第6話

「まじか……………」


 戻れるならば配信開始を押した時に戻りたい。コメントで言われたとはいえ、初回からViXをやるのは早計だった。緊張はピークを超え、逆に冷静になってきている。


『DD_Teabreak がパーティーに加入しました』


 その文が表示されたあと、イヤホンから聞こえてきたある男の声。どうやらその音声は配信にも乗っていたようで────


『はじめまして、Riv4lくん。単刀直入に言わせてもらうけどどうだい、うちのチームに来る気はないかい?…これはマジな話だよ』


 ────いきなり告げられた言葉は約10000人のリスナーの耳にも入ってしまっていた。


“え?どゆこと?” 

“おい、茶会さんじゃね?”

“茶会さんや!”

“これガチか?”

“加入配信で引き抜きキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!”

“日本一位のチームからの誘いマジか”

“こんにちは、初見です。茶会さんから来ました”

“初回配信でこれはもはや放送事故なの笑う”

“こいつそんなに強いんか?”

“CWよりDDの方が待遇面良さそうだけどどうすんだ?”

“裏切るんか?オイ”

“加入初日に引き抜きかけられるプロこいつが初めてだろwww”


 後ろを見るとチームメイトのみんなも瞠目している。


 ほんとにどうしてこうなったんだ………。



 ♢♢♢




「うあー………緊張してきた…」


 あとは一つボタンを押すだけで配信が始まる。


『【CW】ViX部門に所属することになりましたRiv4lと申します!【新加入】』


 こんな内容も分からないようなタイトルで、一度も配信などしたことがないのに、既に待機人数は3000人を超えている。それだけCWというチームはファンとの距離が近いのだ。


「大丈夫だって!いざとなったら呼んでくれていいから!」

「せやせや!こんなんで緊張しとったら大会のオフライン会場なんて夢のまた夢やで!」

「……頑張れ」

「応援してるよ。おじさんがPC裏でカンペでも出しててあげようか」

「まぁ大丈夫だ。ここで受け入れられなかったとしても大会で見返せばいいだけの話だしな。推薦した身としてお前の勇姿は忘れないからな」

「なんかそれだと死んどらへん?」

「リュカさんヴァルクさん静かに!」


 後ろにいるチームメイトも口々に応援して茶々を入れてくれている。


 そう、現在俺はCWのオフィスで配信の準備をしていた。家でやればいいと思うかもしれないが、配信慣れしてない俺一人では不測の事態に対応できないことに加え、高校生のため実家ぐらしであることがネックになったのだ。家族のプライバシーは大切なのである。


 配信予定時間まであと数秒。俺はチームメイトの応援に感謝を伝えて前を向く。CWに貸してもらった機材も確認は済ませてある。あとは配信開始ボタンを押すだけ。初配信で問題なんて起こすわけにはいかない。


「じゃあ始めます!!」


 ボタンを押すとコメントの流れが加速する。全部は目で追えないがこっちも動画と同じで好意的なコメントが多かった。


“きたきた”

“新メンバーはどんなやつなんだろうな”

“ViXやってくんねぇかなぁ、見てぇ”

“うおおおおおー!きたー!”


『ど、どうも皆さんはじめまして。この度CWViX部門に所属することになりましたRiv4lです!高校生ですがよろしくお願いします!』


 つけたイヤホンから自分の声が返ってくる。どうやら音声問題も起こってないようで、声もきちんと聞こえているっぽい。


“CW加入の経緯を教えてください!” 

“いい声してるね”

“今日は何を話すの?”

“後ろの扉なんか見えてて草”

“キーボードやマウスは何使ってますか!” 

“なんか扉の後ろに見覚えあるメンバーがw” 

“加入報告動画見ました!チャンネルも登録しました!応援してます” 

“カメラ写りええでー。声も聞こえとるしフラグは折れたな!()” 


 何か見覚えのある人物のコメントも混じっている気がするが、案の定質問が多い。まずは質問にしっかり答えていくべきだな。


「ありがとうございます!今日は取り敢えず質問に答えていく配信にしようかなと思ってます。正直俺は配信したことなんて一度もないので、なんかあれば言ってください。可能な限り直します。じゃあまず最初の質問────」


 そこからはある程度ぼかす所はぼかしつつ、答えられるところにはしっかりと答えていった。


“もう他のチームメイトとは会いましたか?” 


 といったコメントを読み上げた直後、ヴァルクさんやリュカさん、ミィスが部屋に流れ込んできて後ろからフェイスさんとシグマさんがのんびりとついて来るという珍事件もあったが、概ね配信は上手くいっていた。


 ちなみにみんなその後も部屋から出ていこうとしなかったから、前1(俺)後ろ4(みんな)の構図で配信は続いていくことになった。

 正直結構やかましい。でもそれで緊張がほぐれていったのも事実。きっとなんだかんだ初配信の俺を心配してくれていたのだと思う。


 決して面白そうだからといった愉快犯ではないと信じたい。いくらみんながニヤニヤしていても。途中途中でガヤを飛ばしてきたとしても。そうだよね?そうに違いない(諦め)


「え、えーっと。………あー……もう質問とかいう雰囲気でもないのでViXでもやりますか。もし要望があればまた枠取ります……」


 コメント欄もみんな俺らのワチャワチャを楽しんでいて、質問などという雰囲気ではない。その中で目立つ“ViX見たい” の連投だけが俺を見てくれている気がした(ただのスパム)。


 そうして俺は気づかぬうちに地獄へと踏み込んでいくことになる。



 ────────────────────

「音声は問題ないようやな…」

「結構しっかり話せてますね」

「少し関わっただけだけど、彼は真面目で良い子だからね」

「……端的。配信得意なタイプ」

「やばい、ちょっかいかけたくなってきた。どうしよう」

「リュカさんステイ!」

「リュカは犬か!お、ええコメント来たで。行くなら今ちゃう?!」

「行こうぜ行こうぜ!」

「リュカさん待って!ヴァルクさんも煽んないで!」

「おいもうこれ逃したら行くタイミング無いで?!リュカ、お前はチャンスをふいにするんか?!」

「俺は世界一になるためにここにいる……だからこそ小さなチャンスも無駄にできない!!!行くぞ!!」

「あーもう………………なら僕も行く!面白そうだし!」

「あはは、うちのチームは賑やかだね」

「………ん。こういうとこ嫌いじゃない」

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