第4話 地下一〇〇階に向かって

 ダンジョンに入って五年が経ったと思う。思うっていうのは確証がないからだ。なにせ、ずっとダンジョン内に居るからな。推定二〇歳になった俺の体は着ていた革鎧レザーアーマーが着れないほど大きくなっていた。俺は今、剛人魔術師ドワーフメイジが着ていたオーバコートと蜥蜴兵リザードソルジャーの肩鎧と腕鎧を身に着けていた。その他にもブーツやらズボンやらを倒した魔物から奪って装備を見繕っていた。


 ちなみに武器は保持していない。何故なら異空間から瞬時に武器を取り出す事が出来るようになった為、基本素手で過ごしていた。というか守護九士ナインガードとかいう良く分からない連中以外は素手で十分倒せる。


 最初は殺風景な石造りのダンジョンだったが、今、俺の目の前には森林が広がっていた。


 地下四九階の最深部で地下五〇階へ続く階段を守る様に身長五メートルで赤色の肌を持つ一つ目の巨人――親分巨人ボスギガントが居た。こいつは上級モンスターだ。


「小サキ者ヨ! 私ヲ倒シテミロ!」

「前々から思ってたんだが、ここに居る奴らって破滅願望抱えてないか? どいつもこいつもまるで俺に倒して欲しい口ぶりなんだよな」

「ウオオオオ‼」


 俺の話を無視して親分巨人ボスギガントは持っている棍棒を振り下ろした。


「わざわざ死に急ぐなよ」

 

 人差し指で棍棒を受け止め、弾く! すると敵は尻餅をついた!


「グググ!」

「あばよ」


 俺は尻餅をついた親分巨人ボスギガントに向かって平手で空気を押し出す! 空気は暴風を起こしながら敵に衝突すると親分巨人ボスギガントの半身は弾け散る! 当然、血も噴射していた。俺は吸収短剣ドレインダガーアルムハイムを異空間から瞬時に取り出し半身が無くなった魔物に向けて投げて刺した。


 敵を砂状にして短剣越しに魔物の力を奪う行為は作業と化していた。


 にしても俺って「わざわざ死に急ぐなよ」とか「あばよ」とか言う奴だったけ? 言葉遣いが悪くなっている気がする……無理もないか、ずっと戦い続けてるんだ。性格が変わってもおかしくはない。


「にしても、歯ごたえありすぎだろ。王家の試練ってやつはよ」


 と言いながら俺は短剣を回収して異空間に収納する。そして地下五〇階へと降りて行った。


――――地下五〇階最深部。ここも森林が広がっている階層だった。そして今、俺の目の前に長い白髪と顎の白髭をなびかせている老人が居た。しかも呑気に椅子に座って机にある白コップを口に運んで何かを飲んでいた。


 今の俺には相手の真名や魔力量を看破出来る魔法の眼――《邪道瞳/イビルアイ》を発動できる。この魔法は地下三〇階で魔導士グリオンと名乗っている奴を倒した時に得たものだ。


「《邪道瞳/イビルアイ》発動……真名トレッド・カー……魔力量三億……」


 トレッド・カー……確か千年前勇者と共に行動したと言われている剣王トレッドと同姓同名だな。まさかな。


「その技、グリオンのかね?」

「‼ 確かにグリオンって奴から奪った」

「ほっほほ、奪ったと正直に言うとは」


 老人は愉快そうに言った。


「あんたも守護九士ナインガードとかいうやつか」

「いかにも……守護九士ナインガードが一人。財宝王の右腕……剣王トレッドだのう」

「冗談はよせ。それに剣王トレッドは勇者の右腕と聞いている」

「事実は歪曲するものと覚えた方がいいと思うのう」

「どういう事だ?」


 トレッド・カーは顎の髭を撫でながら遠い目をして語る。


「グリオンと財宝王……レノと我はもともと勇者の仲間だった。共に破壊神を倒すと誓った仲。しかし勇者はレノを嫌った。何故なら聖女殿と仲が良かったからのう」

「聖女……?」

「やはり存在を隠蔽されたか。聖女殿も我々の仲間だった。勇者は聖女を好いていた。だからレノを追い出した、ありとあらゆる罪を着せてな」


 半信半疑だったが、老人の眼は遥か昔を思い出すように景色を見ていた。


「それでどうなった?」

「聖女殿はレノを追いかけた出て行ったのう」

「…………」

「どうしたかの?」

「いや、めっちゃいい人だな! 感動した! 聖女最高だ!」

「そ、そうか」


 俺が目頭を押さえて感極まっていた。てか泣きそうだ。一方、老人は俺を見て少し引いていた。


「レノと聖女殿はお尋ね者になったが、彼らは我々の先回りして破壊神の手下を倒していった。そんな彼らはお尋ね者にも関わらず次第に民衆の支持を得ていたのう」

「それで勇者を見限って、財宝王と一緒に破壊神を倒したのか?」

「まぁ、そんな所かの。今では我が勇者と一緒に破壊神を倒したことになってはいるが」

「信用したわけじゃないけど、生憎俺は財宝王を好んでいるからな。都合のいい事は信じるとしよう」

「ほっほっほ。昔話はもういいかのう……」


 老人は笑った。そして周囲の空気が一気に張り詰めた。剣王トレッドは臨戦態勢を取っていたのだ。


「…………次元破斬剣じげんはざんけんヴァルヴァルフ」


 剣王は何もない空間から大剣を取り出す。そして準備運動するかの様に大剣は片手で八の字で回し続けた。大剣の軌道は虹色に輝いていた。この時点であれは普通の武器じゃないと判断できる。経験上、守護九士ナインガードはみな、この世で唯一無二の魔法のアイテム――固有魔道武具アーティファクトを持っていた。つまり、あの大剣も固有魔道武具アーティファクトだ。


「いくぞい!」

「来い!」


 俺は吸収短剣ドレインダガーアルムハイムを異空間から手元に手繰り寄せ構えるが、剣王は目の前で消えた! 俺は全神経を集中させて敵の気配を探るが気配が感じられない!


「くっ!」


 突如、剣王は死角から現れ、俺を斬りつけようとしたが体を逸らしてギリギリの所で避ける!


「勘がいいのう!」


 剣王は俺を斬りつけた方向に進んでいくと消え、再び死角から現れた!


「ちょこまかと!」

「いつまで避けれるかのう?」


 俺は剣王の一振りを避け続けた。速い! 姿を消されては補足出来ない! だったら広範囲魔法だ! 剣王が出てきた瞬間を狙って片手を上に向けて魔法を発動させる。


「《天嵐電/テンペスト》‼」

「ぬっ!」


 辺り一面、俺の上空を除いて激しく雷が落ち続ける! そして上を見上げると逃げ場が無くした剣王が俺の上空に飛んでいた! 狙い通り!


「そこだぁ!」


 俺は吸収短剣ドレインダガーアルムハイムを投げつけた! しかし剣王は身を翻し避けた。


「空中なら避けれないと思ったのかね」

「いや、思ってないな。《不可視糸/ミラージュスレッド》」

「……うぐっ!」


 俺は予め、手元から発した魔力で不可視の糸を短剣に縫い付けたのだ! そして、今、糸を手繰り寄せ! 剣王の背中に短剣を突き刺した! 吸収短剣ドレインダガーアルムハイムは剣戟の中でも相手の力を奪う、ましてやそれが背中に刺さったんだ! 効果は絶大だ。


「まだ諦めんぞ!」

「勝負は決した。俺の勝ちだ」


 剣王は空中で大剣に魔力を込めて渾身の一振りを喰らわせようとする! 対して俺は拳に魔力を込めた。それも全力で。


 剣王は最初、姿を消しながら俺を攻撃した。最初っから搦め手で攻撃している時点であの老人は分かっていたのだろう俺の魔力量の多さが。俺はここに来るまでにダンジョンのありとあらゆるモンスターと守護九士ナインガード達の技術、魔力、能力含む力の全てを奪った。そんな俺の魔力量は剣王の三〇〇倍……九〇〇億だ。


 俺は飛び、剣王に向けて拳を放つ!


「うおおおおおお!」

「ぬおおおおおお!」


 対する剣王も剣で俺の拳に応える!


 拳と剣が衝突した瞬間、地下五〇階の森林は全て吹き飛んだ。そして、俺の目の前には倒れている剣王が居た。


「ぁ……ぁ、よもや……ここまでとは……さぁ、力と武器を取れ」

「…………分かった」


 俺は剣王の言う事に素直に従った。砂状にし剣王の力を奪い、固有魔道武具アーティファクトである次元破斬剣じげんはざんけんヴァルヴァルフを俺専用の異空間へと収納した。


「さて……行くか」


 俺は更にダンジョンの奥深くへと進んだ。


――――もう何年経ったか分からない……伸びた髪は武器を使って適当に切ったがかなりパサついていた。俺は魔物の気配を感じるだけで反射的に体が動いて敵を倒しに行ってた。完全に魔物を狩る兵器になっていたのだ。


 地下六〇階で深海王リリューウド、地下七〇階で悪魔王バルハロム、地下八〇階で鳳凰シュツナを倒した。やはり一〇階ごとに守護九士ナインガードが居る様だ。ちなみに鳳凰シュツナから奪った能力――絶対的再生能力メビウスリカバリーはよりダンジョン攻略を手助けしてくれるものだった。なんせ、傷どころか疲労感さえ瞬時に回復させてくれるのだから。今まで以上にダンジョンの奥深くへと進む速度が上がっていた。


 今、俺の目の前には沼地帯の地下九〇階に居る守護九士ナインガードの最後の一人、堕天使キュデオが倒れていた。こいつは、時を止める固有魔道武具アーティファクトを持っていて厄介だったが時止めの効果範囲を見破って、遠距離から攻撃する事で倒せた。


 まぁ……遠距離と言っても新しく得た魔法――《瞬間移動/テレポート》で地下八五階に移動して拳から魔力の塊を床に放って地下九〇階までの階層をぶち破って倒すというゴリ押しっぷりだけどな。


「ついに……ここまで来たか」

「気付いたらここまで来ちまっただけだ」

「世界を…………頼む」


 意味深な事を言って堕天使キュデオは消えていった。もちろん俺の吸収短剣ドレインダガーアルムハイムに吸収されていったのだ。


 俺は下の階層に続く階段がある事に気付いた。おかしいな……守護九士ナインガードって言うぐらいなら九人しか居ないと思うんだけどな。

 

 考えても仕方ないので地下九一階へと降りて行った。


 そして俺は出会う、地下一〇〇階で封印されている神という存在に。

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