第9話 スライダーの偉大な滑り方

「コツを伝授してくださいよ」

「教えることはできないんだ」

「けちけちしないで」

「教えるのが苦手というか」

「名選手、名監督にあらずといったところですか」

「え?」

「プレイヤーとして難なくできちゃう天才は、できない凡人の気持ちが理解し難いんですよね」

 そんな大層なことではない。……逆にストレートが投げられないんだよ。

ボールが手から離れる時に滑って、スライダーになる。


 俺は、無自覚に妙技を繰り出してしまうことが多々ある。

友人達とプールに行った際にも、普通にスライダーを滑り降りただけなのに、着水までの一瞬でバク宙した。

「スライダーの偉大な滑り方!」とやんやの大騒ぎだった。


 パソコンでスクロール操作していると「スライダーの偉大な滑り方!」と神業扱いされた。

特段運動神経が良いわけでも、手先が器用なわけでもないのに……。


「いくら凄技でも、適時に的確にできなければ意味ないっすね」

 彼からの羨望の眼差しは、既に消えていた。

俺だってさ……。




#毎週ショートショートnote

2023年7/2~7/8のお題「スライダーの偉大な滑り方」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る