第4話 狂気の足音


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


〜新米看護師視点〜


「高宮さーん!娘さん来てますよー!」


「おっ!椎名か!」


院長の娘さんが夕飯を届けに来てくれたみたい。院長は笑顔で席を立ち上がり、受付で待つ娘さんの元へと向かった。



──院長の娘は高宮椎奈という名前で高校三年生。

小柄で、可愛くて、小動物的な可愛さ持っている。引っ込み思案な性格だけど、通っている学校では生徒会長を務めているらしい。


こうして偶に夕飯の弁当を持って訪れる。



「……娘が弁当を届けに来たんだけど、それを持って来るのを忘れたみたいでね……せっかくだし娘と一緒に外で食べてくるよ。直ぐに帰って来るけど留守番を頼むぞ?」


「は、はい!」


……ドジっ子属性まであるとは侮れないっ!


私は笑いながら話す院長と、ペコペコと私に向かって何度も頭を下げて来る椎奈さんを見送った。


「よしっ!仕事モード仕事モード!」


それにしても、初めての一人勤務はドキドキする。


唐突に任された事だけど、気が緩るませちゃダメっ!引き締めないとっ!



………



………



「……あの……山本亮介に会いたんですけど」


「あ、はい!」


それから十分後──1人の年若い女性がやってきた。

若いというか多分だけど高校生くらい。

大人びた風貌から気品が漂って見えるし、何より驚くほど綺麗な女性だった。



──そして面会希望の山本亮介さんは……確かさっきまで結構な人数の御見舞いが来ていた子だ。

人数が多かったけど騒がないから苦情もないし、何より高宮院長が目を掛けている男の子だから、配属したばかりの私でも印象強く覚えてる……何よりイケメンだし。



「う〜ん……面会ですか」


「ダメですか?……私に会えなくて寂しがってると思うんですが……」


面会には院長の許可が必要なんだけど、面会の受付時間はもう直ぐ終わってしまう。

院長が帰って来るのを待っていたらきっと会えないよね。



「……お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」


「山本楓と申します」


「山本、山本………あ、もしかして山本亮介くんのお姉さんか妹さんですか?」


「はい、姉です」


そうだったんだっ!

そう言えば顔立ちがそっくり!


だったら身元はしっかりしている。

それに、さっきまで楽しそうに話していたから重篤者ではないし……だったら通しても大丈夫そうね!


──うん、彼を特別気に掛けている院長ならきっと通すと思う!



…………


…………


……いや、待ってよ?


──私は悪寒を感じ、引き出しに入れてあったリストを取り出した。

それには患者について色々書いてあるんだけど……え、うわ、やばっ!


要注意人物に『山本楓』と書かれていた。

母親が見舞いに来てたから、家族間での問題はないと思ったのに……配属早々とんでもないミスをしてしまう所だった。

このリストに記載されている人物を通してしまったら間違いなく首が飛んでしまう。



「すいませーん……もう受付は終了してまーす」


「…………そうでしたか」



──そう言ったあと、意外にも楓は潔く帰って行った。

楓の只ならぬ威圧感に怯えていた新米受付嬢だったが、案外、何事もなく話が終わり一安心する。


ただし、緊張で額からは一粒の汗がダランと流れ落ちた。



「はぁ……飲み物取ってこよう」



──緊張、真夏の暑さで喉の渇いた受付嬢は冷蔵庫に入れてある飲み物を取りに持ち場を離れるが、30秒も経たずに受付に戻るのであった。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「……どいつもこいつも……邪魔をする」


受付嬢が離れた時間……その僅かなタイミングを見計らい、楓は病棟に侵入した。


それほど大きくないこの病院は従業員もそれほど多くはない。沢山の患者が居る場合なら新しく看護師を雇うが、現在の入院患者は亮介を含めて数人程だ。

これならば少人数でも充分やっていける。


受付の新米看護師以外は、他の患者の世話をしている最中なので病棟の廊下は歩いておらず、楓に気付く者なんて誰も居ない。なので受付さえ通過してしまえば……後はどうにでもなってしまう。



「…………ここだな」


そして楓は目当てのネームプレートを見付ける。

まさか病棟に不法侵入してくる人間が居るなんて誰も考えない……それ故に、ネームプレートには『山本亮介』と隠す事なく書かれていた。




──目的地を見つけた楓は、笑顔で亮介が待つ病室の扉を開ける。



ーーーーーーーーーーー


21時にもう一話投稿します。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る