第22話

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 初めてLexと出会ったのは、前チームRubyFoxでの活動に焦燥しきっていたときだった。


 もちろん加入した当初は同じ志を持つ仲間と共に戦うことができて日々が充実していたように感じる。毎日好きなことに真剣に取り組める環境こそ俺の望んでいたものだったから。


 だが、そんな日々が長く続くことはなかった。


 チームの経営母体がしっかりしておらずまともな給料や経費が出なくなった。それに伴ってチームからのサポートの質が低下していき、上を目指す覚悟をもったチームメイトたちはどんどん抜けていった。


 終いには新しく入ったチームメイトがスクリムなどの公式練習すらサボる始末。RubyFoxはまるで趣味で集まっただけの、営利組織とは到底言えないような状態になってしまった。


 社会人で仕事の合間の副業として参加することになったチームメイトたちとは異なり、俺は学生で人生そのものを賭ける覚悟でこの世界に踏み入っていた。

 だから何度も現状を変えようと足掻いた。けれどそれはなんの実績もない高校生の戯言。当然チームは変わることもなく、新しくチームを探すにしても年齢や時間など様々な条件がそれを阻んだ。


 熱意の差があるチームメイトとの溝はどんどん深くなっていき、チームの運営も面倒事は起こしたくないとその溝を見て見ぬふりをする。


 試合には勝てず、チームからの給料も殆どなく、練習もまともにできない。やれることは独りでランクを回すことだけ。チームに入る前と変わることのない色褪せた日常。


 現状を打破できない自分に嫌気すら覚え、もうこのゲームをやめてしまおうかと思った。そんなときだった。


『お前強いじゃん!フレンド登録しようぜ』


 俺はLexに声をかけられた。後から聞いた話によると、たまたまランクで一緒のチームになって一緒に戦った時に俺のプレイスタイルに興味を持ってくれていたらしい。


 国内大会でよく見るエースプレイヤー。俺も少しでも強くなろうと配信を見ていたから彼のことはよく知っていた。そんな彼からの褒め言葉に俺はどうしようもなく心が震えたことを覚えている。


 それから定期的に一緒にランクをすることになり、親友とすら言えるようになったLexだが、ViXと俺をギリギリのところで繋いでくれた恩人としての憧れや感謝、そしてリスペクトは未だに忘れていない。







 ラウンドが始まり、俺達も動き出す。

 Aster対策として、俺達はABミッドすべてを別れて監視する。


 タイムアウト前と変わらず、Asterは詰めの動きを崩さなかった。AショートからのピークをMythsが確認し、軽く撃ち合うことで一旦彼を引かせることに成功する。


 作戦の肝はここから。Mythsの下にRyukaさんとSigM4さんが合流する。ここでもう一度Asterが顔を出してくれば────



『来た!』


 どうやら予想は的中したようで、最初にコルトAsterを視認してから少し。彼はゆっくりとショートからミッドにリピークしてくる再び顔を出してくる


『せーの……!』


 三つの銃声が鳴り響く。流れるログにはAsterの文字。俺達はひとまずの人数有利を築くことに成功した。



 ♢♢♢



『うわー……三人で待ってたー。一応アフィリアMyths80カットはしたからねー』

『動きを変えてきたみたいだな……』


「そうみたいだな……っと」


 俺の目の前に一瞬コルトRiv4lの姿が見えた。どうやらAsterの動きに対する動きの修正はタイムアウトで済ませてきたようだ。


 おそらくそれもRiv4lの入れ知恵だろう。あいつは立ち回りの柔軟性を評価されることが多いが、俺からしたらそこよりも観察力が並外れて高いところを注目するべきだと思う。


 試合中に適応するところは今までもよく見た光景だったが、CWに入ってからはそれがさらに洗練されたように見える。


(きっと前より良い環境で練習できてんだろうなぁ)


 昔のあいつの苦しんでるところを見てたから、あいつの手に入れた幸せを手放しで喜びたい気分ではある。

 だがそれでも。この試合の中では俺はMRのリーダーで、あいつはCW───つまり敵だ。思い通りにはさせない。


「Aster、リピークはもっと遅らせろ。攻めは相手だ、時間が必要なのは向こうなんだから時間いっぱい使え。お前のケツは俺達が拭いてやる」

『えー、それセクハラじゃないー?きゃー変態ー』

「うるせぇ、というかせめて棒読みやめろや」


 精々全力で戦って楽しもうじゃないか。


「ずっと戦いたかったぜRiv4l。思う存分殺し合おうじゃねぇの」



 ♢♢♢




 コルトAsterを倒した俺達はエリアの取り返しを始める。最初にエリアを確保しに行かずに詰めてくるのを待っていたこともあり、取れているエリアはそこから射線を通せる範囲のみ。どこに敵がいてもおかしくない状態だった。


(こういうとき、あいつなら………メインにバネを置いて飛ばしたやつを倒そうとする。もしくはフラッシュピークしてから視認した人数に応じてバネでの三次元機動、それか──)


 Lexはきっとこっちの思惑を看破している。俺があいつの考えを予想できるように、あいつも俺の考えを予想できるだろう。それだけの経験や関係性が俺達にはある。


「Aメイン顔出します。バネで俺が飛ばされたらLexもピークしてくると思うので、一応カバーお願いします」

『………了解、俺が行く』


 俺はFaiceさんと一緒にAメインを取り返しに行く。Myths、Ryukaさん、SigM4さんはAショートの進行だ。


(Asterがやられて向こうはAショートの情報がないはず。普通ならショートから射線が通ったり挟まれたりしないようにAサイト奥まで引くか、隠れて戦うのがセオリーだけど…………)


 俺がAメインの入り口を越えた瞬間だった。足元が輝きバネトラップが現れる。体はメイン通路の奥に向けて抵抗もできずに飛ばされ、そこにゆらりとエスカトルLexが体を覗かせる。


「そうだよな…………っ!」


 Lexにセオリーなど存在しない。無論強い立ち回りや仲間との連携方法は存分に利用していくが、個人の動きで自重することは無い。


 その凄まじい勝負感とセンスに従い、獣のようにキルを奪い取る。それがLexの最大の強みなのだから。



 俺が飛ばされた位置は多分Faiceさんから射線が通らない。そうタイミングを調節された感覚があった。


 だが、それも想定済みだ。


(…………ここ!)


 俺は着地の瞬間にストリートステップで位置をずらす。着地の瞬間は隙ができるためLexもそこを狙っていたのだろう、先程まで体があった位置を銃弾が通り過ぎていく。


 俺はそこで再度ステップを使用。Lexの上を越えるように背後に回ろうとする。これで俺のステップはもう無い。ここからは純粋な撃ち合いになる。


 Lexは弾を外した瞬間、驚異的な速度で背後へと振り向く。最初から裏に回ることを読まれていたのだろう。そうしなくては間に合いそうもないスピードだった。


 ステップはもう無いし、着地した瞬間には一瞬だけ無防備になる。そこを撃ち抜いて終わり。




 ───なんて思ってるんだろう。


 俺は空中で銃を取り出す。その形状は他の銃と違いずんぐりと丸みを帯び、弾倉は銃身よりも大きい。


 ボン=ドル。連射式のショットガン・・・・・・だ。


 ショットガンは交戦距離が他の銃と比べてあまりにも短い代わりに、動きながらでも狙ったところに撃てるという利点がある。


 そしてそれは空中移動をしている・・・・・・・・・俺にも当てはまる。


 この試合で初めて切った手札。このラウンドを落としたらまたエコラウンドになる状況で、遠距離戦を捨てる選択。これを予想するのは如何にLexと言えど不可能だった。


 拡散する銃弾がその体を捉え、体力を消し飛ばす。


「……………Lex、この世界に繋ぎ止めてくれてありがとう。俺は今、最高に楽しいよ」


 俺とLexのタイマンは、俺の勝利で幕を開けた。

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