シャイなサキュバスちゃんのアオハル奮闘記

サンサンカイオー

第1話 春の訪れ

 教室で席に座ると、僕の周りにはすぐに女子たちが集まってきた。透き通るような肌の美人エルフ、澄んだ声の美人ハーピー、水着がよく似合う美人マーメイド……


「ユウマくん、一緒に帰ろ?」

「えー、カラオケ行くって約束したじゃーん!」

「今度の日曜日はお暇ですか?ぜひプールにでも……」

 

 どんどん増える麗しい同級生女子たち。どうやら軽い口論から、僕の取り合いまで始まってしまったようで、まったく困ったもんだ。


「まあまあ君たち、落ち着いて落ち着いて」


「ユウマくんが、はっきりしてくれないんだもん!」

「ねえユウマくん!」

「ユウマくんったらー!」


 混乱は広がるばかり。押し合いへし合いのこんな状況にも関わらず、デレデレになっていた僕ではあるが、さすがにちゃんと止めた方が良いと判断。咄嗟に椅子の上に立つ。


「ゴホンッ!えーと、皆さん!静かにしてくださーい!!」


 大声を上げたとき、混乱とは関係ない場所に佇む女子の後ろ姿が目に入った。くるりと巻き角が生えたロングヘア。この状況に関わることはなく、ひとり落ち着いた雰囲気で居る。席で何やら本を読んでいて、顔はよく見えない。

 

 ……あの角は……サキュバス……かな?


 そう思った瞬間、彼女はパタンと本を閉じ、僕の心を読んだかのようにこちらを向く。少し大きな眼鏡が印象的だが、それ以上に、眼鏡の奥に見える綺麗な瞳の色に思わず吸い込まれるような気持ちになった。彼女は、ほんの少しだけ僕に微笑みを見せた……ような気がした。


 ……


 …………


 いや、途中からなんとなく気付いていたが、今の出来事はもちろん夢である。例え夢だと気付いていても、あの状況を与えられたならば全力で楽しむしかない。思春期真っ只中の僕にとって、それはとてもありがたいシチュエーションの夢なのだから。そのままベッドで仰向けになり、天井を見上げ、架空の種族らしい「神様」に心からの感謝を捧げる。ありがとう、神様。そして、ありがとう、夢に出て来たサキュバスちゃん。


「ユウマー!起きてるのー?朝ご飯食べないのー?」


 夢とは打って変わって何の変哲もない朝だが、今日は高校2年生進級初日、新学期の始まりだ。クラス替えもある。ワンチャン何か起きることを期待しつつ、僕は手早く制服に着替えてダイニングキッチンに向かった。


「母さん、おはよう。いただきまーす」

「あら、今日はちゃんと起きてたのね」


 寝坊は滅多にしないだろうに……などと思いながら、ジャムトーストを頬張る。遅刻するような時間でもないので、朝食はテーブルでゆっくりと味わった。間違っても、トーストを口に咥えたまま、通学路を走ったりはしないのだ。


「いってきまーす」


 高校は近所なので、高1のときから変わらず自転車登校である。マンションの駐輪場で愛車にまたがり、ゆっくりとペダルを漕ぎ出した。地面には桜の花びらがぎっしり。ほとんど葉桜になった桜の木の下を通り抜けて、僕は高校2年生の春を迎える。

 

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