第13話 ゴブリン、観戦する

「くっ——」


 シュウはワンテンポ遅れて、吾輩が受けたのと同じ攻撃をくらいそうになっていることを認識したようだった。火球が眼前に迫る。しかしシュウは怯えて避けることをせずに、あえて立ち向かうことを選択した。シュウは袖の下に隠していたナイフを必要最小限の動きで投擲する。

 

 射出されたナイフ自体の速度は遅い。しかしそれを引き換えに精密機械のようなコントロールがあった。シュウのナイフは石ころほどの火球と衝突し、火花を散らして弾け飛ぶ。当然、ホンマバキの撃った火球も明後日の方向に弾け飛んだ。


:あっぶねえええええええ!

:ホンマバキせっっっっっっこ

:また狡いことやってんなこいつ

:シュウが死んだらどうするんだ!

:また復活するだけやん

:っていうか、今のシュウって一回死んでるからレベル0だろ? 勝てんのか?


「お、お前! いきなり攻撃するだなんて卑怯だぞ!」

「卑怯という言葉はオレにとっては褒め言葉だ」


 吾輩はどちらかといえばホンマバキの考えに賛成だ。戦場においてはどんな手段を使おうが、勝たなくてはならない。負けた者は、死んだ者はその後卑怯だの姑息だのと言うことすらできなくなるのだから。


 しかしだからと言って、シュウの考えを否定するわけでもなかった。シュウは甘いし、青い。だから初めて出会った時、宝箱の陰に隠れる吾輩に対応できなかった。だが、だからこそなのかもしれないが、シュウはダンチューブという世界では人気があったのである。


 無双系と自称するのは少しどうかと思うが、それでも吾輩は少しずつシュウを見る目が変わってきつつあった。


「シュウ、行け!」


 吾輩ここで初めてシュウをニンゲンとではなく名前で呼んだ。


 それを合図にシュウは仕掛ける。

 先手必勝と言わんばかりに、身体中のあちこちに忍ばせたナイフをホンマバキ目掛けて投擲する。ホンマバキはフィジカル自体は大したことない。だからそれを回避することはできないと踏んだのか、小さな火球で撃ち落とそうとした。


 それが命取りだった。


「なっ⁉」


 火球とナイフが衝突する。

 しかし今度はお互いが弾け飛ぶのではなくて、ナイフが火球を突き破って、そのままホンマバキに直行した。予想外の出来事が起こると、人間はまず動けなくなる。それは異世界においても同じことのようだった。ホンマバキはぽかんと口をあけたまま脳天にナイフが突き刺さり、そしてそのまま地面へと倒れ、動かなくなった。


「一度ナイフが火球で弾かれたからといって、二度目もそうなるとはかぎらない。チョキがグーに勝てないと思っていた時点でお前は負けてたんだよ、ホンマバキ」


 シュウが決め台詞らしきものを言う。


:キター!!!!!!!

:うおおおおおおおおおおおおおお!

:勝ったあああああああああああ

:すげええええええええええええええええ

:何が起こってるかわかんねえけどりゃあああああああああ

:【朗報】元無双系ダンチューバーのシュウさん、復活

:ってか最後の決め台詞、ゴブキンのパクリやんwwwwwwww


 視聴者は何があったかはわからなかったようだが、とにかくヒール役のホンマバキが倒れたことで盛り上がってくれたようだった。


 一応解説しておくと、シュウは一度目に普通のナイフを投擲し、二度目に弱い魔法を無効化する金属で作られたナイフを投擲したのだ。一回目のナイフでの弾きがホンマバキの脳内に強く印象に残っていたことから、この結果が生まれたのである。


「リッチ様! ゴブキンさん! 僕勝ちましたよ! 見ててくれましたか!」


 もうすでに舎弟という感じでシュウは笑顔を見せる。

 吾輩はその笑顔にちゃんとしたかたちで報いてやりたいと思った。


「よくやった、シュウ」

「ゴブキンさん……ついに名前で呼んでくれたんですね」

「褒美としてオマエには吾輩への挑戦権をやろう」

「は?」


 吾輩はリングの中に入って、シュウの右手を掴み、上に掲げる。

 そして大声で宣言した。


「いきなりだがオーディション第一合格者を発表させてもらう! 吾輩への挑戦権を最初に獲得したのは無双系ダンチューバー『男女男男女ダンジョン』リーダーのシュウだッッ!」


:ええええええええええええええ

:どういう展開なんですの⁉

:まさかすぎるwwwwwwwwww

:これやらせじゃないよね?

:まあなんでもいいからとにかくすげええええええええええ

:おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 コメントは大盛況だった。


「はあああああああああああああああ⁉」


 シュウも大盛り上がりだった。

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