異国

「ケイト、ボランティアに興味はない?」

 ボランティア…。私は今まで自分の生活に精一杯で、人のために何かをすることがなかった。

「それ、どんなボランティアなんだ?」

「違う国の子どもたちとふれ合うのよ。もう少しでこの子も生まれるから丁度いいかなって」

 子どもたちとのふれ合いなんて、今までしたこともないから不安だけど、でも将来の弟のためなら、なんでもできる気がした。

「違う国って…どこなんだ?ブラジルか?フランス?」

「違うわ、スリナムよ」

「は!?スリナムだと!?」

 ラファエルさんは、ガタッと椅子から落ちるように立った。

「待て、エマ。あそこは近年クーデターが起こったばっかりなんだぞ!?そんなところにケイトを行かせるつもりか!?」

 仏領ギアナとガイアナの隣国、スリナム共和国。私はよく知らないが、くーでたー?というものが起こったらしい。ラファエルさんの反応から見るに、危険な国なのだろうか。

「クーデターなんて、もう5年前よ?パラマリボの方は治安も安定してるみたいだし、大丈夫よ」

「いや、ダメだ。軍事政権は信用できない。そのボランティアの知らせも、政府が他国から人間をおびき寄せるためにやってるかもしれん」

「もう…ラファエルったら、疑いすぎよ」

 信用する人、信用しない人。2人の育ちがそれだけでなんとなくわかってしまう。ラファエルさんも私のように、信じていた人に裏切られた経験があるのだろうか。

「ケイト…あなたはどう?行きたい?行きたくない?」

 今考えてみれば、お母さんは、私に考える暇なんてくれなかった。2人は私に決定権を委ねてくれることが多いが、お母さんは、私のことは全部自分で決めていた。私が幼かったからというのもあるかもしれないけど、私がお母さんのために収穫した野菜や果物もあの教祖に…いや、違う。あれは、きっと、お母さんなりの考えがあったんだ。そうに、違いない。

 …ダメ、お母さんのことばかり考えちゃダメだ。2人の質問に答えないと。ラファエルさんは危険な国と言っているけど、近所の中学校には最近スリナムからの留学生も来たのだと聞いたことがある。ラファエルさんは、最近フランスから仏領ギアナに久々に帰ってきたから、どちらかというとエマさんの方が南米のことには詳しいのかもしれない。だとしたら、そんなに危険ではないはず。

 「異国の子ども」というのが私にとっては一番気になるものだった。私が仏領ギアナに来たときは、周りから異様な目で見られることが多かった。それは私の見た目がおかしかったのではなく、きっと振る舞いや考え方がここの人にとって珍しいものだったからかもしれない。私は、ジョーンズタウンあの町以外を知らなかったから、周りと合わせられなかった。

 他国の文化を知ることは、絶対に必要なはず。私にとっても、子どもとの接し方を学ぶことは必要なことのはず。


「エマさん、ラファエルさん。私、ここに行きたい」

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