第15話

 某ゲームとは似ても似つかなくなってまいりました笑

────────────────────


 メインイベントは4.5回戦目──つまりLowerの準決勝、決勝、そしてUpper決勝以外全て同時に試合が行われる。よって他の試合の進行状況は分からない。


 そのお陰で自分の試合に集中できるという利点もあるが、メインイベントはその利点以上に集中を乱す要素が増える。


 メインイベントからは試合が配信される・・・・・のだ。衆人環視の中で戦うという今までと違った状況。作戦は他のチームに動画付きでバレることになり、試合は衆人環視の中で行われるためいつものように動けなくなる。


 普段配信などをしない選手はこの違いでいつもよりも緊張して本来の力が出せなくなることすらあるのだ。




 そんなメインイベントの初戦、対PLN戦。俺達は試合直前の話し合いをしていた。


『確認だけど、今回のスタメンはこれで行くよ』


 メインブレイバー Myths

 メインサーチャー SigM4

 メインホールダー Valk

 サブホールダー Ryuka

 メインブロッカー Riv4l



『Riv4lには防衛のときも攻撃のときも基本一人で行動してもらう。ここはFaiceと変わらない。けれど、Riv4lにはもっと大胆に行動していほしい。相手はveqqとPRIODがいる。防御力は今大会一と言ってもいいだろう。Faiceはラークで情報を取って下がることが多いけど、今回大事なのは退かないことだからね。ガンガン行ってくれ』

「了解」

『残りのみんなはいつも通りに。試合の様子が配信されるからって意識しすぎないように。じゃあ、勝とう』

『『『『「了解!」』』』』



 いつもとは違う緊張感。試合が始まったら配信も始まるだろう。体が少し震える。

 だけど、俺にはこの震えが緊張ではなく武者震いのように感じられていた。


『お、今回は緊張しとらんみたいやな!』


 VCからおどけるようなヴァルクさんの声が聞こえる。右後ろにいる彼を見るとこっちを向いて笑っていた。


「そうですね、まぁ初配信が凄いことになってたのでそれと比べれば…」

『あー、あのときは凄かったもんなー。ほんとにウチに残ってくれてありがとなリヴァル!』


 見ればリュカさんもこっちを見ていた。ミィスも、シグさんも、それにフェイスさんやタスさんも。


 注目を浴びてどうにも気恥ずかしくなってきた俺はパソコンに向き直る。


「いえ、俺もこのチームに入れてよかったです…………それよりみんなエイム練習しましょう!緊張して俺より弾が当たらないってなっても知りませんよ!」


 背中に生暖かい視線を感じる。

 照れ隠しってバレてるなこれ。


『くっはっは!それもそうだな!まぁ?俺はまだまだお前には負けないけど?歴が違うよ歴が!』

『リュカさんエモい感じになってたのになんでそんなこと言っちゃうんですか台無しです』

『照れ隠しだね。長いこと一緒にやってるけど、リュカくんは直接言われると照れちゃうんだよね。あ、あとヴァル坊も』

『シグさんうるさいわ!』

『なんで俺まで言われてんの?!ええやんか付け加えんで!………まぁでも緊張は誰もしとらんな。フェイスも見といてや!』

『…………応援してる』


『しゃあ!行くぞ!CW、ファイト!』

『『『『『「おー!」』』』』』



 BO3、対PLN初戦は雪マップ。サイト内に通る射線が多く、爆弾の設置を通すことが困難なマップだ。


 そんなマップで今回俺はブロッカーのセシリアというキャラを使う。このキャラは車椅子の白髪少女の風貌で、タレットと呼ばれる自動照準の小型銃を装着した機械やアラームと呼ばれる近くを通る敵を察知して爆発する機械、そしてノックバックグレネードランチャーをスキルとして持っている。それにマップとの・・・・・相性もいい・・・・・


 俺はすべてのスキルを最初のラウンドからフルバイfullbuyし、敵の攻撃を止めることに全力を尽くすことにした。俺が防衛を任せられたサイトはB。ミッドやAは味方に任せてここは俺一人で全て止めきるつもりだ。


「Bノーサウンド。A側警戒してください」

『ミッドも見えん』

「B詰めます」


 ミッドに見えないという情報を受けてすぐ、俺はB側のメイン通路を詰める。ミッドから抜ける通路はRyukaさんが見てくれているし、もしBサイトに敵が来るとしたらここから以外あり得ない。


 メインを詰めると一人敵の肩がみえた。幸い向こうからは気づかれていないようだ。


 俺はグレネードを敵が居た障害物の裏に撃つ。ノックバックして遮蔽外まで弾き出された敵をすぐさま始末し、俺はその場にアラームをおいて一旦下がる。


 B側に人がいないという情報は取れた。武器の弱いピストルラウンドでは上々だろう。


「一人やりました、A確定です」

『B詰め警戒失敗してしびれ切らしたか!こっちに見えたで!』

『Myths、フラッシュ出すから出ようか。……行くよ……いち、にの、さん!』


 そこからMythsが4キル。順調なエリアコントロールとMythsの無双で敵に爆弾を設置させることなくラウンドを取りきった。


『今日調子いいかもです!』


 その言葉通りMythsの調子は絶好調で、次のラウンドでAサイトにラッシュを仕掛けてきたPLNは、前目に戦いに行くMythsとそれをサポートするSigM4さんやValkさんのスキルによって壊滅することになる。


(Mythsがあの調子なら俺の役目は尚更死なずに情報を取って、相手の注意をMythsだけじゃなく俺にも向けることか。難しい仕事だけどやってやれないことはない)


 武器が不利なサードラウンド。俺はセカンドラウンドで敵が来たときに一人でも戦えるように威力の高いドーベルという銃を使っていたこともあり、戦えないこともないという状態だった。


 Aに嫌な印象のついたPLNはAとミッド、そして俺のいるBに分散してゆっくり攻めてくる。A側はMythsが止めるだろうし、それもあってミッドにもRyukaさんとSigM4さんがいる。


 恐らく敵の最終はB。ならばと俺はよく設置を通される強設置ポジにアラームを置き、タレットを俺の前に弾除けとして設置した。


 セシリアのキャラ設定上、車椅子に乗っているためタレットで体全てを隠すことはできないが、多少の弾除けにはなるだろう。


 敵が一人見えた。その瞬間ADSして照準器を覗いていた俺はその頭にあわせて発砲し、すぐさま体を遮蔽に隠す。


 当たったかどうか見てはいなかったが、画面右上に出たキルログでキルは確認できた。それと同時にタレットが爆散。弾除けの役割を果たして消える。


 俺はログの確認後すぐさま自分の足元・・・・・にノックバックグレネードを放つ。爆発したグレネードにより俺は隣の遮蔽まで移動する。爆発後硬直はあるものの、敵との距離まだ距離は遠い。新しい配置につく時間はあるはずだ。


「Bメイン残り二人います。セシリアveqqサイPRIODです」

『おっけーすぐ行くね!』

『丸モクだけ上げとくから好きに使ってや!』


 マップを見ると味方もこっちに寄ってきてくれている。あとは相手の爆弾設置まで時間を稼ぎつつリテイクに備えるだけだ。


 いつもの俺だったら牽制射撃をするだけに留めるだろう場面。だけどそこで敢えて前に出る。


 セシリアの短所である車椅子。だが雪マップにおいては短所というだけでない。


 俺はタイヤを氷で滑らせながら移動する。普段ならブレーキをしたようにキュッと止まるセシリアであるが、今回ばかりはそうでない。


 滑りながら銃を乱射した俺はすぐさまグレネードで体を吹き飛ばす。


 マップ特性を活かした超高速ヒットアンドアウェイ。海外プロでは時々見るが、丁寧なプレイの多い日本国内でやっている選手はあまり見かけることのない技術だ。


 そんな技術を活かしてダメージを更に加えた俺はアラームの起動を待ち、それと共に飛び出す。もちろん滑りながらだ。この移動ができるのはこのマップでもセシリアだけ。動きが止まらない分、多少銃の精度は落ちるが敵の意表はつける。


 敵もまさか二度も飛び出てくるとは思わなかったらしく、サイがダウン。隣のセシリアも急に止まれず反撃が遅れたところを、壁に車体をぶつけることで急制動をかけて討ち取った。


 結果サイト内に残ったのは俺1人。あとから遅れてきた敵も寄ってきたMythsが飛び込んで倒した。


 結果的に俺はほぼ1人で、しかも武器不利を背負っている中、Bサイトを守りきることに成功したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る