第3話 突然の誘い

「優斗、どれくらい集まった?」

「まあ、普通くらいだな」


 愛理と合流した俺は、自分のストレージにある研磨石の数を見る。52個と表示されているので、愛理の話通りの数が取れたと思う。その画面を愛理に見せると、彼女は素っ頓狂な声を上げた。


「ええええっ!? どこが普通なの!? おかしくない!?」

「いや、愛理が言ったんだろ。だいたい50個集まるって」

「一日でね!? あと二か所ダンジョン回って、二人の集めた量を合わせて50個ね!?」


 ん……? そうだったか、だとしたらラッキーだな。


「まあ、早めに集まりそうでよかったよな」


 ストレージ間の移動をさせながら、興奮気味の愛理に俺は言う。これでもまだ四分の一なのだ。まだまだ先は長い。


 研磨石を全て渡し終えると、俺のストレージには最初からある物と、いくつかの鉱石、そして「モビ」だけが残っていた。ストレージの残りはまだ余裕はあるが、もう少し整理したい気もする。


「じゃあ、次のダンジョンにいこっか」

「え、まだ回るの?」

「当然! 配信始まる直前までやるよ!」


 妙に熱量がある愛理に付き合って、俺はまた次のダンジョンに向かう羽目になった。次の場所は電車で少し移動しなければならない。全く、俺がフリーターでよかったな。


「そういえば、魔物をテイムしたんだけど」


 移動中という事で、手持無沙汰になったのでテイミングの事を聞いておくことにした。


「え? テイム? 本当に?」

「ああ、モーラビットって魔物なんだけど」


 そう言って俺は物理ストレージの「モビ」と書かれた項目をホールドする。すると魔物の詳細が表示される。


名称:モビ

種族:モーラビットLv1

力:1

知:1

体:1

速:2


「わ、ホントだすごい! テイムモンスターなんて初めて見た!」

「それって弱すぎて誰も使ってないって事?」

「確率が低すぎて滅多にお目にかかれないって事!」


 出しておけば自動で主人を守ってくれる存在で、餌となる素材をつぎ込めば成長させることもできる。とのことだった。


「へえ、強化素材とかあるんだ」

「ちょっとこれも数が必要だけどね、対応した素材があればストレージ内で加工して強化ができるはずだけど」


 今表示されているステータスの横に「+」マークがあったので押してみる。するといくつかの素材が表示されて、灰色になっている強化ボタンがあった。


 強化素材の収集状況は、青い鉱石が10/20、青い薬草が0/10、するどい牙が0/1だった。


「ふーん、強くしといたほうがよさそうだな」

「そうだね、結構際限なく強くなるらしいから、安全にダンジョン探索するなら強くしておいて損は無いよ――あ、ちょっと待ってね」


 愛理はそう言うと、自分のクラウドストレージを漁り始める。しばらくさがした後、俺のストレージにアイテムが送られてきた。中身はモビの強化素材だ。


「ボクのレベルまで来るとここら辺の素材は余ってるから、一回の強化分はプレゼントしてあげる。研磨石のお礼だと思って受け取って」

「あ、ああ、ありがとう」


 返事をして、俺はモビのステータス画面から「強化」ボタンをタップする。一瞬だけ画面が光ったと思うと、モビのステータスが上昇した。


名称:モビ

種族:モーラビットLv2

力:2

知:1

体:1

速:3


 力と速が上がったという事は、すばしっこくなって攻撃力が上がったという事だろうか? モビの姿を見ると、そこまで変化した様子もないが、まあこんなものなんだろう。



――



「じゃあ次はここ! 今度は左右逆に担当しよう!」


 どうやら、さっきのダンジョンで愛理は10個も取れなかったらしく、運の悪さを何とかしたいらしい。担当を逆にしたところで、運の悪さはどうしようもないと思うんだが……まあ、いいや


 そういう訳で俺はダンジョンを探索しつつ、ARカメラでモビの強化素材をついでに探す事にする。ダンジョン探索を頑張るつもりは無いが、あのモフっとした見た目はペット代わりになりそうだったので、素材採取だけしにダンジョンにもぐってもいいかもしれない。


 俺は愛理と別れたところでモビをストレージから召喚する。


「ピキー!」


 人懐っこそうな鳴き声と共に現れると、モビは周囲をひとしきり走り回ってから頭頂部に腰を落ち着ける。どうやら周囲を警戒してくれているらしい。


「よし、行くか」

「キュッ!」


 言葉が通じているのかいないのか、よくわからないまま俺たちはピッケルを担いで道を進んでいく。


 途中にある採掘ポイントにピッケルを振り下ろしては、研磨石をストレージへと入れていく。青い薬草もついでにとっておこうという事で、ARカメラを頼りにいくつかの草地を刈って行く。


 それはそうと、カメラを構えながら採取しなきゃいけないの、結構めんどくさいな。どうにかできるといいんだけど……


 そう思いながらピッケルを振り下ろすと、金色に光る塊がこぼれ落ちた。


「おっ?」


 金目のものかもしれないし気になったのでカメラ越しに確認すると、確認した瞬間に消滅してしまった。


「???」


 周囲を見たり、ストレージを確認するが、何も変化が無いように見える。むしろ、俺が拾ったと思ったのが気のせいだったのかもしれないと思えるほどだった。


「……何だったんだ」


 俺が不思議に思っていると、ストレージのアイテムが唐突に増えた。金色の石が反映されたのかと思ったが、モビが魔物を倒して、その素材がストレージに格納されたようだ。


 入ってきたのは小さな皮とモグラの爪、そしてとがった牙。採取していた青い鉱石とか薬草と合わせれば、モビをもう一段階強化できそうだった。


「モビ、戻ってきて」

「キューッ!」


 俺が声を掛けると、モビが赤黒くなっている爪を光らせながら戻ってくる。そうか、モビ自身モーラビットを倒した直後だもんな、そりゃあ血まみれの爪で戻ってくるか。


 モビがストレージに戻ったのを確認して、ステータス画面から強化を行う。その結果、ステータスがまた上昇した。


名称:モビ

種族:モーラビットLv3

力:2

知:2

体:1

速:4


 この傾向を見ると、どうやら速のパラメータがよく伸びるらしい。その代わり、体の伸びが今ひとつで、いわゆる「当たったら死ぬ」タイプの魔物だという事が分かった。


 俺はもう一度モビを呼び出して、周囲の警戒をさせる。


「キュイッ!」


 可愛らしく鳴いて、再び頭に登る。心なしか重量が増しているように感じて、俺はなんとなく「育ってるんだなぁ」と思った。



――



「さっきのと合わせて68個……うーん、物欲センサーが恨めしい」


 待ち合わせ場所に戻ると、愛理がぐったりした様子で待っていた。どうやら本当に全然集まらなかったらしい。


「初心者用ダンジョンじゃ副産物も望めないし、最悪だよー……」

「とりあえず、おつかれ」


 俺はそう言って、取れた研磨石57個を愛理のストレージに異動させる。


「ありがと……ってここでもこんなに取ってるの!? 物欲センサーぶっ壊れてない!?」

「物欲センサーが何か分からないけど、とりあえず俺自身は何も不調は無いぞ」


 愛理は時々訳の分からない言葉を使う。少なくとも俺は健康そのもので、道具類も渡されたばかりなので壊れてはいないはずだ。


「それより、採掘してる時、金色の欠片が出てきたような気がするんだが、ストレージにもどこにも入ってないんだ」


 あれはいったい何だったのか、わからなくて不安になったので聞いてみることにした。


「どこにも入ってない? ちょっと見せて」


 愛理に識別票を渡してチェックしてもらう。さすがに何か光の加減で見間違えたにしては、はっきりと見えていた。一体あれは何だったのか。


「んー……あっ」

「分かったか?」


 愛理が声を上げたのに反応して、俺は問いかける。


「これこれ、魔石だよ」


 そう言って彼女が見せてくれたのは、ストレージ容量の端に表示された菱形の模様だった。その菱形は四分割されており、一番下の小さい菱形が光っていた。


「これは強力な魔法を使うときとかに使うやつだね、あとはテイムモンスター関連でも何か使った気がするけど、あんまりテイム成功する人がいないから忘れちゃった」

「ふーん」


 てことは、使おうとすれば俺も魔法を使えるんだろうか?


「ま、使いたいなら魔法の使用申請をしないとね、高レベルの魔法はゾハルエネルギー取り扱い免許とかも必要になってくるし」


 俺のはかない幻想は早々に打ち砕かれた。免許とか講習とかは面倒なのであまりとりたくはない。


「それにしても、今125個かぁ……」


 そう言いながら、愛理は自分のストレージをまじまじと見る。このペースで行けば、今日あと一つ回ってから、明日一つ回ればそれなりの量は揃いそうである。


「じゃあ愛理、もう一箇所回ったらまた明日――」

「ね、優斗、ボクの配信に出てみない?」


 唐突に、愛理は俺の手を取ってそう言った。

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