その⑤

彼女は考えた。

これが私宛だとして、

送り主はどうしたいのか。

宛名も送り主の名も書かないのなんて

よっぽどの馬鹿なのか、

もしくはわざとに決まっている。


知りたくなった。

送り主の名と、その意図を。


学校の靴箱に入っているのだから、

校内の人間でまず、間違いないだろう。

ただ、個人の靴箱を特定するのなんて、

クラスの番号、そしてその中の

出席番号までも把握をしているなんて。

わざわざ調べあげたのなら、

とても気味が悪い。

そう思った。


だが、そこまでしてでも、

私にこの手紙を届けたかったのならば、

その意地と努力だけは認めてやろう、

などと、誰へ当てたものかも

はっきりと分からない

上から目線をしてみたりした。


一体、何処の誰なんだろうか。

それだけが彼女の頭にあった。

どこからともなく湧き出てくる

未知数の興味は、

確実に彼女の意識を支配していた。


後輩なのか、同級生なのか、

もしや、先生なのだろうか、

そんな空想を繰り返した。


いつから例の手紙は、あの靴の上に

いたのだろうか。

朝に靴を入れた時には、あるはずがない。

靴を入れた後に、 置かれたことは

変わるはずのない事象である。


一体、いつから、そこにあったのか。

誰が、いつ、置いたのだろうか。

私の頭の中では、靴箱に

手紙が入っている状態と、

入っていない状態が重なっていた。


まずは、この恋文を、

調べてみることにした。

それだけしか、ヒントがないのだから。

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