調香術師のにぎやかな辺境生活 

巴里の黒猫

0 グラシアーナ国の成り立ち

 それは、六代王の治世のこと。


 水が干上がるように大地から魔力が抜け、作物が実らなくなった。


「天の女神よ。どうかお助けたまえ。そのお力をお示したまえ」


 王も民も、国のあちらこちらで祈りを捧げた。

 苦しむ我らを哀れに思われたのだろう。


「ああ、なんてことかしら! 大事な民が!」


 ある夜のこと、遥かなる高みより女神のお嘆きが聞こえ、王は飛び起きた。


「いいわ。大地に咲かせましょう」


 その声とともに、女神はそのお力を揮われた。


「雨よ、ひそやかに降れ。あまねく大地を潤し、眠る種を起こせ。女神の花園に光よ、あれ。根よ、育て。芽よ、育て。伸びやかに。おおらかに」


 聖なる光がアルタシルヴァの山の頂より照らされ、闇夜を押し去ると、茶色く枯れた大地は香気芬々(ふんぷん)たる花々で覆われた。


 女神の御業に驚き、咲き乱れる花々の美しい光景に呆然としていると、女神の満足そうなお声が響いた。


「ああ。なんてかぐわしい香り。これでいいわ」


 その通りに、国の東西南北すべては薔薇ローザの高貴なる香りで満たされ、元の豊穣なる大地へと戻っていた。


 王は女神に心よりの感謝を申し述べると、その慈愛を忘れぬよう我が国の名をグラシアーナ恩恵と感謝と改めた。


 以降、グラシアーナ国の神殿では、女神に捧げるローザの香りを絶やしたことはない。



 

 ~ グラシアーナ国と花の女神 ~

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