22節 ご依頼です。あくまでも



「魔人同盟…… 悪いが俺も聞いたことがない。いくつか知ってる秘密結社にも該当するものはなさそうだな。お役に立てず申し訳ない」

 高水は溜息をつきながら、ファイルの束から視線をリョウの方へ戻す。


「ゼウル君の方で何か知ってることはないか? その組織はこちら側のものでも無さそうだからな」

『我も知らないし、魔界にもそのような管轄はなかったと思うがな。だが、反乱魔族が関わっているとみて間違い無いだろう』

 まぁ、魔人だしね。魔族関連だと思うよどう考えても。


「どちらの世界にも確認できないということは、最近造られたものではないでしょうか」

「あぁ、羽宮の言う通りだと俺も考えている」

 高水はルナから僕に視線を合わせた、右側にいる桃華を一瞥しながら。

「で双川君…… その娘が例の妖刀なんだな」

「そうです。名前は桃華って言うんだよね、ちょっと聞いてる桃華? 」

 桃華は部屋を見渡しながら呆けていた、扉付きの棚の方を特に。


「んっ?! あ、アタシ? そうそうアタシは妖刀で今の名前は桃華って言いまーす!銘は桃森紫月で体は月森ハナだけど…… 」

 なるほど…… 意味がわからないね、側から聞いてると。

「ま、まぁ事情は聞いている………… ところで桃華君も魔人同盟の一員? 何だろうか」


「うーん、アタシはただの使いっ走りというか、道具というか、どこどこの悪魔を斬ってこーいって言われて、体を変えながらウロウロしてただけ。でも、このハナの体が一番相性良さそうだからもう変えないけどねっ!」

 

 体に相性とかあるんだね…… とういことは、僕とゼウルも相性が良いってことかな?

『そんなこと、あるわけないだろう。偶然だぞ、偶、然、たまたま近くいたのがお前なだけだ』

「はいはい、わかってるよそれくらい、それで魔人同盟の目的ってなんですかね? 反乱魔族が集まってると言ってたたけど、そうでもないの?」

『む…… 確かにその点は矛盾しているな。我もその部分はわからない。しかし、魔界に反旗を翻した下級魔族たちが、この世界に押し寄せ、集団化しているのは事実だ』

 

 重い空気がのしかかり、響く古い空調の音が余計にそれを増幅させる。

「わかった、魔人同盟や下級魔族たちについては俺の方でも調べておこう。いくつか、心当たりもあるしな。それで双川君が伝えたいこと、とは何かな」

 えっ!? あ、そうかこっちが聞きたかったことは、事前にルナが伝えてるから特に無いかな。


「あぁ、いえ、魔人同盟について聞きたかっただけなので、僕の方からはもう何もないです」

「そうか、じゃあ今度はこちらの番だ。少し頼みたいことがあるんだが、どうだ」


 頼み事、僕は手伝ってあげてもいいと思う。高水さんには色々と世話になってるからね、例えば廃遊園地や大学での件。後処理は高水さんに任せてしまっている、ルナの話では彼は政府の人間とコネがあるらしい。だから成せることだろう。


『ふっ、我はお前の部下ではないのだがな、あくまでも同盟関係の筈だが。あまり調子に乗るなよ』

「いや、ほらでもいいんじゃないの、それくらい。それにさっきお昼代もらったでしょ」

 家を出た後、駅前のパン屋さんで朝食を済ませたがここへ到着すると腹が空いたと喚き出していた、仮にも、三公の一角が。見かねた高水さんが呼びつけたお礼にと千円札を三枚、僕に渡した。


「確かに君達は俺の部下じゃないな、だから相応のお礼はさせてもらうつもりだ」

「本当ですか?! やりますよ、もちろん」

『まったくだから、愚かなのだ。欲望に忠実すぎるな、そんなに欲しいのか金とやらが』


 えーっと、お言葉ですが欲望に忠実なのはどちら様でしょうか? それも食欲に。最近さ、バイトもクビになったし、同居人も増えたからさ、しんどいんだねお財布が。やらないとこの先、毎日コーンフレーク生活に戻るけどいいのそれでも?

『わかった、我らも手伝うとしよう。我の楽しみを奪われるのは困るからな………… コーンフレークとは何だ?』

「そうか、感謝する。やってもらいたいこととは、人探しをしてもらいたい」

 

 何だか、結構なことをやらされそうだ。

「人探しですか!? 探偵みたいに? 」

「まぁ、落ち着いて聞いてくれ、俺たちに今回の下級魔族についての調査を依頼した、神秘に対処する組織の人間が二人、東京で行方がわからなくなっている」


 なんか、前にそんなことを言ってた気がする。神秘に対応する組織、本当にそんなものがあるんだ。魔法省みたいな感じの。

『ふっ、なるほど現代版の悪魔狩りというやつか、英国で吸血鬼とでも戦うのか?』

「今回に関しては、吸血鬼ではないな。実は魔族が関連する。もしかしたら魔人同盟の件とも関係があるかもしれない」


 高水さんの説明によると、神秘に対応する組織、確か通称MH5 (Mystery Handle 5) のエージェント二人が、集まる下級魔族の調査に訪れた後、行方が分からなくなり連絡が取れなくなってるらしい。そしてその二人を探して欲しいということだ。


「わかりました、やってみます…… で、どうやって探せばいいですかね? 人探しなんてやったことないですけど…… 」

「まず、彼らの足取りを追ってみてくれ、双川君の携帯に情報を送る」

『心配するな、我に任せろ。公国ではそのような役割もやっていたからな! 』


 それなら安心、僕だけでやるってわけじゃないからね。

「あっ! アタシも手伝いまーす。街を歩くのは好きだし」

「リョウ、私も………… 」

「いや待て、羽宮は今回は俺と来てくれ。俺の手伝いをしてもらいたい」


 ルナは僕の方を見ると、一瞬ためらったような気がした。

「了解しました…… 」

「よし、今回は解散だ。とりあえずお昼ご飯でも食べてくるといい、必要な情報を送っておく三人とも気をつけてくれ」

「ありがとうございます。じゃあ、またねルナ」


 リョウは高水に軽く一礼をして、部屋を出て行った。雑居ビル特有の薄暗いエレベーターを降り、お昼頃て活気のある街へ出る。

「とりあえず、お昼食べようか。何か食べたい物とかある? 」

「あーっとね、アタシはー らーめん? っていうやつが食べてみたいなー 」


 ラーメンね、確かに良いかも。駅前の繁華街だから、美味しいお店があるかな。

「じゃあ、お昼はラーメンにしようか」

「よーし、行こっ! 」

 財布に余裕もできたし、お店を探そうかな。あれ? こういう時、真っ先に反応しそうなゼウルは……………… ちょっと、どうしたの?

『いや、わからないのだ、この世界に来た魔族どもは何をしているのか。てっきり、公国を捨て、こちらに居住すると考えていたが…… 何か企んでいるのか? ひっくり返すとはなんなのか…… 』


 ゼウル……. 確かにわからないことだらけだ、桃華や妖刀を操る魔人同盟、殺される魔族たち、至る所に隠れている魔獣。何か大変なことが起きるのかもしれない、だから僕も緊張感を持ち、重く考えたほうが良さそうだ。ゼウルみたいに。

『そうだ。わからないのだ我には………… ラーメンがなんなのか。なんだそれは初めて聞く名だ。食べ物なのか? 魔族の名前のようだぞ』



……………… 食べ物のことは、重く考える必要ないのでは?




 リョウと桃華を見送った高水は、一息つくと古びた椅子に腰掛けた。埃が舞うが気にも留めない。

「それで、実際のところ彼らはどうだ? 君の目から見て、対処する必要はありそうか」

「いえ、それはないかと。ゼウルには人間への敵対意思というものが無く、魔界とこの世界のために動いているだけ、桃華は真の部分はわかりませんが、悪意などを感じられません。そしてリョウですが………… 」

 ルナは少し言い淀む、しかしすぐに顔を上げ視線を高水に戻す。

「リョウは不思議です。悪魔であるゼウルに心を開き、殺されそうになった私を信頼し、出会ってすぐの桃華を助けようとする。人間としては少し異常でしょう、でもその心の広さが彼の良いところではないでしょうか」

「長所を教えてくれとは言ってないけどな」

 高水は少し笑いながら、ルナの話を聞き終える。

「ま、お前がそう言うならそうなのだろう。俺はゼウル君は信用に値すると考えている。だから協力を続けたいと願っている」

「えぇ、私もそれがいいと思います」

 高水は深く溜息をつく、そして立ち上がると荷造りを始める。

「羽宮、これからMH5の副長官に会わなければならない…… だから一緒に来てくれ。お前も会ったことはあるから知ってると思うが…… その、あれだ、ちょっと厄介な令嬢だから、彼女にその報告をして欲しい」

「カレンさんですか…… わかりました。元気な方ですからね」

「ほら、噂をすればだ…… ちょっと電話に出るから、準備しててくれ」

「了解です、車の手配をしておきますね」


『………… ちょっと!? タカミ今どこですの?というかトウキョウとはどこですの?』



………… 大変なことになりそうですね。


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