高校時代は楽しかったな 弓道部④

 日本の弓「和弓」の「手の内」というものについてちょっとだけ説明したい。


 和弓は全長が長い。成人男性の背の高さよりずっと長いのだ。

 

 だから握る部分が弓全体でいえば随分下の方にある。


 西洋など大陸の弓だと握りが中央にあるけれど、和弓の長さでそんなことしたら地面に下弭しもはずを突き刺さないといけない。イギリス(グレートブリテン島)のロングボウは握りが中央にあるけど、それは上方に向けて射るのが前提だったからだ。


 和弓は世界的にも類を見ない形をしている。

 真正面に最短距離で威力のある矢を射込めるようになっている。


 では、そんな和弓を西洋弓と同じように握り部分を「べた握り」して射るとどうなるか。


 矢は上に向かって飛び出してしまう。

 弓の下部の力が強いからだ。


 和弓がアーチェリーなどの西洋弓に比べて難しいと云われるのはこのせいだ。

 そこで、真っすぐ前方に打ち出すのに「手の内」というものが重要となってくる。


 つまり上に飛び出さないよう、下へ押さえつける力を生み出す事が「手の内」の大きな役割となる。


 基本的にこの加減がとても難しい。

 おまけに左右方向へブレないようにしっかり握ると同時に、指の一本一本にどんな力を加えたり抜くかを意識する必要もある。

 弓本体に想定以外のおかしな力が加わらないよう注意しないとその力加減がそのまま矢に伝わって思い通りには飛ばない。


 そのため「弓をどう握るのか」「握った弓にどんな力をどれくら加えるのか」を手の内の形を変えながら射手は自分なりの感覚を掴み取る。

 これは練習を通してしか身につかない。


 極めて大きな前方下向きの力の他に、多方向への繊細な力のバランスに微妙な加減が求められる手の内。

 練習ではいろいろな試行錯誤が必要となってくる。

 おまけに微妙で繊細な感覚的なものだから、一射ごとにも変化する。

 それが手の内の難しさである。



 私の場合、だれかに咎められたりすることもなく、好き勝手に朝練ができたおかげで、手の内を含めていろいろ自分なりの改善とか改良などを試すことができたのはとても良かったと思う。


 朝練を続ける日々を繰り返しているうちに、あっという間に夏休みに入った。


 夏休みになっても、週2回程度の部活動の日以外もなぜか毎日土日関係なく朝から夕方まで練習をした。


 つまり夏休みも毎日通学していたということになる。

 それも休みなしで本当に毎日だった。

 いや、授業はなかったから、通部か?


 朝練が丸一日の自主練習になっただけという感覚でいた。

 別に「さあ、今日も張り切って練習しよう!」とか意気込んでいたわけではなくて、夏休みに朝起きると自然に道場に足が向いていただけだった。


 なんであんなにひたむきに、というか他のことを何も考えないで馬鹿みたいに練習を楽しめたのだろう? 


 今でも謎の夏休みだったと思う。


 通学時間は一時間半くらいだったかな。それも全く気にならなかったくらい熱中した。


 なんというか、楽しくてしょうがなかった。


 夢中になって道場で毎日二百射以上は射っていた。


 道場には備え付けの数矢が二十数本あった。

 これを全て足元に置いて二十射くらいしてから矢取りをして、また二十射というのを毎日飽きもしないで繰り返した。


 朝八時くらいから暗くなるまで鏡を見ながらチェックと改善を延々とやった。


 思う存分練習した。


 初めのころ気にしていた射るときの「型」の良し悪しが、実際に的に放った矢の勢い(矢勢)や命中確率でも判断できることに、いつしか自然と気が付いていた。


 洗練された射形で放った矢は、命中という結果で応えてくれる気がした。


 命中だけを優先した惨い射というのもあるので、結果が全てじゃないというのも分かってきた。


 そのうち、上手い射ができなかったときにそれをどう修正すればいいかを自分なりに推察できるようになった。


 手の内も反復練習を飽きるほどやったせいか、いつのまにか自分なりの基本的な力加減が身についていたように思う。

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