第13話 得意分野

 共同生活と共にスタートしたレッスン。


 高校から直でレッスンスタジオへ。


 はい、現地集合です。


 事務所のアイドルヒエラルキーの底辺にいるHINA-AKARIは、わざわざマネが迎えに来てくれない。


 ユミさんの妹さんのグループは仕事だけじゃなく、レッスンも送迎ありらしい。


 実に羨ましい。


 そんな話は置いといて。


 ボイトレ、ダンスレッスン。


 彼女たちとともに汗を流す中で、4人が得意なことが見えてきた。


 リーダーの広美さんはダンスが得意。


 一番力強くて迫力がある。


 圧倒されてしまう。


 里香さんは歌が得意。


 高音も低音も幅広く歌える。


 パートは少ないけれど、縁の下の力持ち。


 春さんは低音が得意。


 彼女のおかげでハモリが滅茶苦茶綺麗に聴こえる。


 センターのユミさんはしなやかで美しいダンスが得意。


 けれど、他のメンバーに比べたら歌もダンスも劣っている。


 そんな欠点を補う顔面の可愛さ。


 無駄にあざといんだよ。


 世界中の可愛さとあざとさを集約したて生まれた、みたいな。


 あと、魅せ方が上手い。


 どんな仕草をすればファンの目を惹くのかよくわかってる。


 グループのセンターは、彼女しかあり得ないのだと思わされた。


 他の人は輝かしいセンターになりたいと思わないのだろうか。


 不満はないのだろうか。


 疑問を感じて、相変わらずリビングに服を脱ぎ散らかしている最中の里香さんと春さんに、

「センターになりたいと思わないんですか」

 尋ねてみた。


 彼女たちの服を回収しながら。


 里香さんは、

「うーん」

 頬をかきながら言った。


「最初の頃はねー思ってた。でもね」


 ちょい、靴下を脱ぐな。


 集め終わったとこだぞ。


 春さんは里香さんの言葉を引継ぎ、


「ユミは私たちの中で一番華があって、人を魅了する才能があるから。何度も同じステージに立ってるうちにね。痛感しちゃってさ」


 二人は苦笑しながら言った。


 成程。


 諦めちゃったわけですか。


 別に悪いことだとは思わねえよ。


 そこに至るまで、沢山悩んだんだろうから。


 グループのために選んだ道何だろうから。


 生活能力が壊滅的な二人を、初めて尊敬した瞬間だった。

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