第22話 もっと勉強してくれてもいいんすよ?


 時は来た。どれほど待ち望んだことか。


「ようやく訪れたこのチャンス、逃してなるものか!」


 発掘屋護衛任務でのラヴェルサとの戦闘。

 新たな武器を得てから、初めての実戦だ。

 しかも相手は嘗て聖王機に乗って戦ったパワー自慢のラヴェルサ八型。

 あの頃の俺と比べるのに丁度いいじゃないか。


「苦しい鍛錬を経て得たこの力。とくと味わうがいい!」


 元帰宅部の底力を舐めるなよ!


「そういうのはいいんで、さっさと終わらせてくださ~い」

「くっ」


 無線を飛ばしてきたリンダは既に戦闘を終了し、解体まで終わらせている。

 後は俺と相対する最後の一機だけだ。


「ふっ、そういってやるな、リンダ。剣星の成長を見るいい機会じゃないか」


 団長は周囲を警戒しながらも、こっちをしっかり確認しているみたいだ。

 そこらへんは経験なんだろうな。


「っと、やべえ」


 迫ってきたラヴェルサ八型と一旦距離を取る。

 コイツはパワーはあるけど、その分鈍い。

 しかも素手だからリーチの差で先行出来るんだ。


 やるのは勿論あの時と同じ、上段からの振り下しだ。

 同じ攻撃で自分の成長を確かめる。

 接近してくる相手を見極め、タイミングを合わせた。


「だっしゃらぁぁ!!」


 思いっきり振った巨大なハンマーは、大地を揺るがした。

 何にも邪魔されることなく。

 それはもちろん敵機にもってことで……


「何、豪快に外してんのよ!」

「(ケンセー、真面目にやりなさいよ!)」


 すかさずリンダとレトの罵声が飛んでくる。

 どちらも見習いたいくらいの反応の早さだ。

 俺の方こそ、なんで外れたのか知りたいぞ。


 でも、まずは今はこの状況をなんとかしなくちゃ。

 

 よしっ!


 ハンマーに進路を遮られた八型は、速度を大きく落としてる。

 Kカスタムで下半身に狙い定めて、思いっきりタックルした。

 意表を突けたのか、無防備な体を倒して抑え込みの体勢へ。


「今だ、リンダ! 俺が耐えてるうちにトドメを刺すんだ!」

「こんな奴一人で倒しなさいよ、っと!」


 リンダの連続攻撃で、ラヴェルサ八型はバラバラに切り刻まれいく。


「俺たちの勝利だ!」


 なんだか、じとーって睨まれてる気がする。

 言いたいことは分かる。

 自分でちゃんとトドメを刺せって言いたいんだろ?

 俺だって早く一人前になりたいよ。

 だけど自分の成長よりも、今は依頼人の護衛が最優先だ……よね?


「だんちょ~、剣星の評価をお願いしま~す」


 リンダが団長に問いかける。

 その思惑、ちょっと意地悪ですよ、先輩!


「そうだね、二十点ってところか」

「だってさ、剣星!」


 くっそ、嬉しそうに言いやがって。


 自分でも分かってはいるんだ。

 このままじゃ駄目だ。もっとしっかりやんなきゃって。


「味方と連携するのは問題ない。一人で何もかもやろうとする勘違い野郎よりは、よっぽどやりやすい。だけど、それはそれ。個人の実力は伸ばしていかないといけないよ」

「うす」


「でも前の時は、もうちょっとだけ良かった気がするんだけどな~。訓練さぼってたでしょっ!」

「私、実は知ってるんですよ、みたい空気を醸し出すんじゃねえよ。お前はストーカーか!」


 ビシッと指さししてる姿が想像できるぜ。


「見てなくても、最近は生身の訓練でも動きが悪いからな~」

「それだけ体を酷使してるってことだ、リンダ先輩」


 演習場に行くようになってから、疲労がこれまでの比じゃないんだよ。


「演習場でも見学が増えてるって話だけど?」

「見学は増えてるけど、体を動かす時間は減らしてないつもりだぜ? それに想像力を鍛えるためには、体を動かすだけじゃなく、人の動きを見るのだって重要なんだ」


 たぶんな。


「だんちょ~、剣星の奴あんなこと言ってますよ~?」

「まあ、言ってることに間違いはないね。それに普段から真面目にやってるのも知ってるさ。そうだね、今回の失敗は恐らく経験不足による振れ幅だろうね。ほぼ素人の剣星はそれが大きいんだろうさ」


 つまり、安定してないってことですかい?


「剣星は意外と観察力はあるし、いざという時の思い切りの良さもある。だが、やはりというか、戦闘センスがない。経験があればそれを補えるんだろうけど、一朝一夕で身につくものじゃない。結局は地道にやっていくしかないんだ」


 やはりって。

 確かにそうなんだけどさ。

 特に距離感が分かりずらいんだ。


 でも、攻撃が当たるか、当たらないかで状況は大きく変わってしまうからな。

 言い訳なんてしてる場合じゃないんだ。


「まあ、これまでのところは予想以上に良くやっているさ。うるさいけど落ち着きがあるし、周りも見えているからね」


 それってなんだか元の期待値が低いだけって言われるような。

 まあいいさ。これから少しづつ強くなっていけばいいんだから。


 とはいえ、もうすぐ大きな戦いがあるっていうし、急に強敵が現れるかもわからない。何か考えておく必要はあるだろう。




 戦闘終了から数時間後、俺たちは無事に帝都に戻ってきた。

 とりあえず、今日の収獲は上々だ。


 前回の遭遇時は新型を含むラヴェルサ四機だったから、今回二機だけというのは、少々物足りない。


 それでもラヴェルサと出会っていない傭兵団もいるのだから、俺たちは運がいいと言えるだろう。


 まあ、収穫があるといっても、全部懐に入ってくるわけじゃないけどな。

 まず、パーツを売った代金は傭兵団全員で分配される。

 操者だけじゃなく、メカニックも数に含めてだ。

 それでも結構な分け前になるので、文句は出ない。

 後は戦闘に参加した者に手当てが出る感じ。

 小規模の傭兵団だからできるのかもしれない。

 家族経営的な?


 前回の出撃前には、俺の機人を組み立てた影響で、傭兵団の予備パーツをほぼ使い切ってしまっていたので、四機全てを売りに出さずに、一部は倉庫にしまい込んでいる。


 それでも十分な儲けになったけど、その時俺は、機人に乗る時のスーツを買ったり、身の回りのものを揃えたりに使用した。今回は貯蓄だ。


 将来の事を考えているとか、結婚資金を溜めようなんて思ってるわけじゃない。

 ちょっと新しい装備用にとっておきたいんだ。


 まだ具体的な案があるわけじゃないけど、いざという時にすぐ作れるようにしておかないとな。


「剣星、ついておいで。そろそろ次の仕事を覚えてもらうよ」

「うす」

「ふふっ、そんなに緊張するな。ただ今日の収獲を売りに行くだけさ」


 やってきたのが部品市場。

 装甲機人用の現物がそこかしこに置いてあるので、とても広い。

 やがて大きな看板の店舗に入っていくと、すぐさま女主人が寄ってきた。


「よう、ルクレツィア。今日も上々じゃないか」

「漸くうちにも運が向いてきたのさ。コイツが加入してからね」


 団長がバンッと背中を押してくる。

 まあ、挨拶しろってことだよな。


「剣星です。よろしくお願いします」

「期待の新人だから、今から唾を付けておくんだね。なんならオマケしてくれてもいいんだよ?」

「そうだねぇ、もっと二枚目だったら考えるんだけどねぇ」

「心底がっかりした感じは、勘弁してください」


 いやマジでそうよ? 

 それにしても初対面とは思えない距離感だな、この人。

 でも、荒くれ者たちとやりあうには、これくらいじゃないと駄目なのかもな。


「くっくっくっ、面白い男じゃないかい。そういや顔も中々におも――」

「さて、長居するのも良くない。そろそろ商売の話をしようかい」


 それから団長が交渉してパーツを全て引き取ってもらうことになった。

 帰り道、俺は少しだけ愚痴を聞いてもらう事にした。


「なんかすげー嫌な感じだったんですけど、いつもあんな感じなんすか?」

「まあ、そうだね。けど、買い取り額は他より良心的さ。金を取るか、愛想を取るか。難しい選択じゃないだろ?」

「そりゃ、そうっすね」


 金がなけりゃ、傭兵なんてやってないだろうしな。

 後は俺がもっとコミュ力を身に着ければいいだけの話だ。

 それができれば苦労しないんだが。


「あの婆さんは元ルーベリオ教会の幹部でね。教会の浄化手数料も安くしてもらってるって話さ」

「ああ、なるほど。だから買い取りが高くなっても元は取れると」

「実の所、他の店も教会出身者ばかりさ。そうじゃなきゃ張り合えないからね」


 なんだそりゃ、教会出身者の寡占かよ。

 それとも天下り先みたいなものか?


「気に入らないかい?」

「良くはないっすね」


 たぶん顔に出ていたんだろう。

 今更否定しても仕方ない。

 団長はするする寄って、肩を組んできた。


「確かにルーベリオ教会関係者は甘い汁を吸ってるさ。でもね、それだけの重い歴史を持っていることも事実なんだ。私だって、必要もないのに危険な場所に踏み込んだりしない。別に仲良くやれとは言わないけど、剣星は表情に出しすぎだ。それは決して良いように働く事はないんだよ」


 俺が教会からどういう風に思われているのかを考えたら迂闊な事は言えないよな。


 聖女であるアルフィナのように聖王機を起動することができる存在。

 それがどのくらい貴重なのかはイマイチ掴み切れていないけど。



 色々考え込んでいたら、団長が俺の顔を覗きこんでいた。


「あんた、泣いてるのかい?」

「えっ? あれ、本当だ。なんでだろ」


 別に悲しい事があったわけじゃないし、ゴミが入った訳でもない。


「だったら、浄化のせいかもね」

「どういうことっすか?」

「ほら、あそこを見な」


 そういって団長は一人の女性を指さした。

 その女性はラヴェルサのパーツと思わしき物に手を近づけている。

 すると、激しい光を出していた赤光晶が、次第に輝きを失っていく。


「あれがラヴェルサの残滓を消すってことさ。聖女様の力の欠片ってとこだね」

「あれがそうなんすか」

「たまにいるらしいよ。浄化を見ると泣く男が」


 へ~、そうなんだ。

 なんだか不思議な感覚だったな。

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