天才廃ゲーマーによる規格外ダンジョン攻略~ゲームで培ったプレイスキルで無双していたらバズってました~

五月 蒼

プロローグ

第1話 最強の廃ゲーマー

 世の中には、たくさんのゲームがある。

 RPG、FPS、格ゲーに音ゲー、MMOにソーシャルゲーム――。


 そのどれもが魅力的で、俺は小さい頃からどっぷりとゲームの世界に嵌っていった。


 面白いストーリーに没入し、主人公に自己投影して世界を救ったり。はたまた、対人戦に熱中して一日中戦場に籠ったり。


 とりわけ、剣と魔法を駆使してギリギリの戦いをするファンタジーゲームには目がなかった。


 現実ではあり得ない魔法やスキル、一瞬の油断が命取りの剣戟。そう言った興奮が、ゲームならいつでも味わえる。


 ゲームは現実では出来ない可能性で溢れている。そんな世界にあこがれて、気が付けば俺は一日中ゲーム漬けの日々を送っていた。


「おしっ……あと一押し!!」


 電気の消えた薄暗い部屋で、モニターから放たれる強烈な光が俺の顔を照らす。

 俺はモニターに向かい、全力でキーを叩く。

 WASDキーを高速で入力しながら、ハイセンシのマウスをミリ単位で調整していく。


 技を極め、装備を集め、ステータスを完璧に上げた。キャラコンが要求されるゲームでもあり、もはや自分の体のように動かせる。


 そして今俺は、「ファントムダーク」の裏ボス……“徘徊するドラゴン”ナムザークとの死闘を繰り広げていた。


 終焉都市、星海天蓋の古城。

 ナムザークは蒼い炎を撒き散らし、近づくものを焼き払いながら矮小な俺へと猛攻を続ける。古城は火の海と化していた。


 足の踏み場はなく、高レベルのキャラコンを求められるフィールド。

 だが、そんな制限された状況でも俺は寸分の狂いなく攻撃を続ける。


 そして、ナムザークの致命の一撃に対して俺は完璧なパリィを繰り出し、ナムザークは怯んで身体を後退させる。今までになかった瀕死モーションだ。


 俺は勝利を確信し、笑みを浮かべる。


「お前は間違いなくファントムシリーズで一番の強敵だったぜ。けど、それもここまでだ。――これで……終いだっ!!」


 横一線。抜刀スキルにて溜め込んだエネルギーを、一気に叩き込む。

 筆でなぞるような白と黒のエフェクトとクリティカルヒットを表す稲妻が走り、ナムザークが弾き飛ぶ。


 ナムザークは断末魔の叫び声を上げると、まるで一斉に飛び立つ蛍のように光の泡を放ち、満点の星空へと消えていく。


 そして画面には、CLEARの文字が表示される。


「う――……うおぉおおおお!! 3分20秒!! タイムアタック一位!! もらったぜえええ!!」


 俺はマウスを投げ捨て、ゲーミングチェアから飛び上がると嬉しくて小躍りする。


 画面には討伐タイムのランキングが表示され、その一番上に俺の名前“テンリミット”の文字が刻まれている。


「ふはは、これで“ファントム”シリーズの裏ボスのタイムアタックは全て俺が一位! いやあ、気分が良い!」


 悪役のような笑い声を上げ、俺は記念にその画面のスクショを取り、すぐさまSNS「ツイスト」にあげる。


 とはいえ、こういったものは全て自己満足だった。

 今はやりの配信や動画を上げてみたり、プロゲーマーやストリーマーに成ったり。そういった承認欲求的なものは殆どなかった。


 「ツイスト」も、日記や記録としてつけているにすぎなかった。気が付けば大量のフォロワーがいて、毎回いいねやコメントを付けてくれるが、返信したことはなかった。


 そんなことをしてる暇があったら、ゲームをしたい。

 それが俺、テンリミットこと天川理斗あまかわりとの考えだった。


 ソロ専門で、対戦ゲームは全て最高ランクに到達。アクションゲームやMMOでも、最速クリアやノーダメクリア、ワールドファーストなど様々な記録を打ち立てている。


 そこに今日、玄人向けで難易度が高く、史上最強の死にゲーと名高い「ファントムダーク」の功績が加わったのだ。気分は最高潮だった。


「いやーよかった、朝までかかったら死亡確定だからな。そんなデバフで登校したら終わりだよ、終わり」


 俺はくあ~っと伸びをして、時計を見る。

 既に時計は2:30を指している。だが、俺にとってはおなじみの時間帯だ。まだ眠気はそこまで無いが、明日を考えるとそう夜更かしもしてられない(十分してる気もするが)。


「丑三つ時ってやつか。そういや来月あのホラーゲームの新作が……っと、やべ、そんなこと考えてないで寝ないと……」


 そうして、俺は日課のゲームを終了し寝る準備をして布団へと潜り込む。

 ウキウキ気分で布団に入り、達成感と疲労感が同時に襲ってくる。眠気が無かったはずだが、割とすぐにやってきた。


 熱中していたゲームもあらかたやり込んだ。

 そろそろ違うタイプのゲームもしてみたいところだ。あと3日学校に行けば夏休みだ。そうすれば、時間はたっぷりある。


「さて、次はどんなゲーム攻略すっかなあ……」


 俺はそんなことを考えながら眠りについた。


◇ ◇ ◇


 ――明朝。テンリミットの投稿には大量のコメントといいねがいつもの如くつけられていた。


『<悲報> 最強の死にゲー“ファントムダーク”の裏ボス、まさかの3分20秒でクリアされる』

『すげえええええ』

『速すぎで草』

『裏ボスさん弱すぎで草』

『テンリミ最強! テンリミ最強!』

『さすがテンリミさんです、信じてました!』

『俺が狙ってたのにどうしてくれるんだよ、人間の出せる速度じゃねえだろ』

『またテンリミか。もうこれプロゲーマー超えてるだろ』

『配信してくれよ~リアルタイムで見てえよ!』


 テンリミ。素性のわからない謎の天才廃ゲーマー。チーターや、データをいじれる運営側、そもそもAIでは? なんて憶測が幾度となく流れている。


 しかし、その実力はオンラインで対戦するプレイヤーが太鼓判を押し、超有名ストリーマーやプロゲーマーも配信内で多分あいつが最強だと名指しで言及するほどの存在だ。


 そして、こんな夜更けにも関わらず、テンリミの投稿を引用する形で大手ウェブメディアから記事が投稿される。そのコメント欄も、テンリミについての話題で盛り上がる。


『テンリミの凄さは攻略の素早さじゃなくて反射神経。あいつのエイムとかパリィとか人間技じゃねえぞ』

『プレイ見たことあんのかよ』

『対人戦だよ、戦ったらわかる。人間じゃねえ』

『もしテンリミが配信してたら、超人気ストリーマーになっただろうにな、勿体ない』

『けど、今の時代はゲームの配信なんかしてもあんまりバズらねえだろ』

『だな。今は、ダンジョン探索配信一強だしな』

『ダンジョン探索の人気は別格だからな~』


 そんないつものようなテンリミに関する話題が流れる中、最新のコメントが一件付けられる。



『テンリミがゲームだけに飽き足らず、本物のダンジョンとか行きだしたらおもしれえけどなw』



 そんな戯言が電子の海に投下されていることなど、テンリミット――天川理斗本人は知る由もなかった。

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