第43話 色欲

                色欲


性欲を罪と捉えるのはその使い方、捉え方に問題があるのだと俺は思っている。

性欲は人間が子孫を残すうえで必須のものだ。それを自分の快楽のままに自分を慰め、他の人を犯したりするのが問題なのだ。

それらの行為によって性的なものはタブーであり、社会の内在的な意識によって危険視されているのだろう。


本当は大切で、聖なるものであるにも関わらず・・・・・・

これを悪しきものに陥れたのも、一概には言えないが恐らくは負の感情を古代文明にばらまかれたせいかもしれない。

野性的で、残忍な方法で達成される性欲の解消は悪魔的所業である。

そういったことはやはり愛した者同士で行い、余分な性エネルギーは他の自分が成す必要のある分野に注ぐべきだ。例えば勉強とか身体づくりとか、仕事とかに。


・・・・・・人間は所詮動物で、他者を欲望のままに犯すことを是としないのは生物に対する冒涜だって?

わかってないなあ。人間、いや生物は確かに遺伝子を運ぶ舟みたいなものだ。本能のままに従い犯し、残すものを残していくものなのだろう。

しかし、それはあくまで野性的なものであって世界的なバランスを乱しているのだ。

愛に生き、愛を伝える。それが本来の色欲の在り方だ。


だって愛はこの物質世界において普遍的なもので・・・・・・・


あれ、俺ってば何考えてるんだろ?

前までこんな考え方しなかったのに。

欲望のままに振る舞うのもまた良しと思っていたのに。

俺の心も、段々と人間らしさを失ってきているのかもしれない。

だけどもしかしたら、愛の在り方の追求こそがこの星が人類に対して望んでいる物なのかもしれない・・・・・・


2月14日

いつも通りの朝。冬もそろそろ終わりに近づいてきたころだがまだ朝日が昇り切るには早い時間だ。

俺はチヨを起こさないようにゆっくりとトイレに向かおうとしたがかすかにチヨの部屋の扉から明かりが零れてきていた。

いつもならこの時間はまだチヨは寝ていて部屋の明かりはまだついていないはずだ。


「チヨ?起きてるの?」

一応昨日のうちに俺が起きて、チヨがまだ寝ていたら起こしてくれと頼まれていたので部屋の前から声をかける。


「はーい!起きてますよ!」

チヨが部屋の中から返事をしてくれた。どうやらもう起きていたらしい。

ガチャリと部屋の扉が開き、チヨが顔を出してきた。すでに制服にも着替えている。


「もう準備したのか?ずいぶんと早いな」


「ちょっと早く起きてしまって・・・・・・せっかくだから最後に詰め込んでおこうと思って」

チヨが小さくあくびをする。目を瞑りながら大きく開いているが、ちゃんと口元を手で隠すのは昔から変わらない。

そんなチヨもそろそろ中学生活を終えて高校生になろうとしている。俺がなることのなかった高校生。一体チヨはどんな高校生活を送るのだろうか?


「おっと、考え事をしてる暇はないな。今から弁当作るけど、何か入れてほしいものとかある?」


「いえ!アルトさんにお任せします!せっかくなのでお弁当のナカイは楽しみにしたいです!」


「そっか。じゃあココアかなんかあったかい物を作る前に入れてくるよ。後少しだから頑張ってくれ!」


「はい!ありがとうございます!」

満面の笑みで受け答えしてくれる。俺というしがらみがいなくなればきっとこの子はいろんな場所でたくさんの人たちに愛されるだろう。

それはきっと、とてもいいことだ。

俺は部屋の扉を閉めて弁当を作り終わるまでの流れを考えながら急ぎ足でトイレに向かった。



「ではそろそろ、行ってきますね!」


「おう!頑張ってきてな!」

時計は午前7時を少しばかり超えた頃を指している。いつも寮から学校に行く時間よりも少しばかり早めの登校である。

受験本番、いつもの模擬試験とは違って受験を受ける高校まで行かなければならない。だが、受験開始時間は9時から。普段の学校の二限が始まるぐらいの時間である。

受験する高校までは最寄り駅の電車を使っておよそ40分ほど。受験を受ける高校自体は8時から開いているので早めに行って勉強していたいらしい。


「受験票持ったか?筆記用具持ったか?カイロ持った?スマホ持った?弁当入れた?」


「もう、心配しすぎですよ。大丈夫です!全部入れました!」


「それならよかった。じゃあ今までの頑張り、全部ぶつけてこい!」


「はい!行ってきます!」

扉を開き、外に出て俺に手を振りながらチヨは家を出ていった。俺も扉が閉まるまで手を振ってチヨを見送る。

ガチャリと扉が閉まり、一応扉の鍵を閉めておく。


・・・・・・

とうとう受験か・・・・・・今日は朝からずっとどこか趣深さのようなものを感じる。

5年間、今年の夏で6年になるがずっと過ごしてきたチヨがここまで成長して安心感と共にひしひしと感動が押し寄せてくる。正直少し泣きそうである。


「・・・・・・よし!」

俺は少し涙が出てきた目を腕でこすり、本部へ行くための準備を始めるのであった。


・・・・・・

この世にはたくさんの問題がある。知識のある人間として生まれた定めなのか、それとも生物として生まれてきた宿命なのか。

人類は互いに憎み合い、傷つけあってきた。それは古代の時代、まあ世界史的な古代ではあるがその時代から搾取される側と搾取する側という大きな壁が存在している。

人類が知性を得て、文明を築いてきた現代も尚、その在り方はいまだに変わらない。

何故人類は奪い合い、失い続けなければならないのか。そんなことをいつまで続けるのだろうか?

もう、そんな血で血を洗う在り方を終わらせようではないか。もう誰も傷つくことなく平穏で個人、個人に差がない新しい時代にしようじゃあないか!


「というわけで、俺はバレンタインデーなんて必要ないと思うのですが、皆さんは如何だろうか?」


「相変わらず本題に入るまでが長いな」

旦那が呆れた顔をして俺の話への応対をする。

ここは会議室。普段は特別な会議や襲来の際に出撃した俺たちに指示を出す場所なのだが、今日の朝の朝礼からいまいち男性陣の指揮が高くない。ということがあり、旦那が心配していたので俺は男性陣を会議室に集めてその原因を無くそうと思ったのだ。


「だが、みんなそうだろう!?毎年毎年、色鮮やかに彩られた店!その中には女の子が野郎どもに送るチョコが売られている!それを見るたびに毎年思うのだ!ああ、今年こそもらえるんじゃないか?俺にもそろそろ春が来てもいいんじゃないかと!

だが俺達には誰も送ってこない!もらえるとしたらせいぜい母親からか姉妹のどちらかがいる場合だろう!?それで学校なんて行ってみろ、ダチ共で集まって何個もらったという話になり『俺、今年もチョコもらえたよ、母さんから、妹から、姉から』なんていう会話を毎年続けなければいけない!

一方、他の男はどうだ?こっそりと、それも放課後に二人きりにでもなってこっそりチョコをもらっている!それでいいのか!?そんなことがあっても良いのか!?」


「いや。いいわけがない!」「俺達にもチョコを!」「差別するな!」「俺達にも人権を!」

「チョコをもらうというあって当然の権利が俺達にもある!」


「そうだ!その通りだ!これは決して許されるものではない!俺もお前たちと同じくまともにもらったことがない人間だ!お前たちと同じように毎年心に傷を負っている一匹狼だ!

俺たちはそれを許容していいのか!?いや、いいわけがない!傷を舐め合うのはこれで最後だ!声を上げろ!権利を主張しろ!武器(パイ)を持て!今すぐチョコを独占し、愉悦に浸るアルファメイルどもに鉄槌を下さんッッッッッッッッ!!!!!!!!」


「ウオオオオオオ!!!!!」

同志たちがパイを持ち天に掲げる。そうだ、俺たちは今から戦場(町)へと向かう俺達とは生きる世界の違うモテ男たちに天罰を下すのだ!


「待て待て待て!いつそんなパイを作った!?」


「一昨日のうちに、暇だったからさ。安全性と美味しさは保障するぜ。一個一個憎しみ(愛情)込めて作ったからよ」


「明らかに読みがおかしかったぞ、読みが。だがそれでは計画的なテロ行為だ!見過ごすわけにはいかん!」


「何を言うか!アンタだって狙われる対象なんだぜ、旦那!」


「何故俺も!?」


「よ~し、同志どもよく聞け!旦那はな、大道龍治はな、すごくいい女と婚約を結んでいる!整いながらもどこか幼さを残した童顔な顔つき、それに相反して山の如く突き出した胸!キュッと締まったウエストに見てて穏やかに成れないほどのヒップ!そして子どもと接する時の女神のような微笑みとささやき声のように美しい声音!

そんな素晴らしい人を、旦那は独占している!そんなことが許されるのか!?」


「「「「「許されるわけがない!!!!!」」」」」

よし、全員賛同したな。


「待て待て、待った待った、今はバレンタインを無くそうという会議じゃないのか?」


「うるせー!今俺たちを刺激するな!すぐにでも投げつける準備はできているんだぞ!」

俺と同志たち片手にパイを持ち、すぐに投げられる体勢に入る。狙いの的は俺の初恋相手を奪った金髪頭の筋肉男だ!


「だが、それならアルトもそうじゃないか!?一緒にチヨ君と暮らしているではないか?」


・・・・・・あ、やべ。ノリに乗りすぎてその返しは想定してなかった。


「チヨ君だってとてもかわいらしい子じゃないか。会うたびにアルトさん、アルトさんって嬉しそうに言っている姿も見えるし、共に古代文明の暗号を解読している時もアルトさんのためにと言っていたし、初詣の時なんて仲良くべったりしてたじゃないか!?」


うわ、見られてた~。このことをチヨに行ったらめっちゃ恥ずかしがるんだろうなあ。まあその姿も少し見てみたいが。


「「「「「「それで、二人とも」」」」」」

同志がなぜか二人ともと言ってくる。もしかして俺も投げつけられる対象になってしまったのだろうか?


「待て!待ってくれ同志よ!話せばわかる!俺とチヨはそんな関係じゃ・・・・・・」


「でもバレンタインデーの日にチョコはもらったことがあるのだろう?」

同志の一人が俺に問いかけてく。嘘をついたら余計に危ないかもしれない。ここは正直に言おう。


「ああ、あるぞ」


「もらった時の感想を手短にどうぞ」


「めっちゃ嬉しかった。後、照れながら渡してくるチヨが毎年めっちゃ可愛いです」

スパンと勢いよく同志たちからパイを投げつけられてしまった。

※残ったパイはしっかり焼いてみんなで食べました



「あ~ひどい目に遭った」

時刻は正午。先ほどみんなで慰め合いながら(俺は罵倒を受けながら)パイを食べたのであまりお腹はすいておらず、いつもよりも特訓の時間が遅めのスタートだったのでまとまった休憩することなく続けていた。

今は小休憩の時間。水分を摂ったり、軽くストレッチをしながら過ごしている時間である。


「でも、うまかったぞアルトの作ったパイ」

旦那が水筒を飲みながら先ほどのパイの味をほめてくれたが、投げられたのが俺だけだったので少しだけ不服である。


「まあ、来年こそ全員で旦那にぶちまけてやるからな!」


「ちゃんとそのあとの焼く分も残しておいてくれよ」


「残しておくわけないだろ!今年投げつけられなかった分、2倍にしてやる!」

俺と旦那は互いに笑いながら会話を続ける。


「そういえば、旦那。桜田神社について何かわかったことはあるのか?」


「ああ・・・・・・その事か・・・・・・」

先ほどとはうって変わって急にテンションが下がったような雰囲気を醸し出す。顔には出さないようにはしているのだろうが声の感じがいつもと違うのですぐにわかってしまう。


「なんか、あったのか?一応、チヨが10年間育った場所だから気になる」


「そうだな・・・・・・あのな、アルト。これは推測なのだが・・・・・・」

旦那が重い口を開こうとした瞬間、本部内にサイレンが響き渡る。数か月ぶりに鳴り渡る警告の音。特訓部屋の中に放送が入る!


「キャプテン、ミスター・アルト!強い紫の力の反応を検知しました!」


「了解!すぐに向かう!」

俺と旦那は顔を一瞬だけ合わせて会議室へと走った。



「敵は今どこにいる!?」


「まだ現れていません。ですが時間の問題かと思われます。場所は本部より北へ80キロ。山脈地帯です。ここから北東へ15キロほど進むと住宅街があります」

スクリーンにはヒビが少しだけ入った空間が映し出されている。今すぐにでもその場所が割れて顕現してもおかしくはないだろう。


「アルト、出れるか?」


「ああ、もちろんだ!」

俺はすぐに上着を着てヘリが待っている地上へと出ようとする。


「アルト」


「どうした、旦那?」


「無理はしないでくれ。万が一危険を感じたら即撤退。魔祓いの空間の中で一時的に封印する」

スーロが使っていた獣の時は確かに魔祓いの空間に封じ込めることは成功した。

だが、俺の感覚で二日ほどしかあの空間を維持できないことが分かった。旦那にもそのことを伝えてあるので一時的な封印と言っている。

だが、封印中は金の力を維持しなくてはならないため抑止の力の浸食が早まる可能性がある。決して理想的な退避方法ではないが、やられてしまっては元も子もない。

まあ、そんなこともあるが今日はそれ以上に・・・・・・


「悪いが旦那!それはできない」


「どうしてだ?」

旦那がいつもよりもやさしめな口調で疑問を聞いてくる。こういう時、変に圧をかけてくることがないから遠慮なく言える。ありがたいものだ。


「今日だけは負けられないのさ。俺よりも、俺たち以上に頑張っている子がいる。だから今日は、今日に限っては撤退の二文字はなしだ。そいつをぶっ倒して、スッキリした状態で『お帰り』って言ってやりたいのさ」

旦那はしばらく黙った後、ため息をつきながら口を開いた。


「わかった。今までの戦いで得た経験、そして俺たちとの特訓で得た事全部ぶつけてこい!」


「ああ、行ってくるぜ!見届けてくれよ!」


「援護は任せて!」「またドローンで攻撃するからな!」「なんかあったらカメラに合図しろよな!」

いろんな人からの声を背に受けながら俺はヘリに向かって走っていった。


ヘリに乗り、目的地まで接近すると鏡を思い切り割ったような音が聞こえてきた。その音が鳴り終わると次は終焉を告げるラッパの音。ヘリの音を上回るほどに辺り一帯に響き渡る。


「あー、もううるせえな!」

俺は金色の右腕と胸の龍玉を展開する。


「すんません!ここまででいいです!ありがとうございました!」


「え?ここまでって?」

俺はベルトを外してヘリの扉を開く。そして俺はそこから身を投げ出した。


「ちょっと!?アルトさん!?」

ヘリから出るときに運転してくれていた人が何か言っていたようだが反応できなかった。

身体が地面に向かいながらだが、急いで身体を変化させる。

笛の音が俺の耳の中に入ってくる。準備は完了した!


「輝きやがれ、シュラバァァァァァァァァ!!!!!!!!」


俺の身体を淡い虹色の光が包み込む!!!!!!!


光が晴れると、宙に浮いた金色の巨人が現れた。正午の光に照らされたその姿は神々しさそのものであった。


巨人は光の速さで目的地へと向かう。

顕現したのは山羊の角を生やした獣。口は草食動物のような歯は白く、生い茂った体毛は些細な攻撃は跳ね返してしまいそうなほど。尾は蠍の如く細長く、下腹部にはハートのマークが描かれている。

地上に落ちてきて、砂埃と共に木々の折れる音が響き渡り、鳥たちが一斉に逃げていく。獣が着陸した瞬間、広がる青空が段々と黒い闇に呑み込まれていく。


だが、それを許さないとばかりに巨人は空中から獣に飛び蹴りを入れる!

左頬を殴られた獣は勢いに負けて倒れこんでしまう。

すかさず巨人は胸につけている龍玉を赤く光らせる。赤い光は巨人の身体を包み込みその姿を変貌させる。

胸の龍玉は陰陽対極図のようになり、身体に赤いラインが入る。そして左腕が完全に右手と同じものになった。

巨人は龍玉を虹色に輝かせて、両手を胸元に持っていき光を腕に集中させる。そして両手を高く掲げた。世界が虹色の光に包まれていく・・・・・・

魔祓いの空間が作られてすぐさま巨人は獣に向かって走っていった。獣は両手を使って抑え込もうとするが巨人は腕でガードして蹴りを腹部に入れる。


獣が怯んだすきに巨人は右腕から光弾を一発、獣の顔面に投げつける!

赤い煙が広がり、そのすきに巨人は獣の尻尾に回り込む。それを掴み、力の限りに振り回して適当なところへ投げ捨てる!

巨人は角に手の甲を当てて、赤い光を集中させる・・・・・・


だが、そうはさせないと言わんばかりに獣は尻尾を一気に伸ばし巨人の首を掴んだ!

かなり強い力で締め付けられ、巨人が苦しむ。両手に貯めたエネルギーを使って引きちぎろうとするが、硬すぎるせいで切れ目さえも入らない!

獣は尻尾を空へと上げて、巨人を掴んだまま地面へとたたき落とす。何回も何回も・・・・・・

叩き落とされるたびに巨人から叫び声が上がる!


焦りすぎ、そして何度も大きなダメージを負った影響で体の血の如く輝く赤きラインが消え始める!命の限界が近くなってきているのだ!

巨人は何とか立ち上がったが、首に尻尾を絞めつけられたまま紫色の大きな光線を下腹部のハートから放出して巨人を吹き飛ばした!

巨人が地面に倒れ込む・・・・・・

身体の光が消えていき、笛の音が乱雑に鳴り響く・・・・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

国語から始まった受験本番。古文の問題で少し苦戦はしたものの何とか乗り切ることができた。現代文や漢字は小説家志望の私にとっては得意な範囲なので余裕で解き終えることができた。リスニングの問題はあまり勉強してこなかったが私にとってはわかりやすい内容であったし、聞きやすかったのでまあ大丈夫だろう。


数学に関しては・・・・・・まあ頑張った方だと思う。計算はアルトさんと頑張って解いてきたし、関数の問題も3問目以外は解くことができた。だけど問題なのは図形の証明だ。計算も入ってくるが何がどうなってるかを説明しなければならず、いくら国語が得意とはいえ図形の証明は全く何を書けばいいのか見当がつかなかった。それらしいことを書いてみたが最後までいまいちな証明だった。


外国語はアルトさんがかなり得意で何をどう勉強すればいいのかをみっちり教えてもらったので安定して解くことができた。改めて単語や文法などの基礎は大事だと本番になって気づかされた。


さあ、残りの科目は理科と社会。理科は生物が出れば高得点は取れるはず。お願いだから物理、特に運動の計算と食塩水の問題だけは出ないで・・・・・・!最後まで公式が覚えきれなかったから!

社会は様々な時事問題を出してくるので、ニュースや新聞を見ていればわかる。アルトさんもこのためだけに新聞を買ってきてくれるようになったのだから頑張らないと!

まあ、それは置いておくとして・・・・・・


(体育館、寒すぎる!)


受験こそ受験番号の順番で教室に振り分けられたのだが、何故か昼食を食べる場所は集合場所である体育館であった。そう、集合場所も教室なんかではなく体育館だったのだ!おまけに暖房器具が四隅にしか置かれていない!これでは真ん中の方に暖かい空気は来やしない・・・・・・

迂闊だった。教室に朝早くに行って勉強できると思ったらまさか机がない椅子だけ並べられた体育館で待機させられるとは・・・・・・


朝はとびっきり寒いし、たくさん教材持っていったのに勉強できたことといえば単語と公式の確認だけ・・・・・・おまけにせっかくの昼ご飯もこんな寒い空間で食べなければいけない。

はあ、と皆に気づかれないぐらい小さなため息をつき、アルトさん冷えないようにとたくさん入れてくれたカイロを追加で袋から出して膝の上に置く。

昼休憩は50分休憩と長めに用意はされているものの、整列してからの移動だったので体育館にたどり着くまでに時間がかかってしまったので残りは実質40分。教室に戻る時間とトイレの時間も加味して27,8分程度だろうか。その最中に弁当を食べ終えて、社会の歴史の部分の勉強でもやろう。

そう思いながらリュックサックからお弁当を取り出す。風呂敷を開くと一枚の紙が折りたたまれながら入っていた。


「これは・・・・・・」

開くと紙はメモ帳一枚分ぐらいの大きさであった。


『お疲れ様。みんなより少しタイミングが遅めな勉強の開始だったけど、よくここまでやり切った!残りの理科と社会も頑張ってね!

ps、弁当の中身は身体にエネルギーが入るものにしました。制服汚さないようにね。後、身体を冷やさないようにカイロ使ってね』


アルトさん・・・・・・


少し緊張していたのだろうか、顔が緩んでいくのがわかる。

とても嬉しい。

勉強の世界、受験を学校の先生は集団戦と言っていたが所詮は一人。孤独な闘い。例え、教えてくれる人がいても挑むのは自分自身だけ。だけど、こんなにも私のことを想ってくれている人がいると一人じゃないんだなと改めて感じさせてくれる。

手紙をファイルの中に入れてお弁当を開くと、お米の上に豚肉と玉ねぎを炒めた生姜焼きが入っていて、隅っこにはブロッコリーとカボチャが添えられていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

巨人は動かない。相当な威力の光線をもろにくらい、ダメージに身体が耐えきれなかった。獣は勝ち誇ったように喜び叫ぶ。もう巨人は起き上がらない。そうとでも思ったのか。

巨人の赤い目から、黄金の瞳に輝きが蘇る!


(負けられねぇな!チヨに夜ご飯、豪華なもん作ってやりたてえからよぉ!)


ふらふらとダメージでおぼつかなくなった脚に力を入れて巨人は立ちあがる!

巨人は角に手の甲を当てて再び赤いエネルギーを手に集中させる。再び獣の尻尾が巨人の首元めがけて飛んでくる!

だが、突然獣の身体の数か所が爆発を起こした!八咫烏が作り出した自爆用のドローンである。

爆発で自慢の体毛に炎が燃え上がり、怯んだすきに巨人は獣にめがけて光線を放った!

真正面から光線を食らった獣は悶えながら跡形もなく消え去っていく・・・・・・


「よし!」

本部内が歓声で溢れかえる!獣は完全に消失したのだ!

カメラ用のドローンをアルトの前に持っていくと、アルトは俺達に向けてサムズアップをしてくれた。本部内はそれを見てさらに盛り上がる!

良かった。無事にアルトが帰ってきてくれるようだ・・・・・・十分すぎるほどの戦果である。

そして魔祓いの空間は徐々に白い光に包まれて消えていくのだった。


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