第15話 おじさんの話
おじさんは、私と絵美が傷を拭き終わったのを確認してから、また話し始める。
「私の祖父は、良くも悪くも自由な人だった。君たちのような子どもに聞かせる話じゃないんだがね。祖父には妻以外に妾がいたんだ。その女性の子が私の父だ。父は、産まれてすぐに実の母親から引き離されたらしい。男児が産まれたら、正妻の元で育てられる。一族で祠を守らなくてはいけないからね。祖父には、私の父以外にも子どもが何人かいてね。でも、一族に伝わる祠の話は、六人いたとされる子、全員には話さずにいたんだよ。三人だけに話したと聞いている。正妻が産んだ長男と、私の父、あと一人いるらしいが会ったことはない」
複雑な大人の事情を、私たちは違和感なく受け入れていた。キューピッド様が私たちに何かを託した、そう思い始めていたから。
今、この家住んでいるのはおじさんだけ。それって、祠の話を伝えるべき人が他にいないと言うことなのかな。
その疑問を質問していいか迷っていると、
「長男だった叔父は体が弱く、若いうちに亡くなってね。そこで父が跡を継いだ。父は、言い伝え通り私に祠の話をしてくれたよ。でも父は、祠があることを信じていなかったらしい。ここの小高い山を売却したんだからね。平成の世に、呪いや祟りなどないと豪語していた。私もそういう類いは信じたくなかったが、このニュータウンを作るとき、工事関係者の数名が工事の最中に亡くなっているので何かあるのかもしれないとは思っていた。それに続いて工事があと少しで終わろうとしたとき、父も事故で亡くなったんだ」
おじさんの話に、私達全員ぶるりと身体が震えた。
「父は亡くなる寸前、家の隣の空き地は誰にも明け渡すなと繰り返し話していた。父の死を呪いだと思いたくはない。でも母は呪いに怯え、心を病んでしまって自殺した。それから私は、誰とも結婚しないと心に誓った。祠の話を継ぐ者を私で途絶えさせる。呪いがあるなら、自分で終わらせたいと思ったんだ」
「おじさんのお父さんは、隣の空き地に祠をみつけていたんですか?」
「そうだろうね。だから、地図を作るときに誤魔化したんだろう。私もそれに気づいたから、そのまま作成させている。君たちは、何故か祠の存在を知ってしまった。共通の夢を見たと言っていたね。それは、祠の歴史を終わらせるなという先祖からのお告げかもしれない」
私たちは顔を見合わせた。
「祠の話は誰にも言いません」
絵美とゆかりが、ほぼ同時にそう言った。私と千紗も頷く。
「わかった。信じよう。では……」
そこでおじさんは、リビングの書棚の引き出しの中から、ノートを取り出した。
「父から聞いた祠の話を忘れないよう、これにまとめていたんだ。長い歴史のあるこの地域の話を書き留めておきたかったんだろうね。君たちに見せたらこれは処分しようと思う」
おじさんはノートを、絵美に手渡した。
絵美は、ノートを手にして深呼吸した。
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