「猛獣」扱いされている辺境伯に嫁ぎましたが、想像より幸せでした。

灯練

第1話 行かないでお姉ちゃん

「えっ…お姉ちゃん、お嫁さんになるの?」

私はアルノメア。

大好きな人との別れが、近いうちに来そうです。

「うん、ごめんね、アルノメア…。」

「ねぇ、何でなの?お姉ちゃん居なくなるの、私嫌だよ!」

私は子供の様に訴えた。

「アルノメアっ…お姉ちゃんだって、大好きなあなたと離れたくない。でもっ…でもね。」

「だって、お姉ちゃんがお嫁に行くところって…。」

「ええ、『 猛獣』…ヴィクター卿の所よ。」

猛獣、国中でそう呼ばれている、辺境伯のヴィクター卿。

お姉ちゃんの、旦那様になる人。

「寂しいよ…ずっとお姉ちゃんと一緒だったから。」

「時々お手紙送るから、アルノメア、いい子に…」

「お嬢様、奥様が居間にお呼びです!」

外からメイドさんの声がした。

「…何だろう、行こうか。」

「うん。」

お母様のいる居間に向かう私とお姉ちゃん。

「お母様、どうしたのですか?」

「アルノメア、メリアとお話していたの?」

「ええ…あの、お母様。」

私は、頭に思い浮かんだ一つの発想を口にした。

「あの、お姉ちゃんの代わりに、私がヴィクター卿の所に行きたいのです!」

「……え!?」

お母様の声が裏返ってしまった。

「ちょっと待ってアルノメア…正気なの?」

「ええ。ずっと私は、お姉ちゃんに優しくされてきたから、今度は私が恩返しする番です!」

私は正気だ。

「それでも、もう決まったことだし…!」

「そうよアルノメア!しかもあなたまだ17じゃないの!」

それでも、私の覚悟は出来ていた。

「せめてお手紙だけでもっ!」

「いやいやいやそんなこといわれて・・」

「話は聞いていたぞ。」

「お父様!?」

なんで最初から居なかったの…?

「アルノメア、本当にその覚悟があるなら、手紙を送ってやろう。」

「本当ですかっ!?」

「ああ、本当に覚悟があるならな。」

「あります!」

「ほっ・・本当だな?それでいいんだな?」

なんか凄い念押ししてくる…。

「はい!」

「分かった…その旨を手紙に書いてやろう。」

「元はと言えば、お父様がヴィクター卿の圧に負けて私を差し出したのでは?」

お姉様から鋭い声が飛んだ。

「そう言えばそうねぇ。」

「ええ…。」

まあ、私の大好きなお姉ちゃんを守れるのなら何だって良いのだけれど。

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