第33話 製作と反応
「どれにするのー?」
「うーーーん……」
俺は池袋ゲート前に広がる探索者市で、えりぴよの知り合いらしいクラフターの店の前で、眉間に皺をよせうんうんと唸る。それを、後ろからえりぴよが興味深げに見つめていた。
「素材がありゃあ、リストの中の武器防具アクセサリー、何でも作れるぜ」
と、アフロ頭にサングラスを付けた大柄な黒人男は、真っ白な歯を輝かせながら流暢な日本語で言う。
「さっすがジャクソン! よろしくね!」
「もちろんです、えりぴよ姫♡」
強面から繰り出される甘い声に、俺は一瞬びくりとする。まあ趣味は人それぞれだ……!
「という訳でだ。俺は姫の探索に協力したいっつー訳だ! 姫の友人なら特別価格で請け負ってやる。まあ、クラフトしまくってさっさとスキルレベル上げて四層で商売したいってのもあるがよ!」
ガハハ! と豪快に笑う大男。
しかしおれはそんなことはそっちのけで、目の前に提示されたリストを凝視する。
手に入れたレア素材である、クリスタル。正式名称は「滅紫の水晶」。
くすんだ紫色を放つその水晶は、えりぴよの言う通り可愛らしい軽装鎧という選択肢と、他にもさまざまな武器へと変貌を遂げるらしい。
「クリスタルっつたら、ガラスより多少強度がましなくらいなもんだが、姫たちが戦ったクリスタルゲイザー、あいつの甲殻はバカ硬かっただろ?」
「硬かった!」
「ですよね!! ありゃあ、魔素がクリスタルの中に流れ込むことで、本来以上の強度を発揮してる……らしい。学者連中が言うにはな。んで、この滅紫の水晶も同じだ。しかも、あの蟹野郎の甲殻なんて目じゃねえほどの、ダンジョンで熟成されたホンマモンの高純度魔素が混じり、くすんだ紫色を放ってる。作れる武器はどいつもこいつもかなりの強度を誇るぜ」
「強度か……」
その強度で防具を作れば恐らく今以上に耐久があがるだろう。
だけど、俺は機動力を生かして戦う近接ソードマンタイプだ。仮に防御力が上がったとしても、回避や弾きを主体とする俺にとっては宝の持ち腐れになる。
ということは、弾きをする回数も多い俺が優先すべきは武器の強度だ。
「――うし、決めた! 俺はこれにするぜ!」
俺はリストの真ん中あたりにある武器を指さす。
「ロングソード……クリスタルブレイカーか。悪くない選択だ」
「へえ、かっこいい!」
「だろ!? これでお願いします!」
「OK、任せときな! 姫の友人だ、最高品質目指して作製してやるから、一日待ってな!!」
こうして、俺は素材と金を職人託した。新しい相棒が待ち遠しいぜ!
◇ ◇ ◇
「本当にありがとう……!」
えりぴよはスカートの裾を掴みながらぺこぺこと頭を下げる。
「良いって事よ、俺も楽しかったし、武器も手に入りそうだからな! ドロップ素材で武器を作るとか、ゲーマーの夢だろ! どんなのが出来るかなあ」
「楽しそうだね」
「もち!」
これで戦闘の幅が広がる。クリスタルの剣が出来れば、デュラルハンの攻撃を受け切ることも夢じゃねえ……かもしれない。
「どうなるかと思ったけど、結構楽しかったよ。たまには寄り道もいいな」
「えへへ、私も! ――ねえ、私とパーティにならない?」
えりぴよが少し落とした声でそう切り出す。
だが、俺の答えは決まってる。
「いや、俺は基本ソロだから無理だな」
「えー! なんで~いいじゃん~」
「今回みたいに手伝ったり突発だったりはイベント戦みたいで楽しいけどさ、俺はやっぱ一人でガンガンボスと戦いたいんだよ。だから、固定は無理かな」
「むむむ……戦闘バカだ……」
えりぴよは頭を抱えて悲しそうにぐわんぐわんと身体を揺らす。
「まあ、だから手伝いが欲しいときは助けてやるよ」
「本当!?」
「おう。だからフレンド登録だけしとくか」
「やったー!」
俺たちはシーカーを出すと、フレンドの登録を行う。
ピカッと光り、俺達の間を光が繋ぐ。
「――お、リストにえりぴよの名前が追加された」
「私も! やったー初めてのフレンド……! 沢山念話送っちゃう!」
「いいけど、ボス戦中に送ってきたら流石にキレるからな」
「だ、大丈夫……なはず」
えりぴよは苦笑いを浮かべる。
「……必要な時だけにしとくね」
「おう」
「それじゃあ、また会おうね!!」
こうして、俺たちは別れた。
まさかダンジョンの中で人を助けることになるとはな。MMOもほとんどソロでプレイしてたけど、こういう遊び方もあったのかな。
「うっし、武器ができたら次は三層攻略……燃えてきた!」
そうダンジョンに投げかけ、俺も帰路へとついた。
ネットの一部では、「テンリミット」という名前が密かに広まり始めていることなど、知る由もなく。
◇ ◆ ◇
とあるSNSに、クリスタルゲイザーと戦う探索者のクリップが拡散された。
決してバズったというほどの注目度ではなかったが、探索者関連の総合情報サイト――通称【探索者web】では、このクリップの話題が掲示板の片隅で展開されていた。
:これ、ノービス?
:らしい。一層攻略直後のピカピカの新人。
:動き凄すぎね?
:いや、どうだか。探索者ってスキルゲーじゃん、素の動きくらいじゃ凄いとは思えんけど
:いやいや、葛西と白雪のタイマン見てないのかよ、にわかか?
:クソスキルの<突撃>をここまで上手く使ってんだからスキルの使い方も悪くないだろ
:つーか二層のフィールドボス程度で騒ぎ過ぎ。雑魚じゃん。
:だからノービスだって言ってんだろ。
:ゲームと一緒にするなって。リアルでこんだけスキルに頼らず戦えてるのやばいだろう普通に考えて
:ユキの時はただのオタクの顔ファンがすげーすげー言ってるだけだったけど、いよいよ本物の期待の超新星って感じじゃん
:ユキちゃんも強いだろうが
:こいつ配信してる? それ追って評価すれば良くない?
:やってない
:なんでやねん。何で今時やってないんだよ
:知らね……
:てか、テンリミットってあの?
:あのってなんだ。
:ゲーマーの……確か最近ダンジョン行くわみたいなことを言ってた気がする
:もやしゲーマーがダンジョンでこんな動き出来る訳ねえだろ
:それもそうかww プレイスキルは凄まじかったんだけどなw
数十人の利用者が議論するだけで、勢いがある訳でもないスレッドだが、それでも彼らはこの動画のテンリミットに興味が惹かれていた。
一方で、別のスレッドではダンジョンの王の話題で持ち切りだった。とうとうその一人、デュラルハンが現れたと。そして、あろうことかそいつと打ちあった奴がいるらしいと。
しかし、この二つを結び付ける人物は誰一人としていなかった。それぞれが別の人物の話題だと。
だが、何かが動き出している――そう、誰もが感じ始めていた。
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