第4話

 海里と風磨が行ってしまったあの後、教室は妙な静けさに包まれていた。

 チャイムによって、生徒たちはいつも通りに出来ても、教師に意味は無い。

 家の都合、体調不良、教室内での人間関係。教師はみんなに風磨のことを質問する。

 大翔は一通り教室内の様子を見たあと、体調不良だと言いその場を収めた。教師は何度か頷いたあと、通常通りに授業を行った。



 *


 人生初のサボり、風磨の中ではサラーッと流れていく気がしていた。

 日誌を記入して、職員室へ提出する。担任から何があったのか尋ねられた。

 事前に用意していた、家の都合を言うつもりでいたけれど、担任から大翔の名前が出て驚く。

 無理せず早めに言いなさい、と心配の声を受けた。


 好きに制作する環境に、ひとつの変化。


「テーブル代わりに椅子、使います?」

「また戻すの手間じゃない? あったらいいなとは思ってたけど」


 風磨は美術室から椅子を運んできて、海里のそばに置いた。飲み物が入っているビニール袋を乗せる。

 サボった日を境に海里は、昼食を美術室前の廊下で食べるようになっていた。

 片手で食べられるサンドイッチ。SNSで映えを意識したような、見た目にもお腹にもボリュームのあるパン。


「それって、手作りですか?」

「週二回くらいかな、近所で見掛けるんだよね。移動販売ってやつ? 前まではお弁当をパパッと食べてさ、教室から姿消してた。ここ窓からの景色良いし、この為にパン買ったの。キミのおかげだね」


 面と向かって言われて、笑顔を向けられて、くすぐったい気持ちになって風磨はそっぽを向く。


「サボった日のこと、先生から何か言われました?」

「そうしたい気持ちも分からなくはない、でもね、受験生なんだからってさ。キミは? 怒られた?」

「クラスメイトが何か言ったらしくて、フォローかどうかも分からないんですけど、そのせいで心配されました」

「お互いに、もやもや~って感じね。青春て感じがして楽しかったのに」


 青春。学生の頃にしか出来ないこと? 振り返ってあの頃は良かったと、美化される時期? 手のひらの中で、スマートフォンで調べれば、そうなんだろうなって思える回答がいくつも出てくる。

 画面に出てくる内容に風磨は、目を通していった。海里が行動に起こした事と、照らし合わせながら。


「先輩が考える青春は、悪いことをすることなんですか?」

「ドラマとかであるじゃない? だから……そうなのかなって思ってるだけ。そういうのがしたいなって、考えるだけ」


 ストローを咥え、紅茶を飲む。海里の視線は遠くに、考え事をしているみたい。


「ドラマにある学校行事って、楽しそうな気がしませんか? サボるのも良かったですけど。手伝えることがあったら、言ってください」

「付き合うのも、手伝えたりする?」

「幼少期から何年の付き合いとか、そういった意味ですか?」

「男女が、恋愛を含む、お付き合いよ」

「そ、それは……」

「あはは。言ってみただけ。──ねぇ、ここまで話してるなら、友達なのかな?」


 人差し指を立てて、自分と風磨を交互に指した。


「改めて言われたら不思議な感じですけど、連絡先、交換しますか?」


 海里はスマートフォンを取り出す。「位置情報をONにして、振るんだけど、やった事ある?」

「SNSでの繋がりがほとんどだから、こうやってやるんですね、初めてです」


 登録するかどうかの許可が、画面に表示された。


「返信、早くないんですけど、それでもいいなら」


 風磨の言葉に、海里は文面で返した。『ありがとう』と。


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