20節 あくまでお別れ

 お前の役目は簡単だ、魔族の力を集めること、そして強い力を持つ奴をここへ連れてくるただ、それだけだ。出来損ないといえど、それくらいはできるだろうな。桃森紫月。………… 制作者に捨てられ、壊れかけたお前を拾い、体を与えた恩を忘れるな。それにお前は、私の所有物だからな駄刀。


 ………… 恩? そんなものあるわけないでしょ。アタシは確かに失敗作、でもあんたは助けたわけじゃない! ただ使ってるだけだからね。

与えられた体だって、自分が要らなくなったやつを押し付けただけ。だから下級の悪魔を斬り続けなきゃならなかったし…… 。


 私達の仲間に妖刀を一振りと二本引き入れたのは正解だったな、私は最高の武器を手に入れられたし、浅ましく在り続けようとする駄刀は下級魔族の魂を集め続けている。上手く活用できている、ガラクタなりに。


 生きるために下級の悪魔とか獣みたいなやつを殺して回った。嫌だった、でもおかげでハナを生かすことはできたよ。それに…… それに、おにいちゃんに会えたし、あと、おにいちゃんの中の悪魔さんとルナさんも。あと、可愛い服も着れたし、お洒落だってできた、素敵なご飯も食べれた…… 美味しかったな!

 また………… 食べたいな…… みんなで。

 でも、もう……………… 。




「桃…… 桃華! 大丈夫!? ルナ、続けて」

「………… おにい…… ちゃん? 」

 良かった、気がついたみたいだ。少し力を入れ過ぎたかと思って心配になった、妖刀と戦うのは初めてだから。

『お前の力ではない、我の力だ! 貸し与えられたものに酔いしれるな。少し多めに解放したのだ今回は。お前は貧弱なのだから、もっと修行を…… 』


 倒れてる桃華にルナが左手をかざしている。戦闘に使うものとは別の淡い、光を寝たきりの体に浴びせている。

 ところで修行って…… どの漫画の影響なんだろうか?

『お前、それはもちろんアレだ。ドラゴ…… 』

「そろそろ、大丈夫だと思います。立てそうですか桃華? 」


 紫の刃を左手に滲ませながら、桃華は立ち上がる、その双眸には…… 涙を浮かべ紫と桃色の水滴が震えていた。

「そろそろ、落ち着いた?…… もう大丈夫だか…… 」

「なんで…… なんでっ!? アタシを助けたの? おにいちゃんを、みんなを殺そうとしたのに…… なんで」

 小さい肩を震わせている激昂しているわけでない、泣いていた、雫を流しながら震えている。

「…… いいんだよ、別に。ほら、なんか訳アリなんでしょ? 教えてくれれば、それでいいからさ…… 殺されかけるのだって、この間もあったから」


 そう、ゼウルと出会ってから…… 何回か死にかけた、空も飛んだし、魔獣と戦わされたり、ルナに殺されかけたり、夜の遊園地にも行った。それに、一週間の記憶もない。

 …… でも、わかったこともある。日常を生きる僕たちは何も知らない、悪魔と恐れられているのは実は魔族なこと、その魔族のほとんどが平和な世界を望んでて、そのために行動してること。怪奇を調査する人達がいて、日頃から対策をしていること。そして、妖刀にも命があること。…… あと凄い魔族は食べ物が好きなこと。


「僕は何も知らなかったし、何も行動しなかった。だから、今自分にできることは全部やりたい。それにゼウルが言ってたんだよ、桃華は操られてるってね」

『まぁ、予想だがな…… あくまでも』

 膝から崩れ落ちた桃華は、泣き続けていた。

年相応の少女のように。

「ごめんなさい…… 本当にごめんね、おにいちゃんをルナさんを傷つけちゃった…… ごめん、ごめんね…… 」

「私は大丈夫です。あなたの攻撃如きでは喰らいませんよ」

 いや、別にそういうことではないんじゃないのかな? そこは張り合う必要ないよね。


「もう、謝らなくていいよ。わかったから、僕たちも、ほら無事だし…… 」

「うん、んっ、ありがとう……おにいちゃん。アタシはね………… ま…… 」

『桃華の話は気になるが…… まずは食事が先だ。夕食を食べずに来たのだぞ…… そっちが最優先だ。行くぞっ、リョウ』

 まったく凄いなこの魔族は…… 興味より食い気…… だけじゃ無さそうだね。

(あぁ、おそらく…… 操っていたやつが、こちらを観ている。多分魔族、それもかなりのやつだ、ここは一度引いたほうがいいだろう)


「桃華も一緒に来なよ…… 夕飯まだでしょ。話はその時でいいからおいでよ、来るでしょ?」

 リョウの差し出した右手を、桃華が掴み立ち上がる。その姿は紛れもなく希望に満ちた少女。

「もっちろん! 当たり前でしょっ、おにいちゃん」

 桃華は笑顔で答えた、幸せそうな顔で。




 予想通りに—— 全てが予想したままになる筈だった。駄刀に食わせることで下級魔族の死体をあえて残させ、それを囮にここに呼びつける。ここまでは完璧だった、餌にかかったのは予想以上の大物であり、それを私の本拠地に連れてくる。だが、だがここから崩れていく。まずガラクタが戦おうとしなかったこと、次に統括局のガワが生きていたこと、最後に聖紋を宿す伝聖者と魔族が共に行動していたこと。この三つは完全に予想外である、天と地がひっくり返ってもあり得ないと考えていたことだ…… だが、おかげで計画をより緻密に進められそうだ。あの駄刀はもういらない、戦力の分析には役に立ったが。さっそく計画を始めるとしよう、私達…… 魔人同盟の。




「あっーとね、たしか魔人同盟って言ったかな! なんかあの建物を本拠地にしてるんだって」

 こちらは、最寄駅の24時間営業ハンバーガーショップ、この時間に空いている店はここしかなかった。この間も来たような…… 。

「魔人同盟…… ?聞いたことがありませんね、殻の調査資料にはない名前だと思います」

「…… で桃華はその魔人…… 同盟の仲間だったの? 」

 包み紙を破り、温かいバーガーを頬張る桃華は口角を上げる。


「そんな訳ないっしょ、アタシはそんなの興味ないし、大体名前からして…… 碌なもんじゃないよ」

『だが、そいつらのために動いてたのだろう。何か他に知ってることは…… 』

「うーん、なんだろ? 正直言うとアタシさ…… 下っ端だからわかんないなー」

 桃華は首を傾げながら、僕の方を見た。


「命令される時も姿が見えないからわかんないだよねっ…… でもね、一回だけ聞いちゃったの、誰かと話してる時にね『自分は上級』って言ってるの! それってさ…… 」

『あぁ…… 上級魔族ということだろうな。まったく……厄介なことになったな。下級や魔獣の群れなら対処は容易い、だがな上級には統率力と知恵がある、これが悪い方に使用されると大変なのだ…… この世界だけではなく、我らの公国をもおびやかすもんだ…… おい、桃華それは我のハンバーガーではないか?』

 

 桃華が盗ったわけではなく、僕が渡した。桃華が、じっと僕の分を見ていたからだ、食べ足りないとでもいうように。

『リョウっ!? どういう訳だ。我のだぞっ! それは、無礼がすぎるぞ』

「それは違う、これは僕のであげようが、どうしようが僕に決める権利がある。だいたいゼウルの分はもう二つあるでしょ」

『む………… むぅ、仕方がない、今日に関しては大目に見よう。まったく食欲に溺れるとは情けないな、桃華は』

 それを、お前がいうか…… 。

「ねぇ桃華、今日はうちに来なよ行く所ないんでしょ。良いよちょっと狭いけど…… 」

「えっ!? 本当に良いのー! ヤッター!!おにいちゃんの家、遊び行きたかったんだよね!それじゃっ、今日はよろしくね! 」



 ………… また同居人が一人増えました。


そして魔人同盟? 一体何をするつもりなのかな。



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