第14話 アンドロイドの墓場

 今はまさにパニックに陥る最も完璧なタイミングだ。


 おおよそ3分前、私たちは恋バナをしていたのに、3分後の今、私たちは多くのアンドロイドのに囲まれ、さらに正体不明な生物に狙われた。


 時々低く控えめな猛獣のような声が聞こえたが、姿を現れることなく、この空き地の周りに徘徊はいかいしているようだ。


 しかし、決して何かに阻止されたから攻撃しないじゃない。むしろ一種の余裕ぶりが伝わってきた。いつでも我々を掴むことができるのだ。


 改めて周囲を見ると、倒れた樹木、倒れたアンドロイドがここに集中している理由は何となくわかった。


 ——ここはアイツのだ。


 でも肝心かんじんなアイツがいったい何かは知らない。せめてその正体が把握できれば。


 一応確認のためアカサに聞いたが、アカサは頭を振った。


 アンドロイドさえ知らない謎の生物か。


 (謎の生物?)


 ずっと現代社会で生活していて、世界にはいろんな生物がいることをすっかり忘れてしまった。魔法は実在するもののように、謎の生物も本当に存在しているのだ。その方向に沿って考えると、あることが急に頭の中に閃いた。


 「聞いたことある」私はこう呟いた。


 「えっ?」林太郎は一応返事をしたが、特に答えを求めていない。


 向こうはしばらく攻撃する気がないので、アカサと林太郎は倒れているアンドロイドたちの様子をチェックしている。


 ダメだ、みんな電源切れてると林太郎の声が聞こえた。


 手伝うべきだとわかっているが、やはり気になる。


 森にいる異常に大きい生物、スピードが速い、抜け殻のように倒れている人々、どっかでこれと似たようなことを聞いたことがある気がする。


 私は記憶を検索している。


 —— 一致している資料は、一件、見つかりました。


 母の声がそう言った。


 これだ!


 「林太郎、アカサ!ドラゴンだ!相手はドラゴンだ!」私は思わず叫び出した。


 前にコミュニティcovenの誰かが話したことだ。ドラコンが飛んでいる時、その巨大な体とは一致しない速さを持っている。力は言うまでもない、魔法使いにとって最も厄介な点は、ドラゴンにとって肉はただのおつまみ、魔力こそ彼らの主食ということだ。要するに、ドラゴンは魔法使いの天敵ということだ。


 この空き地にあちこちで倒れているアンドロイドたちの姿はドラゴンに遭遇して魔力が吸い取られた魔法使いの姿と重なっている。


 「ドラコン?何言ってんの?まさか本当に頭が損傷したのか?」


 「違う!本当にド……」と、まるで何か言っちゃいけない言葉でも言ったみたいに、パキ——と後ろから木の折れた声が聞こえた。


 「危ない!」


 振り返ったら、地面に現れた影と共に、木がこっち側に倒れてくる。素早く横跳びして、身の安全を確認した後すぐアカサたちの姿を探している。


 何人かのアンドロイドが木に押されたが、幸いアカサたちではない。彼らは倒れた木のすぐそばにしゃがんでいる。アカサはいつもの顔をしているが、林太郎の顔は青ざめた。


 とりあえず安心して息を吐く間もなく、木の折れたところから、巨大蜥蜴とかげ吻部ふんぶみたいなものが見えた。全身は赤いうろこに覆われて、爬虫類のような目が光っている。


 この場にいる全員一瞬息を呑んだ。


 「本当に……ドラゴンが……」林太郎が信じられないように呟いた。


 アカサは何も言ってないが、目を大きく開いた。


 当然私もそうだ。何せ、はじめてドラゴンを見たから。


 でも、ドラゴンは本当に存在するという事実より、なぜここにいるかという問題のほうが気になる。


 魔力はドラコンの大好物で、それを嗅ぎ付けると現れる。そして、巣を作るまでここを気に入っているようだ。つまりここは何かしらの魔力の溜まり場だ。だとしたら、おかしい。


 なぜわざわざここを離れて、私たちを襲うのか?


 確かに獣耳の子を発見した場所はそう遠くはない。それでも、私たちを狙う理由はないはずだ。私たちには魔力があるなら別の話だけど。


 ところが、たとえ私たち三人とも魔法使いだとしても、魔力は使われている時だけ察知されるから、ドラゴンは私たちの存在に気付いたことはやはりおかしいのだ。

ふと前イヴァンの言った31世紀の車は充電がいらないことを思い出した。アンドロイドも使っているそのエネルギーはもしかすると魔力と似たようなものなのか?だからドラゴンを引き寄せた?


 そう考えると、辻褄つじつまが合う。


 これはヤバイ。


 「ミヨ、ここは君の知識を拝借します」アカサが言った。


 まさかドラゴンの存在は私が本物の魔法使いということを間接的に証明したのだ。でも、まったくありがたい話ではない。


 「一般的に、ドラゴンは魔力を摂取せっしゅするのだから、これはあくまで仮説だけど、どうやら私たちアンドロイドのエネルギーも吸い取ることができるようだ」


 「つまり、逃げられないと、最終的に彼らと同じ状態になるんですか?」アカサの視線は隣のアンドロイドに落とした。


 「恐らく……」気の毒だが、今はもはや彼らを構う暇がないのだ。


 「対策はあるんですか?」


 「残念ながら、私も知らない……」

 

 魔力を吸い取るドラゴンを敵として、たとえ今の私は立派な魔法使いだとしても、何の役にも立てないのだろう。もともとアンドロイドなら少し勝ち目があるとは思ったけど、今は最悪の場合三人ともここで終わる。倒れているアンドロイドの様子から察して、ドラゴンは機械まで食べる趣味はない、ただエネルギーを奪うだけだ。


 でも、林太郎なら、100パーセント食べられるだろう。


 思わず同情の眼差しで林太郎を見た。


 「怖い怖い怖い!何その目?」林太郎はその尋常じんじょうじゃない気配を感知して、さらに緊張してきたようだ。


 ドラゴンはもう一回森にもぐって、空き地の周辺を回っている。すでに倒された木が押しつぶされた音があちこち響いている。食べ物を遊んでいるのはなかなか品がないのだ。


 どうしよう?


 ——接近アラーム、衝突まで:3秒。


 「来る!」私が叫んだ。


 今回は真正面から、木が折れて、ドラゴンの口が大きく開いているまま、こっちに嚙みつけた。


 アカサは林太郎の襟を持って後ろに下がった。私も斜め方向に下がった。


 「ミヨ!」アカサは大声をあげた。


 左側から、ドラゴンのしっぽが振ってきた。


 ——しまった!


 本当の意味でドストライクだ。その衝撃力で後ろに飛ばされて、木に当たって地面に落下した。


 ——損傷レベル、4、になりました。


 幸いにアンドロイドの体はかなり頑丈だ。でも、痛くはないが、恐怖はある。無論、攻撃されたのは怖いが、もっと怖いのは、いつまでもこの状況から抜けられないことだ。反撃の方法を考えないと、避けるばかりでいつかまたこうしてやられる。そして、ドラゴンの気まぐれが終わったら、食事タイムだ。


 ダメだ。どう考えてもドラゴンには敵えない。


 アカサは私の安否を確認しようとして、こっちへ走ってきた。


 ところが、ドラゴンはその時を狙っているように、アカサに向けて、赤い焔を吐いた。その焔はまさに魔力を取るものだ。普通の焔とは違って、吐いたら終わるんじゃなくて、焔に触れたら魔力は焔を通してドラゴンの方へ流れる。


 「来ちゃダメ!」私はアカサに警告したが、すでに遅かった。


 焔はアカサに真っ直ぐに襲いかかっていき、私はそれを止めようとした感じで無意識に手をあげた。そしたら次の瞬間、焔は本当に方向を変えてこっちに来た。


 ——曲がった!?


 まるで私が焔を自分の方へ引き寄せるようだった。


 しかし、それを考える余裕がない。私は間もなく焔に包まれた。意外と熱くはない。恐らくアンドロイドは痛覚がないためだった。環境アラームによれば、温度は確実に上昇している。


 「ミヨ!」


 「来ないで!」私はアカサを止めた。


 完璧な策が思いついた。


 それは私がここで犠牲することだ。こうなったら、もっと早くドラゴンを挑発ちょうはつして、そのうちに林太郎とアカサを逃げさせればよかった。そしたら、その勇敢さは永遠に語り継がれるのだろうと自嘲した。


 「そのまま」


 エネルギーが取られるのがわかっている。それを感じたのではなく、母の声がそう言ってくれたから。


 「林太郎と」


 エネルギーの数字が速いスピードでゼロに接近する。


 「逃げて!」


 私は最後のエネルギーで叫んだ。だって、今さら、こうする以外、どうしようもなかったじゃない

 

 人生の最期を目先にして、何だか急に、腹が立つ。恐怖でも、感慨でもない、命を取る二回目の火傷に対して、抑えきれない怒りが体中に充満じゅうまんしている。一回目はもう何も覚えていないのに、今この瞬間、アンドロイドには感じられない痛みと苦しみが全身によみがえってきた。


 (熱い、痛い……)拳を握って、意識だけ遠くへと行った。


 目に映るのはもうドラゴンではない、黒い部屋の中だ。私はそこで●●●を見た。


 「やめろ!!!!」


 そして、私は——————

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