第3話 時

 京阪電車の三条駅から鴨川を渡った先に同窓会の会場はあった。17時45分頃に駅に到着して地下から上がった。この時期の6時前はまだまだ明るく、夜が近付いているとまるで感じさせない。


 三条大橋は相変わらずの人込みで、中でも外国人観光客の姿がとても目に付いた。橋の下の鴨川は晴れた空をそのまま反射して、河原には一定の間隔を空けてカップルと思しき男女が座って川を眺めている。橋の隅には托鉢をしている僧侶の姿もあった。


 社会人になって最初の1,2年は、年末年始やゴールデンウィーク、お盆休みに帰省して古い友人とこの辺りで遊んだり、お酒を飲んだりした。

 だが、3年目以降になるとこちらへ帰ってくる日数も減り、戻って来ても実家に顔を出すだけで東京へ戻っていた。3年……、いや、4年ぶりくらいの三条だったが、目に入った風景から托鉢をしている僧侶の声までもオレの記憶の中とほとんど変わっていなかった。




「坂部やん! いや、久しぶりやなぁ、何年ぶりや!?」


 会場のお店の近くにまで行くと、クラスメイトだった友人の1人に声をかけられた。どうやら彼は近くを通りかかる同級生にお店の場所を案内しているようだ。たしかに目的のお店はその周辺まで行くのは容易いが、当のお店を見つけるのが少し難しいように思えた。


 居酒屋チェーン店が層を成すように入ったビルの中、地下へ降りる階段を下った先に目的のお店はあった。友人に案内されるがままに進み、20人ほど入れそうな大きな部屋へと入っていった。高校3年のクラスの人数は30人だったが、全員参加できるはずもなく、これで十分なのだろう。


 座敷になった部屋の中には、すでに10人ほどのクラスメイトが集まっており、高校時代に中のよかったグループで集まって話しているようだった。ざっと中にいる人の顔を見渡したが、平原の姿はまだそこになかった。


 適当に空いている隅っこの席に座ると、仲の良かった男子生徒が何人か集まって声をかけてきた。過去2回の同窓会に参加できていなかったので、10年ぶりに顔を合わせる友人もいる。かわりばんこに隣りにやってくるクラスメイト達にお互い「久しぶり」から始まって、簡単に近況を報告し合った。


 男子は、髭を伸ばしている人がいたり、すでに腹が出ていたり、頭頂部が若干薄くなっている人がいたりと、「大人びた」というよりは「年をとった」の印象が強く見える。もっとも、それは相手から見たオレもそうなのだろうけど……。


 一方の女子は、みんな化粧をして、髪を染めている人も多く、高校の時の印象から明らかに垢抜けて「大人っぽくなった」印象だ。正直、名前を言われるまで誰だかわからなかった人までいるくらいだった。


 そうこうしている間に時計の針は18時を指し、同窓会の幹事を務める元・委員長が立ち上がった。みんなの視線がそこに集まる。まだ到着していない人が何人かいるのか、席にはいくつか空席があり、オレの隣りの席も空いていた。



「隣り座ってもええかな?」



 急に背中から声がかかり、オレは振り向いた。


 そこには、高校の時の印象をそのまま残した平原奈央の姿があった。

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