22.霊泉

「奥に洞窟が続いてるな」


「はい」


「とりあえずこの蜥蜴の処遇は保留だ。それよりも早く行くぞ……!」


 揺は居ても立っても居られない様子だ。

 ひとまず二人は陽炎蜥蜴の処理は後回しにし、洞窟の奥へと進むことを優先する。


「今、私達はついにアンダーの二層に脚を踏み入れたぞ! この先に何があるのか、はたまた何もないのか……ワクワクしてきたな!」


 揺は興奮気味に言い、ついでに何かを取り出す。

 どこか見覚えのある風貌の人形だ。


「なんですか? それ」


「束砂くん人形だ……!」


(やっぱりそうだよね……)


「いや、まぁ、この場にいないのが流石に可哀そうだから、臨場感だけでも味あわせてやろうと思ってな」


『名無し:佐正! よかったな笑』

『名無し:だったらBAN解除してやれよ笑』

『名無し:欲しい……!』


(束砂には女性ファンが結構ついている……)


「ふむ、グッズ販売も視野に入れよう」


『名無し:おにぎりもお願いします』


「検討しよう」


『名無し:ミカゲさんもお願いしまーすと子供が言っております』


(……!)


「うむ、検討する」


(……)


 正直、ちょっと嬉しい自分ミカゲがいた。


 なお、揺のグッズは今時点で普通にある。

 ミカゲが攻略者になったあの日、嬉しさのあまりお布施として"揺ちゃん人形"を購入したのは上機嫌にふーんふーんと鼻唄まじりの人には秘密だ。


 ……


 二人は洞窟を進み始める。


 一本道の洞窟がしばらく続いていた。


 と前方に……


「お……?」


「出たな……アンダー二層、第一妖獣だ……」


 その妖獣はすでにこちらを警戒していた。


 人間ほどの身長をした猿のような姿をしており、手には刀を持っている。


(……刀)


 ミカゲはその猿が持っている刀が気になる。一層には刀を持った妖獣は存在しなかった。

 しかし、基本的にはモンスターや妖獣を討伐すると、その所有物ごと消滅してしまうので、そのまま刀を奪うことはできない。

 だが、ドロップしたトレジャーボックス内からはそのモンスターや妖獣に関連する品物が出る確率は多少なりとも上がる。


「あいつは……未確認妖獣だな」


【妖獣 刀猿とうえん 危険度65】


 ドローンが対象の妖獣の名称と危険度を示す。


(……危険度65……か)


 一体目であるため、偶然かもしれないが、アンダー一層の妖獣の危険度が1~20であることを考えると非常に高い数値だ。


「ミカゲ、いけるか」


「はい……自分にやらせてください」


 相手が刀使いとあっては、1対1大好き男の血が騒ぐ。


 と、刀猿が向かって来る。


(……)


 人間とは異なり、四足歩行で走るため、重心がやや低い。


(……重熾じゅうし


 真向から受けたミカゲの刀と刀猿の刀がぶつかり合う。


 ギィっ


 と、刀猿が大きくノックバックする。

 刀猿は想定外の反発力に幾分、驚きを見せる。


 パリイ。

 非常に簡単に言ってしまえば武器を使って弾くこと。

 ミカゲが得意とする技術だ。


 だが、刀猿に驚いている猶予はない。


 ギ……!


 ミカゲが迫撃を仕掛ける。刀猿は必死に刀で凌ごうとする。


 カンと一度、刀がぶつかりあう金属音が響く。


 しかし、二度目は響かない。


 両者は交差するように入れ替わり、背中向き同士となる。


 ギ……


 ミカゲは刀を振り抜いた姿勢。

 一方の刀猿は脇腹を抑えるように膝をつき、そして消滅していく。


 迫撃一度目の剣撃で大きくバランスを崩された刀猿に為すすべはなかった。


『名無し:ぐっじゅぶ』

『名無し:本当、パリイうめぇな』


「ナイス、ミカゲ……さぁ、先へ進もうか」


 揺はあっけらかんとしたものだ。

 それだけミカゲのことを信用しているのだろう。


 なお、トレジャーボックスは出現しなかった。


 ……


 その後もしばらく道なりに洞窟を進んでいく。


 道中、何体かのレベル60程度の妖獣と遭遇したが、その都度、ミカゲが処理していく。


 こんなにレベル60の妖獣と1対1ができるなんて……

 やはり練習と実戦では経験値が桁違いだ。とミカゲはひっそりと感嘆していた。


『名無し:揺さんの戦うところも見たいよー』


(あ……確かに……)


 ミカゲは少し反省する。


「まぁ、待て。真打は遅れて登場するものだ」


 などと揺は相も変わらず上機嫌だ。


 ……


 しばらく進んでいくと、無骨な洞窟以外の景色に辿り着く。


 その場所は洞窟の中にあって、ほんのり青白く発光している。

 直径25メートル程のドーム状の空洞になっており、その中央には泉がある。

 どうやら光は泉の中から発せられているようだ。


「うぉおおおお!」


 興奮しているのは揺だ。


「はは……どうしたんですか、揺さん」


「どうしたって、お前! これはすごいことだぞ!? あの無骨で何もない洞窟が延々と続くと言われていたアンダーにこんな場所があるのだから!」


「た、確かに……」


『名無し:地味にすげぇ』


「おい、そこ! 地味とか言うな!」


 揺はプンスカする。


「それにしても何で光ってるんでしょうね」


「そうだな……所謂、霊泉というやつかもな」


「霊泉……?」


「内部から妖力が漏れ出しているのだろう……これが魔力であれば、精霊なんかが好むものだが……」


「なるほど……」


「と、まぁ、大発見ではあるのだが、特にやることもない……先に進むか……って、あれ? 配信が停止してるな」


「え? あ、本当だ……」


「妖力の干渉かな……」


 揺が呟く。


 と……


「あ、あのー」


「「!?」」


 突如、背後から話しかけられ、ミカゲと揺は肩を揺らして驚く。


 振り返ると、そこには小さなが立っていた。


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