第28話

 ゼブルくんを飛ばし上空から探索する。

 向かっている方向に、岩壁が見えた。

 距離にして、後300mくらいか。

 

 おそらくあれが、学校だった場所。

 今は悪魔に牛耳られているか、それとも手付かずの場所か。

 もうすぐだ。

 もうすぐ答えがわかる。

 

 この瞬間が一番楽しいんだ。


(学校までの距離が近いので、もう常時イササ先輩の視界を覗かせてもらいます)

(了解! そっちは大丈夫か?)

(はい。何かあった時はカイが守ってくれますし)

(へぇ。あんな小さい体なのに強いのか)

(未来の2位ですよ)

(1位は自分だってか? ハハッ)

(察しがいいですね)

(物凄い自身だな。でもわかってんのか? 1位になるには俺を倒す必要があるんだぜ)

(そっちだって凄い自身じゃないですか)

(確かにな!)


 実際、私は対人戦で負けたことがない。

 そもそも強い奴と戦ったことがないけど。


 イササの視界は段々晴れてきていた。

 樹林が減り、背の低い植物が増えて行く。

 ところどころに岩の瓦礫があって、もうすぐなのだと理解できた。


「さあ、着いたぜ。我らの学び舎だ」


  ――そこに在ったのは、廃墟。

 離れてからわずか5日とは思えない荒廃具合。


 完全に破壊されている図書館の屋根は、小さい鳥の休み場になっている。

 寮は原形を保っているが、ところどころに穴が開いていて使い物にはならない。

 

 でも、それだけだ。

 他にも壊れている場所は多々あるが、肝心の悪魔が見当たらない。

 帰れる、のか?


 ゲートがある校舎の屋上を見ると、階段が壊されていた。しかしそんなもの、能力でどうにかなる。


「よし、アタシに任せるんにゃ!」

「おお、燈篭さん」

「虎の嗅覚をにゃめるなよ! 悪魔がいたらすぐに気が付ける!」


 そう言って彼女は音もなく前に出て、地面に鼻をつけた。


「すんすん。んー? 結構残り香が残ってるにゃ……」

 

 燈篭さんは四つん這いで学校に向かっていく。


「でも一日ぐらいはきてないにゃ。学校からも音しにゃいし」


 耳をぴくぴくさせながら言っている。


「もしかして帰れるかニャ!?」

「落ち着けよ燈篭さん。だとしても他の奴ら読んだり、色々あるだろ」

「確かニャ」


「ふーむ。ここまで上手くいくと逆に怪しく思えちゃいますねぇ」

「何が?」

「人が何人も死んだ事件があって、こんな簡単に帰れます? 何か、罠のような気がして……」

「悪魔にそんな知能あるのかな」

「ウロサマ、悪魔と友達だったと仰ってたじゃないですか!」

「あー……あれも仲良くなるのに時間かかったんだった。もしかして、普通に知能あるのか」


 デルコマイも最初はコミュニケーションが取れなかった。

 なら大翼の悪魔とも、頑張れば和解できたのかもしれない。


 思考を流すように、ゼブルくんの視界を見る。

 あるのは広い樹林と岩壁。そして東の遠方に川。

 

 偵察のような、思考停止のような感じで見ていて、気が付いた。

 木が、揺れている。

 川から、まっすぐ私達の方向へ。

 黒い影が、揺れを纏って。


「何か来ます、警戒を――!」


 間に合った。

 すぐにカイが私の前に出てくれて、触手を3本重ねた。


 だから、今回は相手が強かったのだ。


 現れたシルエットは、手で触手を押した。

 そして翼を広げ、私から見て右に飛ぶ。

 

 ふわり、と浮いたのは一瞬で。

 すぐに、その大きな顎が私へ向かう。


 相手が強かった。

 しかし私もやるものだ。


 触手と相手の位置から、追撃はどうくるかを予想していた。

 それ自体はビンゴだった。

 

 しかし身体が間に合わない。

 何とか左に倒れこんだ。


 そのお陰で、被害は、右腕だけで済んだ。


「――っ!」

 

 痛い物は痛い。

 とくに、右腕が無くなる経験なんてない。


「ウロっ!」


 目敏いな、カイ。

 叫んだら、仲間に隙を作ってしまうと思って我慢したのに。

 彼女は振り返ってしまった。


 その隙を、敵が逃すわけもなく。

 頭を、近づけて。


「”丸太”!」


 瞬間、向こう側から声が響いた。

 黒貌だ。

 その声に呼応して、丸太が一本生成される。

 

 敵の真上に。


 対応するため、そいつは頭を持ち上げた。

 口を大きく開け、落下と同時に閉じる。

 それだけで、丸太は木っ端微塵になってしまった。


 だが大きな隙が出来た。

 私達は3人で固まる。


 そして、もう一度よく見る。


 それは、頭の大きい悪魔。

 翼の大きさはそれなり。手が居様に小さく、足が大きい。

 

 ああ、こいつは――


「……大顎の悪魔」


 ――入学初日。私を地獄の底へ突き落した張本人だ。

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