないだろうな。


 しっかり眠るとしよう。




 ————————————————



 今日も今日とて出撃する。


 今回の目的地は俺達が配備される予定の二つ手前の第六エリア。霧によって狂暴化してからのラヴェルサの強さは、それ以前とは一線を画す強さだ。いきなり最奥まで進出するようなことはせず、徐々に強さに慣らしていくんだろう。


「剣星、今日も絶好調じゃないか!」

「あざす!」

「なんか、完全に置いて行かれたって感じだな。ここまで差があると悔しさが沸いてこないぜ」

「そうそう、剣星様素敵! 私の分も働いてねって感じよね~」

「そこは僕たちも頑張ろうよ」


 本番での担当エリアのちょっと前にも関わらず、無線でのコミュニケーションに余裕がある。ちょっとずるしてる俺はともかく、皆は本当に精鋭なんだなと実感する。ここまで来ると敵の数が大分多い。レトレーダーに映ってるのも敵ばっかりだ。


「ちょっと北西方向に移動するよ」

「了解」


 団長の機人には大規模改修の際に、最新鋭の無線機が取り付けられることになった。おかげで、これまでよりも遠距離の通信が可能となっている。


 進行方向にラヴェルサの群れが見えてきた。それとは別の機人の反応がレトレーダーにある。このままいけば攻撃中に横っ面を引っ叩かれる恐れがある。斜面になってるからだろうか、かなり早い。でも数は一機だけだ。


「左から敵機が接近中、対応します」

「任せたよ」


 ここ最近の活躍のおかげだろう。

 すんなり了承をもらって進路変更。


 見えてきたのはラヴェルサ三型。

 手持ち武器は無いけどモーニングスターのトゲトゲみたいな腕を持っている。

 だけど、俺の剣の方が射程は上だ。

 俺は走る勢いそのままに、剣を斜めに振って真っ二つに切断した。


 よし、戻って皆と合流するぞ。


「(剣星、まだ!)」


 レトの言葉に一瞬硬直する。

 その直後背中から衝撃がやってきた。

 三型の武器が背中に刺さった感じだ。

 ガリガリひっかくような嫌な音がする。


「くっそ、コイツまだ生きて……」


 何とかKカスタムを素早く回転させて振り返る。

 先程、倒した機人が視界にはいる。

 そして目の前にもう一機。


 そうか、三型は二機いたのかよ。

 おそらく、二機が重なってたのに気づけなかったんだ。


 俺はKカスタムをさらに半回転させて剣を振った。


「(ケンセー、ごめんね。私が気づけば良かったのに)」

「(いや、俺が油断してた。レトに頼り過ぎてたんだ。きっと自分の目でも見てれば分かったはずなんだ)」


 今いるのは敵地で、ゆっくり反省している余裕はない。

 仲間との合流を急いだ。


 数時間後、俺たちは帝都まで戻ってきた。


 コックピットから飛び出て、機人を確認する。


「やっぱり、えぐられてる……」


 これまで俺のKカスタムは、どんなに敵の攻撃を受けてもかすり傷一つなかった。初めに使ったランスが凹んだくらいだけど、あれは赤光晶の含まれている量が少なかったせいだと、後から分かった。


 でも今回は違う。純粋に敵の攻撃力によって削られたんだ。

 幸い致命傷にはならなかったけど、こんなことは初めてだ。

 周りの機人を見ると、皆同じように機人にダメージを受けていた。


 俺の機人と違うのは背中じゃなくて、ほとんどが盾に傷が付いているということだ。団長や副長だけでなく、若手三人組も同様だ。


 俺が二機目に気づかなかったという問題だけじゃない。皆が盾を使ったり、防御技術を磨いている間、俺は装甲を頼りにして、そういった技術をおざなりにしていたんだ。


 俺が傷つけられたのは本来担当するエリアよりも二つ前の第六エリア。

 ということは、第八エリアではさらにラヴェルサの攻撃力が増すってことになる。

 その時、背中からダメージを受けたら、こんな小さな傷ではすまないだろう。

 想像するだけで寒気がする。


 そういえばおやっさんが言ってたな。

 ラヴェルサ産の武器とか装甲に含まれている赤光晶の量は段違いだって。

 俺がちょっと前まで使っていたハンマーがそうだ。


 ラヴェルサに赤光晶が多いってのをゲーム的にいえば、武器、装甲の強化回数が多いとか、限界値が大きいって事だ。


 一方、俺のKカスタムは他の皆と比べれば高級なラジウスを使用してるけど、ラヴェルサと比べたら、限界値はそれほどでもないのかもしれない。


 それは当然、攻撃の際にも影響してくるはずだ。ラヴェルサの硬い装甲を破るには、これまでのような圧倒的なパワーか、もしくは関節部など敵の弱いところを見極めて、技のキレで切断するほかない。


 今の俺にその技術があるのか、あるいは再びハンマーを持つ方がいいのか。

 仮にハンマーに戻したとしても、これまで通りに扱うには両手を使う必要がある。

 今の状況で盾無しで挑むことができるだろうか。

 今から新しい機人を用意してもらうなんて現実的じゃない。

 何よりリンダたちは俺よりも弱い装甲で戦ってるんだ。

 そんな情けないことできるはずがない。


 結局、どうすればいいのかなんて分かることなく、俺は家路についた。




「ああ、私はなんて不幸なの? ケンセーが調子に乗り過ぎたせいで私は短い一生を終えてしまうのね」


 というのが、迷いを相談したレトの第一声だ。

 俺が防御を考えずに戦っていたのは事実なので、反論するのは難しい。

 それでも降りないで、一緒に乗ってくれる。

 有り難い話だ。


「ケンセーは考えすぎなのよ。結局、自分がやってきたことしかできないの。ケンセーはまだ他の人みたいにできないんだから、地道に努力しなさい!」


 他の人みたいにできないか、確かに俺は剣の腕もまだまだだし……


「って、そうじゃねーよ!!」

「えっ、えっ、何? いきなりどうしたの?」


 機人を操縦してるのは俺なんだけど、それが『俺』の動きである必要はないんだ。


 傭兵になって初めてラヴェルサと戦った時を思い出せ。

 あの時は柔道が得意な同級生の動きをイメージしていたはずだ。

 それを客観的に見て、こうなるのかなって投げ飛ばしたんだ。

 俺の機人を他の誰かに見立ててやればいい。

 仲間の動きなら散々見てきたはずだ。


「一人で納得してないで話しなさ~い!!」


「俺は剣術とか全くやってなかったから、機人に乗っても上手く使えない。そりゃ機人を自分の手足のように扱えたら気持ちいい。でもさ、それで強くなったとしても、現実の俺の強さで頭打ちなんだよ」


 俺の長所は目の良さだって言ってもらったことがあるけど、いくら達人の動きを見ても、自分の体を精密に動かせるわけじゃないから真似できない。


「でも俺の機人をちょっと遠くから見て、達人が動かしていると想像すれば、達人の動きを再現できるんじゃないかって」


 そうなんだ。コックピット視点にこだわる必要はないんだ。ちょっと後ろからの俯瞰視点で自分の機人を見ればいい。副長が想定してたのとは違うだろうけど、客観的に見てるって言えるよな。


 レトは俺の言ってることが理解できないのだろう。困惑の表情を見せている。テレビも存在しない世界で、ロボットアクションゲームのことを伝えるのは難しい。


「なんとかなりそうってこと?」

「レトのおかげでな!」


 前面装甲からの狭い視野だけじゃ、俯瞰視点なんて思いつかなかっただろう。レトが情報を送ってくれてるからこそだ。後は実戦でどれだけ通用するか。


「こらっ、ケンセー! ニヤニヤしちゃって。よく分からないけど調子乗ってるでしょ!」

「これが乗らずにいられるかって話ですよ、レトさん。明日が楽しみだなぁ~」


 レトがポカポカ叩いてくるけど、肩たたきには物足りない。もうちょっと強くならないかな、などと考えていたら、突然玄関の扉が開いた。当然レトが姿を隠す時間などあるはずもなく。


「剣星、その小さなのは。いや、すまない。何度もノックしたんだが、中から声がして……」


 部屋に入ってきたのはイオリだった。

 イオリはレトの姿に驚きを見せたが、すぐに顔を伏せた。


「こんな時間にどうしたんだ?」

「……少し、いいだろうか?」


 きっと、少しじゃ終わらないだろう。

 なんとなく、そう思った。

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