第5話城で夜を


 先頭に感知系魔法を得意とするダイアナ率いる軽装騎兵隊約10名が配置され、周囲の警戒とモンスターが出現した際には露払いを行う。

 さらに今回捉えた賊。約10名はウェスタの魔法にかけられて無力化され、荷台のに乗せられ護衛の先頭に置かれる事となった。

 中段……にはウェスタ率いる魔術騎兵五名が姫が乗る馬車の警護に当たっている。

 そして最後尾を担当するのが、近衛騎士団団長のミネルヴァ率いる。重装騎兵10機だ。


 そんな仰々しい集団を襲うようなバカな人間は、捉えた賊以外にはおらず。

 襲い掛かるモンスターも、魔術師高火力魔法の前には一瞬で塵となった。


「姫様。宿場町に到着したようです」


 亜麻色の髪のメイドが姫に報告する。


「そう。大分日も暮れているのね……今日の宿泊場所はどこかしら?」


「領主貴族ラージヒル家のゾルコヴァ城でございます」


「旅で疲れているのに、会食をしなくては面倒ね……」


「ですが、姫がなさろうとする覇業のためには必要な事です」


「それもそうね。何か楽しい話はないの?」


 急に話が振られる。


「ゾルコヴァ地方は海に程近く、海産物と新鮮な野菜が美味しいく、中でも長ネギや塩が有名と聞いております。姫がこれからご宿泊されるゾルコヴァ城は、元々はこの一帯を治めていたノウスアティカル族の使用していた枝城……つまりは出城や要塞と言う事ぐらいでしょうか……」


「食べ物の話はよかったのだけれど、歴史云々は今は聞きたくないわ」


「申し訳ございません」


「いいのよ。だって城主から嫌でも聞かされそうだから、遠慮しておくだけよ」


「お会いになられた事があるんですか?」


「もちろんよ。ラージヒル家は元々宮廷貴族、それも宰相を務めた名家よ。知らないハズないじゃない。」


「それもそうですね」


「あなたの家は、我が家が王家よりも歴史のある名家中の名家じゃない。そのあなたが知らない方がおかしいぐらいよ」


「お恥ずかしながら、家庭教師を付けられなかったもので……」


「ならしょうがないわね……」


 この国には、義務教育なんてものは無い。王侯貴族は基本的に親兄弟や家庭教師の教育によって教養を培うモノだ。

 だがある程度の年齢になると、王侯貴族や商人の子女であれば、社交界や茶会で対人関係を学びつつ様々な知識を蓄える事になる。

 ただ、姫のように、10歳になるとすぐに社交界に出る者も極稀だが存在している。

 彼女達は、王族でも上級貴族の令嬢であったりすれば、幼少期より礼儀作法等を教え込まれているため、ある程度の事はこなせるようだが、下級貴族だとそうはいかない。

 教師を雇うのにかかる金が高いからだ。

 かく言う俺も家のコネで従騎士となってから、要約ちゃんとした教育を受けることが出来たのだから……

 まぁ世の中には、学校と呼ばれる教育機関があるらしいが通ったことがないので詳細は分からない。


………

……


 大きなホールの中では老若男女達が、ドレスやスーツを身に纏い。

 陶磁器に注がれた。ビールやワインを片手に談笑している。

 彼らを照らしているのは、魔石による煌々とした光だ。

 老若男女の正体は、ラージヒル家が治める。ゾルコヴァ地方の豪農や商人、そして有力な家臣達だ。

 

 姫の回りには人だかりが出来ており、対応しているのは姫とその従者である。亜麻色の髪のメイドと、騎士団長のミネルヴァだ。


 話している相手の頭部は、『O』型にハゲ。

 灰色の頭髪は残す所、襟足と鬢程度だが、瞳の輝きは強く野獣のような眼光を放っている。


今話しているのは、紋章からして貴族で恐らくラージヒル家当主か前当主だろう。


「――――ありがとうございます。xxx」


「いえいえ。我が……は海が近く塩――――っています」


 聞き耳を立てているのだが話し声が、聞こえないので少し近づいてみる……


「最近は塩の売れ行きが良く、姫殿下をお呼びするのに相応しい場を提供する事が出来ました」


 三人とも目を引く程美しいので、男たちはそろって鼻の下を伸ばしている。


 しかし、一番一目を引いているのは、エルフの血を引くダイアナだ。

 ダイアナの回りには、是非愛人や後妻にと言いよる中高年と、ハートを射抜かれた青少年達が囲いを作っている。


 アレに巻き込まれたくな……と内心で考えながら、壁を背にしてエールを飲む。

 スッキリとした味わいで美味い。


「相談役は、助けてあげないんですか? 面倒な男たちを追い払ってもらえれば、ミネヴァさんもダイアナさんもコロっと行くかもしれませんよ?」


 そう声を掛けて来たのは、赤髪の少女。ウェスタだった。

 彼女もまた他の三人と同じように、華やかなドレスを纏っており、顔には化粧が施され唇には、紅が引かれている。


「君にはナンパな男に見えるのかもしれないけど、生憎よく知らない女性を口説く程軽くはないよ」


 と説明するも信じてくれてはいなさそうだ。


「それにあれぐらい覇道を歩むのなら、笑みを浮かべたまま余裕であしらわなくちゃいけない。良い予行演習だと思うから、ウェスタさんも混ざってくるといい」


「私は遠慮しておきます。それより私は美味しい料理が食べたいです」


「じゃぁ一緒に行こうか? さっき見て来たけどベーコンやグラタンもあったよ」


「本当ですか!? なら早く確保しないとなくなっちゃいますよ!!」


「あんまり取りすぎちゃダメだよ」


「分かっています」


「やれやれ……」


年下の女の子の扱いはどうにも難しいな……


 内心。大きなため息を吐くと、ウェスタを見失わないようにするためにゆっくりとした足取りで彼女の後を追った。



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