第5話 不満はあるにはあるらしい

 彼女氏と連絡がとれない一方で、親を通していくつか、こちらの問題に関する情報は入ってきた。

 まず、向こうの親が家の狭さを問題視していた。

 それで二言目には「家が狭い」だ。自分たちは六畳一間にみかん箱一つで新生活を始めたなどとのろけいてたのに、だ。

 引っ越しの日に新居に向こうの両親が娘(彼女氏)を連れてやってきた。母親は開口一番「こんな狭い家じゃダメだ」である。

 四畳半のフローリングに6畳の畳、廊下の脇に台所、風呂トイレはユニットバスではなくそれぞれ別。確かに二人で住むにもやや狭く、子供ができたら確かにつらい。

 「通勤時間を伸ばしたくないという要望なので、都内で探してここを見つけました。ここなら借り上げ社宅が可能な家賃で、半額が会社の補助になります。狭いのは都内だから仕方ないので、子供が出来たら引っ越すつもりです」

 と説明したが、二言目には「狭い」、「狭い」と言われ続けた。

 住宅というのは立地と広さと家賃のトリレンマ問題で、2つまでは成り立つが3つ全部は無理。それがあって立地を譲り埼玉県で探したのだが、不動産屋に案内された部屋をことごとくダメ出しされ、一ヶ月かかってようやくここに決めた。広さを譲った形だ。そうしたら今度は親から文句を言われ続けた。


 立地が譲れなくなったのは、彼女氏の方が出した唯一絶対の条件が「通勤時間を伸ばしたくない」だったため。それで都内で探して西ヶ原のこの部屋を見つけた。彼女氏がまず気に入って「ここにする!」決めた。それなのにまさか一週間で機嫌を損ねて以後まともに会話もできなくなるなど、誰に想像できよう。


 服装も向こうの親からそれとなく言われた。彼女氏の父親は母親とのデートに常にスーツだったという。それは立派なことだ。服装に気をつけていればこんなことにはならなかったんだろうか。行き先が秋葉原だからとトレーナーとジーンズで出かけたのはこちらの落ち度かもしれない。服装がダサいなら一言言ってほしかった。


 彼女氏の実家で雑談して上記のようにいろいろの情報を得たのだが、実家には彼女氏から「今箱根にいるの♡」といった電話があったようだ。こちらには特になかった。

 自分は盛岡に出張があり、土産も買ってあったので、次に会うときは渡そうと思っていたのだが、渡す機会はまだなく、旅行に行きました戻りましたの連絡もなく、渡す土産があるという話もきかなかった。


 これらとは別に、本当に不満だったことが自分の親を通して伝わってきた。

 今まで「家まで送ってくれたことがなかった」のが不満だという。一緒に出掛けて駅で別れた場合、最寄りの駅から人気のない夜道を10分か15分かけて帰っていたとのこと。朝にいるゴミ捨て場のカラスも怖いと言っていたから、夜道が怖いのは十分理解できる。それが分からなかったのは不徳かもしれない。

 なら「送ってほしい」と、一言あれば簡単に断る話でもなかったのに。


 不満があるなら直接言ってほしかった。喧嘩の一つもしてみたいものだと思った。突然怒り出し、一方的に連絡を拒否するというのは、これから夫婦になる者どうしの関係としてはどう考えてもおかしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る