第49話

 三人をつれてアパートの庭にやってきた。

 

 雑草が生えまくっているが、ようは地面さえあればいい。


「なんでにわにでたんじゃー?」

「ねぇー、プールはー?」

「まぁみてろって。アース・シェイク」


 俺は土魔法を発動して庭の中央に穴を掘った。


 半径が二メートルほどの円形の穴だ。


「プロテス・ウォール」


 さらに穴に防御魔法をかけることで土が崩れることを防いだ。


「スプラッシュ」


 穴に魔法を使って水を溜めていく。


 穴の淵まで水が溜まったら即席プールの完成だ。


 防御魔法によって崩れる心配もないし、土に水が染み込むこともない。


「わあー! プールじゃー!」

「あ、水着をどうしようか」


 さすがに先日海に行った時の水着じゃサイズがあわないよな。


「はだかでいいじゃろー!」


 そういって陽詩が羽織っていたカーテンを脱ぎそうになったので、俺は慌てて彼女に着せなおした。


「バッカ、いま配信中なんだぞ!」


 幼女の全裸を生配信なんてしたら捕まるだろうが。


”くそおおおおお! ジャージ戦士め余計なことをしやがってえええええ!”

”俺たちのために捕まるくらいの気概はみせられないのかジャージ戦士!”

”ジャージさん、ぜったいに裸で遊ばせちゃ駄目だからね!”

”ふつうに神経疑うからちゃんと水着を着せてあげて”

”ジャージさんに限ってそういうことはないと思うけど児童ポルノにひっかかるからね”

”もしも雫に恥ずかしい思いをさせたらコロス”


 当然だが裸で遊ばせるようなことなんか絶対にさせない。


 カーテンを加工して水着にでもしようか、なんて考えていると、「ヘーイ!」という陽気な声が後ろから聞こえてきた。


 振り返ると、白いタンクトップに金のネックレスをつけてオマケにサングラスなんかかけているマイケルとその家族が立っていた。


 彼らはタンザニアから日本に出稼ぎに来ている外人夫婦だ。

 

 日本はいまダンジョンの存在によってものすごい好景気を迎えている。


 それはもう登り竜のような勢いで株価は上昇しており、円の価値も上がっているそうだ。


 あんまり経済には詳しくないけど、円の価値が上がると少ない所持金でたくさんの海外製品が買えるので国外に出ていく人が多くなるらしい。


 逆に円に価値が上がるので外国の人はこぞって日本に出稼ぎに来るそうだ。


 いまや日本は国民の半分以上が外国人の多国籍国家。陽詩のようなハーフも珍しくないし、マイケルのような外人もしょっちゅうみかける。


「十七夜月さーん! どうしたんデースカ!」

「マイケル! お前こそどうしたんだその恰好……」


 妙にいかつい格好に戸惑う。


 ファッションセンスが完全にダウンタウンに住む俺ら体制に負けないぜベイベー、な人たちだ。


「ハハハー! ついさっきファミリーで近所のウィオンに買い物にいってきたところデース!」

「子供たちの水着が小さくなってしまったので買いにいったんデスよ」


 マイケルの奥さん、マリリンさんが微笑みながら説明してくれた。


 みると二人の足元には、陽詩たちよりひとまわり大きな二人の子供がいる。


 水着が小さくなったってことは、もしかして。


「あのさマイケル。ものは相談なんだけど」

「オー、十七夜月さんの頼みとあっては断れまセーン!」

「サンキュ。ならさ……水着かしてくれない?」

「ホワッツ?」


 マイケルはサングラスを額に上げて不思議そうな顔をした。

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