第28話 VSラヴェルサ 迫る決戦!


 リグド・テランの国境侵犯があってから十数日。

 俺達は城壁外に出撃するたびに、ラヴェルサとの戦闘を繰り返していた。


「ったく、なんでこうもラヴェルサが沸いてくるかね」

「臨時収入だと思えば悪くないでしょ。グチグチ言わない」


 今日の出撃メンバーは俺とリンダとルシオだ。


 ルクレツィア団長の装甲機人が破壊された直後は、カラルド副長を中心にチームを組まれていた。仕事も順調にいってたのに、こんなタイミングで副長も機人をオーバーホールすることに。


 そのせいで、俺を含めた若いメンバー四人のうち三人が出撃するという事態になった。リーダーは日替わりで、今日は俺の担当だ。


「左右から、二機づつ来てるぞ。二人は右を頼む」

「さっすが、リーダー! 頼もしい!」


 リンダの猫なで声がわざとらしい。

 それだけ余裕があるのだろう。

 それは俺も同じだけどな。


 今日で四度目のリーダーだ。


 初めての時は緊張しまくりだったけど、今はなんとかこなしてると思う。二人共、俺より経験豊富な傭兵なんだけど、自分がリーダーだと、つい自分がやらなくてはという気持ちが出てしまう。


「(ケンセーって見栄っ張りだよね)」

「(いいんだよ、これで。俺が一番実戦経験少ないんだから)」


 迫りくるのは最新型のラヴェルサ十六型が二機。

 嘗て、団長が翻弄した鎌を持った機人だ。

 あの頃の俺は未熟で、フォローしてもらいながら戦っていた。

 今なら問題なく対処できる。


 今の俺の装備は剣と盾だ。

 俺の機人は装甲自慢だから、みんなのように盾を持つ必要はない。

 だけど、みんなの動きを参考するには、この方がいいと判断したんだ。

 今はまだ背中を守っているだけなんだけど。



 一機目が横に薙いでくる。

 それを見極めてギリギリ回避を狙う。

 時計回りに素早く一回転。

 正面を向く際に、鎌を持つ両手を切りおとした。


 続けて、二機目が接近。

 敵の攻撃タイミングに合わせて、武器を失った十六型を蹴り飛ばした。


「(剣星、いっけぇ!!)」


 鎌が一機目に引っかかった瞬間を見逃さずに跳躍。

 二機まとめて、上から切断した。


「やるじゃん、剣星」

「切り口は相変わらず汚いけどね。でも、まっ、二機相手なら上出来か」


 初めは俺たちのことを不安視していた発掘屋のダイダラも、今では信頼してくれているように感じる。その後、二度目の襲撃を凌いでから帝都に戻っていった。




 ————————————————




 ルクレツィア傭兵団は若手三人で上手く回していた。

 ベテラン勢がいなくても、戦えてるのは自信になる。

 俺だけじゃなく、他のメンバーもそうみたいだ。


 数日後、ラヴェルサの活動が活発になっていると、ルーベリオ教会から各傭兵団に通達された。


 肌感覚では理解していたことだけど、正式に通達されたことで、外壁での仕事に緊張感が生まれていった。


 活動が活発になるというのは、ラヴェルサとの決戦が近い事を意味している。

 騎士団や傭兵は、決戦に向けてせわしなく動いている。


 今後、ラヴェルサの地下プラントへの攻撃に向けて、騎士団と傭兵は遠方までクリアリングのために遠征するので、普段は防衛に専念している神聖レグナリア帝国軍が、俺達が守っていたエリアをカバーする態勢になっている。


 一連の動きは、発掘屋にも影響を与えていた。

 全ての発掘作業が禁止されたのだ。


 ただし、全ての活動できなくなったわけではなく、傭兵たちが倒したラヴェルサの機人の回収を任されているから、収入的には問題ないらしい。


 これから敵機がどんどん出てくるので、わざわざ地面を掘る必要なんてないんだ。

 その分危険度は跳ね上がっているだろうけど。

 発掘屋も傭兵も危険になったから逃げる、なんてことは許されていない。

 教会勢力内で働く条件に含まれているからだ。

 うまい汁だけ吸おうなんて通じない。


 もちろん、俺達ルクレツィア傭兵団も前線に出て行く。通常、ラヴェルサは生産プラントに近づくにつれて、強さが増していくけど、活動が活発な時期は、霧が濃くなって全体の水準が上がるので、これまでよりも注意が必要だ。


 だったら、活動が沈静化している時期に攻めればいいじゃないか、と思うんだけど、それを阻止しているのがリグド・テランだという。


 彼らは帝国、というか教会勢力とは百年以上戦争していないけど、ラヴェルサを守るように行動する。これが世界の敵と言われている所以ゆえんらしい。


「どぇすたらー!」


 担当エリアに入ってきたラヴェルサを次々と倒していく。

 数が多いので、綺麗にパーツを切り分けるよりも数を減らす事を優先する。

 そのため倒し方を気にすることなく、剣を振るえる状況だ。


 剣に持ち替えてから少し経ったけど、精度はまだまだ。


 気にしてないつもりだったけど、やっぱり心のどこかで切り口が悪いのを申し訳なく思ってしまっていたんだろう。なにかが解放されたように機人が軽く感じる。


「剣星、離れすぎだ。一旦戻れ」

「了解」


 副長からの指示に従い、合流する。


 現在、俺たちは復帰したカラルド副長を中心に五人でフォーメーションを組んで行動中。団長は留守番だ。機人の整備は完了しているけど、決戦に向けて皆の装甲を順番に強化している最中だから。今までは機動力重視だったけど、混戦になれば装甲の厚さが活きてくる状況になると予測されている。


 これまでであれば、傭兵団を二つに分けて行動しただろうけど、教会の通達以降は安全を考えて、連携面の強化のために全機で出撃している。


 今日で四日連続の出撃だ。

 かなりハードなスケジュールだけど、皆、問題なくこなしている。

 傭兵になったばかりの頃ならともかく、今の体力なら、なんとかやっていける。

 とはいえ、体力だけでは解決できない問題もある。


 まず敵の強さだ。


 今までよりも敵機の強度が上がり、攻撃力が増している。運動性も同様だ。

 まだ対応できているけど、激戦エリアに配備されたら、苦戦する可能性もある。


 無線が繫がりにくくなっていることも問題だ。


 周辺エリアにいるはずの僚機からも繋がらない。

 自分たちの周りにいるのは敵か、味方かはっきりしないんだ。


 部隊内の連携は可能なものの、周辺との連携ができないのは心理的にもストレスになる。


 これらの問題は、世界を覆う霧が濃くなっていることに由来している。

 霧は生産プラントから発生しており、近づいて行くほど濃くなっていく。


 そのため視界が悪くなり、ラヴェルサの発見が遅れたり、同士討ちをする部隊もあったという。


 この霧が、停止中のラヴェルサが突然動きだす原因でもあるんだ。


 霧には極小サイズの赤光晶が含まれており、ラヴェルサの破壊衝動を含んだ因子を吸収すると、再起動を促す。だから安全を確保するためには、これまでよりも丹念に破壊していかなければならない。


 決戦の際には、聖王機とそれを守るラグナリィシールド部隊が中心となって生産プラントに迫る予定だ。戦いはプラントが沈静化するまで続けられる。それは数時間で終わることもあれば、十日以上続くこともあるという。


 俺達のような傭兵団は、強さに応じて配置が決まるらしい。

 これまでの実績や、現在の作戦遂行能力、判断力なども影響していると聞いた。


 他の皆はどうか知らないけど、聖王機の二人を助けたい俺としては、できるだけ奥地のエリアの担当を任されたいという思惑がある。


 俺たちルクレツィア傭兵団は、最大でも六人という少人数の部隊だ。

 広いエリアを任されることはないだろうけど、やれることはやっておきたい。


 先日、アルフィナの前で自分の気持ちを吐露したせいだろうか、目的がはっきりと見えてきた。


「各員、できるだけ地形を把握しておけよ」

「了解」


 これだけ視野が確保できないと地形の把握は難しい。

 ゲームのように何度も挑戦したり、データが表示されるわけじゃないんだ。

 目印になるようなものを探して、なんとか記憶にとどめなければならない。


 事前の情報では、生産プラントまでの道は、はげ山だと分かっている。     

 つまり、同じような風景ばかりで、覚えるのが困難だという事。

 嵐でも来れば一時的に霧が晴れて、少しは分かりやすくなるんだけどな。


 それに、地形の把握はラヴェルサとの戦闘中に行わなければならない。

 一対複数であっても今では負ける気がしないけど、方向感覚がおかしくなる。


 基本的には傭兵団は普段よりも近距離で戦い、本番でも互いを見失わないようにしなければならない。


「時間だ。集結して撤退する」

「了解」


 数十分後、俺たちは傭兵団の格納庫に戻ってきた。


 これまでだったら、整備を任すこともあったけど、今の状況ではそうはいかない。

 整備の人数が足りないからだ。


 新たに雇おうにも、決戦を前にメカニックは引っ張りだこで、小さな傭兵団にはやってこない。そんな状況では、機人のチェックは自分たちでやらなきゃいけない。


「剣星、お前は関節部のチェックだけでいいからな」


 戦闘には随分慣れてきたし、ここ最近は脚を引っ張ることもない。

 むしろ若手三人組を助けることもある。

 ところが、整備に関しては、メカニックに任せっぱなしだったのでさっぱりだ。


 俺が早くまともに戦えるように訓練を優先させてもらっていたおかげなんだけど、申し訳ない気持ちもある。


「別に気にする必要はねえぞ」


 おやっさんが俺の隣にきて小声でそう言った。

 また俺は表情に出してしまったのだろうか。


「お前の機人は、とんでもない硬さだからな。装甲には傷一つ付いてない。だから負荷がかかりやすいとこだけ見てくれればいいんだよ」

「うす」


 そういわれても申し訳なく思う。

 それとも皆がやってることができない情けなさか。


「なんで下向いてるんだか。ったく、こんなこた言いたかないんだけどよ。最初はルクレツィアに頼まれて、お前のことを気にかけてたんだ。それが最近は俺自身が何かやってくれるんじゃないかって、期待しちまってるのよ」


 そこまで気にしてるわけじゃなかったんだけど、励ましてくれてるんだよな。

 日本にいた頃だったら、こんな風に言ってもらえなかっただろう。

 今まで口煩かったおやっさんが嘘のようだ。


「今、うちの機人を順番に浄化に出してるのは知ってるよな?」


 機人に特殊コーティングがしてあるといっても、傷口からラヴェルサの因子が入り込んでしまう。そこで決戦を前に綺麗に浄化しておこうという訳だ。


「お前の機人はすぐに帰って来たよ。浄化の必要がないってな。あれだけコーティングが剥げてたのにな」

「どういうことっすか?」

「さあな。お前には他の奴にはない何かがあるんだろうさ」


 俺が別の世界から来たことが関係してるのだろうか。


「もちろん、それだけじゃない。機人が剣星の成長の軌跡を教えてくれている。大した奴だ。よく頑張ったよ。お前はもっと自信を持っていいんだ」


 おやっさんは恥ずかしくなったのか、笑いながら別の機人に向かっていった。


 俺が聖王機に乗ったことを知っているから、やる気にさせるために、おやっさんはあんな事言うんだろう。でも、それだけじゃなかった。俺がやってきたことを、ちゃんと見ててくれたんだ。


「(あ~あ、涙ためちゃって。そんなに嬉しかったの?)」


「(お前はホント、突然やってくるな。俺さ、ホント出会いに恵まれてるんだなって。だってさ、こんなしょーもない俺に期待してくれてるんだぜ? 俺、こっちの世界に来れてホント良かったよ)」


「(寂しい人生だったのね~)」

「(ほっとけ!)」

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