21 何故、知っている?

 お見合いの場所はモンターニュ家自慢の庭園が見渡せるガゼボだった。


堅苦しいお見合いにはならないようにとの両家の意向から、互いの両親は付き添わないことになっていたのだが……


「全く、何故僕がよりにもよって双方の見合いの付き添いをしなければならないんだ……」


「どうしたんだ? クリフ。偉く不機嫌じゃないか」


厨房で口を尖らせながらお茶の準備をしていると、シェフのヴィクターが声を掛けてきた。彼はまだ若干二十五歳でありながら、すでにこの屋敷のシェフを任されている凄腕料理人だ。


「それはそうですよう。本来であれば、僕は今日は休暇日ですよ? それなのにジュリオ様のお見合いに付き添わなければならないのですから」


本当はクレアからも頼まれてはいるが、そこは秘密だ。


「そうかい。それじゃ、そんな哀れなクリフの為にお茶菓子には俺の特製スイーツを提供してやろうじゃないか」


「え? 本当ですか? それでスイーツは一体何を?」


「そうだな、アップルパイなんかどうだ? ちょうどさっき焼き上がったところさ」


どうりで先程から甘いシナモンの香りが厨房に漂っていると思った。


「お前が茶の準備をしている間に切り分けといてやるよ」


「ありがとうございます!」


ヴィクターの特製アップルパイは絶品だ。甘いものがそれほど得意では無い僕だって彼の焼いたアップルパイなら多分ホールで食べられるだろう。


よし、彼のアップルパイが食べられるなら……半日くらい、自分の休日が奪われても我慢しよう。明日、たっぷり休めば良いのだから。


気を取り直した僕は鼻歌を歌いながら、再びお茶の準備を始めた――




****



三人分のお茶セットに、アップルパイを乗せたワゴンを押しながら僕は見合いの会場へ向かった。



「おまたせしました、ジュリオ様」


お見合い会場に到着するとまだクレアの姿は無く、腕組みをして不機嫌そうに座っているジュリオの姿があった。


「あれ? ジュリオ様。クレア様はまだいらしていないのですか?」


「何? クレアだと? お前、見合い相手の名前知っているのか? しかも名前で呼ぶとは……随分親しげだな?」


ジュリオが僕をじっと見つめてくる。


「あ! そ、それは……!」


しまった! 僕はジュリオの見合い相手のことは知らない? 設定だったはずなのに……つい、うっかり口が滑ってしまった!


ジュリオはじっと僕を見つめてくる。


その時――


「お待たせいたしました、ジュリオ様」


僕達の背後から、クレアの声が聞こえてきた。


やった! 天の助け! 後はクレアに説明を任せよう! 


僕は心の中で小躍りし、ジュリオは後ろを振り返り……目を見開いた――

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