第8話 最強の殺し屋クロは、強者の少女と戦う

 「あなた遅れずに授業に来なさいよ!」

 「はーい」


 注意喚起にエリスはレイに言葉を掛ける。世界最強の殺し屋には学園の授業はあまりにも簡単で暇だった。


 (一般学生ってこんな感じなのかな?)


 すこし不安が頭をよぎる。


 「でもドミニオンってどんだけ楽しいのかな?」


 レイは少しの疑問を抱え廊下をボーっとしながら歩いていた。それが不注意を招いて前から走ってきた人とぶつかってしまった。レイはすぐさま謝った。


 「大丈夫? ごめんね。 怪我無い?」


 この謝る三段構えは六色光の赤ミレイユから教えてもらった技だ。これを使えば大体の事は許してもらう。その記憶を思い出し使ったのだが。レイとぶつかった子は小さく、白髪のツインテールの子供だった。


 「え。 はいこちらこそすみません!」

 「急いでいたらごめんね?」

 「いえいえ全然!」


 小さな女の子は今まで走っていたのだろうか、頭から汗が流れている。そんなことを思っていたら奥から金を持ってそうなおじいさんがやってきた。


 「うちの子がすみません」

 「いえこちらこそ」

 「ほら行くぞスミ」

 「はっはい! おじさま」


 おじさんの呼びかけに答えたスミと言う女の子はレイに一礼ペコっとお辞儀をしてその場を立ち去った。俺はそのまま歩いていたらいつの間にか授業が終わっていた。


 「レイ! なんで来なかったの!」

 「ごめんごめん。さっき小さな女の子とぶつかって……」

 「はぁ~まったく」

 「まぁまぁエリスちゃんそのぐらいにしましょ」

 「そうわねミシェラ」


 そんな罵倒を浴びせられたレイは食事を終えて外通路を歩いていた時だった。バシン何かを叩いた音が聞こえた。その音の次に聞こえたのは男の声だった。


 「お前はなんでそんなに弱いんだ?」

 「すみません」

 「私はお前を強くしようと思ってな!」

 「すみません……」

 「お前六色光様の元で働きたいんだろ?」

 「その通りです……」


 レイはその会話を遠目で見ていた。正直心の中で何かがキレそうになったが俺は所詮ほかの人間。家族の話を邪魔していい理由がない。そう思った時だった。一粒の大きな涙が地面に落ちた音がレイには聞こえた。


 「ったくめんどくせぇーな」


 レイは自分でも分からないがその女の子を助けに行った。


 「すみません。おじさん流石に女の子に手を出すのはだめなのでは?」


 この言葉は残念ながらあの女に教えてもらった事だ。


 「なんだね。君は私たちの会話に入ってこないでもらいたいね」

 「泣いてるじゃん」

 「それが?」

 「お前強いの?」


 レイにも分からないがなぜかレイは怒っていた。なぜか……その少女はどこかで見たことがある。そしてこのおじさんも。そういえばこの二人は俺がエリスに罵倒を浴びせられた時の授業中に廊下でぶつかった子だと言うことを思い出していた。


 「ではそこまで言うならあなたは私の娘と戦ってみれば?」

 「いいだろう」


 そしてなぜか始まった決闘だがなぜか大勢の学園生が見学に来ている。その中には今にも俺にすごい剣幕を送ってきているエリスの姿もあった。そして決闘は胸の紋章が切れたら負けという一般的なルールだ。


 「では今からスミ=アルバート対レイの試合を始める」


 返しのコングが鳴った。その瞬間レイの懐に少女の姿が見えた。


 (この子、強いね。)


 そのままスミは斬撃を繰り出す。それは幼い少女の姿をしているが一撃一撃が大の大人並みの威力だ。かなり重い。いつものレイならすのスピードを上回って倒せるのだが自分の正体がばれたくないためあえて1割の力も出さずに戦っている。


 周りのざわつき声もありかなりレイも興奮しているが。突如スミの行動が変わった。複雑な斬撃やありえない方向からの突き。そのすべての動作が一撃の中に入っている感じ。これが少女が千撃と言われている理由だ。


 「すみません……負けてください。《つるまい》」


 その言葉と同時に今までの30倍は早いだろうか。それぐらいの斬撃を与えるが……レイはそのすべてを受け流したと思ったが。そこで試合終了を知らせるコングが鳴った。


 勝者はスミらしい。でもレイが負けた理由が分からない……そう悩んでいる姿を見ていたルイスはレイに負けた敗因を伝えに来た。


 「レイ! お前は強いがルールを把握していなかったんだ!」

 「ルール?」

 「そうこの決闘のルールは胸の紋章破壊だ……」 

 「あ……」


 レイはやらかした。でもこれがまたいい、強いだけではなくこのような姿を見せるのが一番一般人に近づけると思ったがそうとも限らなかった。ルイスの一言で……。


 「それにしてもレイって本当に凄いんだな」

 「なんで?」

 「理由も知らずにあれを受け流すか……」


 分からなかったがすぐに理解した。


 「あのこ千撃っていうんだ。あのこの《つるまい》はプロでも受け流すのが難しいのにレイはそれを完璧で受け流した。レイって何者なの?」


 レイは内心とても焦った。もしここで黒とばれたら楽しい楽しい学園生活も終止符を打つことになる。レイは慎重に言葉を選んで話した。


 「たまたまだよ!」


 その言葉を聞いて不満な顏をしていたが気にしなかった。後に俺はルイスの一言でレイは初めての恐怖を抱くことになる。


 「レイ……少し言いにくいんだけど……。例のあの子大丈夫そ?」

 「あ……」


 そうレイは戦う時は絶対に私に許可を取れと口酸っぱく言いつけられているがそれを破ったレイは恐る恐る彼女の元へ向かうことにした。

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