第三十一章

「えーっ、おめでとう!」


 自然カフェ。


 私と零夜が付き合ったことを報告すると、花織が大袈裟なほど目を丸くして、声を上げた。


「本当、おめでとう」


 翠が微笑む。


「おめでとう」


 陽菜ちゃんが優しく笑った。


「三人とも、ありがとう」


 私も笑ってお礼を言う。


「ねえ。三人は彼氏ほしいな、とか思わないの?」


 彼女達に訊ねると、花織が一番先に「私は」と口を開いた。


「ほしいとは思わないかな。てか、翠がいるから」


 花織が元気よく笑う。

 彼女らしいな、と思った。


「私もほしいとは思わない……か、花織がいる、から……」


 翠が頬を赤らめながら言った。

 彼女も同じことを言っているので、多分二人は恋人みたいなものだ。


「うん。お似合いだと思う」


 笑みを浮かべながら二人に言う。


「私も別に。一人で楽しいから」


 陽菜ちゃんが平然とした顔で言った。


「そっかー、三人はほしいとは思わないか」


 小さく首を傾げる。


「あ、そうだ。陽菜ちゃん、教室で勉強するようになったんだっけ」


「うん。A組には私をいじめたクラスメイトがいるから、C組にしてもらったの」


 陽菜ちゃんの顔は明るかった。


 最近の彼女は明るくなったな、と思う。


「よかったね。頑張って」


「いい進歩だねえ」


 花織が優しく笑っている。


 その時スマホが震えた。

 スマホを見る。


『駅前に着いたんだけど、どこにいる?』


 零夜からだった。


「あーっ!」


 すっかり忘れていた。


「今日、零夜と駅前のショッピングモールで買い物する約束してた!」


 席を立つ。


「おー、デートね。いってらっしゃい」


 陽菜ちゃんが親指を立てた。「グット」という効果音がつきそうだな、と思う。


「えっと、千五百円置いておくね! ごめん、じゃあ!」


 三人に手を振り、カフェを出た。


 きっとすぐ近くに零夜がいるだろう。

 きょろきょろと辺りを見回す。


「あ、千雪」


 後ろから声がしたので振り向くと、そこには手招きをしている零夜。


「ごめん、遅れちゃって」


「大丈夫だよ」


 彼に駆け寄りながら謝る。


「零夜と約束してるのちょっと忘れてて、花織と翠と陽菜ちゃんで、自然カフェで話してた……」


「仲良いね」


 彼が笑みを浮かべた。


「うん」


 私も笑って頷く。


「じゃあ、行こうか」


 手を繋ぎ、私達は歩き出す。


 手に零夜のぬくもりを感じながら、幸せだなあ、と思った。


 きっと彼は、私を裏切らない。

 そんな気がする。


 だから私は零夜を信じることができた。


 本当に、心の底から幸せだと思った。


 そしてこれからも、私は幸せに包まれている。

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