第5話 異世界の午後と1日の終わり

 1節 雑談と料理と夜の準備



 時刻はすでに12時から13時に変わろうとしていた。



 いつも通りなら給食もそろそろ終わり思い思いの昼休みを過ごす時間帯だ。



「お腹空いた〜!」


「作るので少し待っててくださいね」



 ということで僕と矢矧と吾妻姉妹はテントを設営し、時雨が料理を作るということになった。



 ちなみに女子である吾妻姉妹が設営側にいるのは料理が下手くそだからである。睦月もできるらしいが、未知の世界の食材を使って料理をするのは少し怖いとのこと。如月は完全にできないらしい。



 テントの設営の方だが、テントの形は、ザ、テントといった感じのもので、三角柱を横に倒したような形だ。片面から長い支柱を立てれば出入り口を屋根にした軒下のようになる。



 中は人1人が入るのがやっとくらいで、寝返りをうつようなスペースはない。まあ寝袋で寝るので動きようはないからいいのだが。強いていうならイモムシみたいにジタバタするくらいだ。



 そんなこんなで5つのテントを建て終えたご一行は、時雨の料理を待った。



 今更ではあるが僕もみんなも中世ファンタジーのようなとてもおしゃれな服を着ていたので雰囲気は全く違って見える。半袖のシャツに緑色のベストと半ズボンに革のブーツだ。みんなとても楽しそうにしている。




 20分後




「料理完成しました」


「りょーかい!」



 ということで僕たちは少し遅めのお昼ご飯を食べることにした。



「うわ〜美味しそう!」


「ほんとにな。これなら明日からも頑張れそうだ」



 メニューはパンと魚の塩焼きに、薬草と山菜のスープだった。めちゃくちゃ美味しそうである。薬草の山菜のスープは、中に細かい回復ピンクの宝石が入って浮かんでいる。



 彼女曰く疲労回復の薬草と自然治癒強化の薬草が入っていて、出汁に旨み成分があるものも使ったそうだ。魚の塩焼きも、しょっぱすぎず薄すぎずのとてもいい感じのバランスの塩味が効いていて美味しい。しかも中の内臓やらが無くなっていて苦味も少ない。パンは缶詰に入っていたカチカチのパンを水でふやかしたらしい。



「美味しかったー!」


「喜んでいただけてよかったです」


「そいえば車の中にまだものがあったよ」



 そう言い如月が僕の目の前に物を持ってくる。それは紫色の宝石が付いているリングノートだった。



「そんなん何に使うんだろうね」


「なんだろねー。まあ別に捨てるようなものじゃないでしょ」



 まあそうだね、と返すと、僕は運転席に行ってエンジンを起動しに向かった。



「みんなエンジン試しに動かしてみるから排気管の近くには行かないでねー」


「りょーかい」「「わかった」」「わかりました」



 席に乗り込み、ドアを閉める。サイドミラーの下にあるクランク棒をクルクル回しながらスロットルレバーを上げる。エンジンの回転が上がる音がした後、



 パッパッパッ!ガラガラガラガラ!!



 と何か弾けるような音がした後ディーゼルエンジン特有のやかましいガラガラ音を上げながら吹き上がった。



 最後に灯したのはいつかわからない火が、再びこのエンジンに灯された。燃料タンクからパイプを通して燃料が渡され、それを空気と混ぜてエンジンに送り込む。そして爆発し、エンジンの火を灯し続ける。



 ミラーで後ろを見てみると、旧車特有の濃い煙が排気管エグゾーストから立ち上っていた。起動することがわかったのでレバーを下げて止めて、またみんなの元

 へ戻る。



「エンジンはしっかり動いたみたいだな」(矢矧


「うん。これなら明日から走れると思う」(朝凪


「うるさいエンジンだねー」(如月


「まあ朝凪曰くディーゼルらしいからな。しょうがない」(矢矧


「明日には出発するの?」(睦月


「うん。そのつもり」(朝凪


「じゃあ明日の朝ご飯を作り置きしておきますね」(時雨


「ありがとう。助かる」(朝凪



 またしばらく会話をしながらこの世界を眺めているとしよう。まあ、景色は鉄道事故の朝ですでに知っているものと同じだが。超巨大な大山脈、どこまであるかもわからない広い草原、遠くには巨大な蒸気都市、川を挟んで向こう側には不思議な魔法の森。



 ここから見えるのはそれだけだが、それだけでも普通の世界とは違う世界、『魔法と蒸気の世界』だとわかる。これからどんな旅でどんな秘境に行けるのか楽しみだ。




 2節 夕方のいろいろ


 ◇◇◇



 坂田くんは明日出発するとのことなので、車に明日の朝ごはんを作り置きしておくことにしました。



 確か貨物室の中にパンの缶詰がいくつかあったはずなので主食はそれにします。主菜は今日の夜ご飯に魚は使ってしまうので明日作り、それに、汁物は用意できないので山菜の炒め物にします。



 これくらいの調理なら手慣れているので、すぐに終わります。



 ◇◇◇




 今は雑談をしながら如月のツヴァイヘンダーを砥石といしで研いでいる。



 こうなることを見越してか、単に優しさなのかは知らないが砥石が入っていた。あまり慣れないが少なくともやばい形になったりはしてないしガタガタの刃が少しずつ綺麗になっていっているので多分大丈夫だ。全長がかなり長い上片刃ではなく両刃なので、研いでいればあっという間に時間が過ぎる。



 時の流れとは不思議なもので、それを示すかのようにいつの間にか時刻はすでに18時を回っていた。



「ごめんね。わざわざ研がせちゃって」


「全然楽しいから大丈夫だよ」


「ならいいんだけど」


「いやーそれにしても」


『それにしても?』


「またやることがなくなった」


「言われてみれば確かにな」



 今現在は適当に雑談しながら研いでいるのでいいが、おそらくもうすぐ終わる。そうしたら今度は本当にやることが無くなる。



 おそらくゲームの流れで行けば(ゲーム脳)今は恐らく春先。多分草原には花いっぱい咲いてるし多分春先。ということは陽が沈む時間が早い。



 てことは18時という時間は昼というには遅くて夕方というにはそれっぽい雰囲気(?)がないとかいう超⭐︎絶中途半端な時間帯になる!うーんこれは困る。非常に困る。



「そうだ!」


「またなんか思いついたのか?」


「昼寝しよう!」


「それ夜寝れなくなるやつじゃん」


「確かに」



 まあもうどうせ時雨も夕飯を作りにいってくれるしいいか・・・?



「時雨、私も手伝う」


「いいんですか?」


「うん。どうせもう話題のネタすら尽きてきたし」

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