修道女見習いの秘めた恋 〜婚約破棄され追放された没落令嬢は聖女となって王国を救う〜

りむ

1 公爵令嬢テレジアへの断罪

「オブリージュ公爵令嬢テレジア!そなたは今日をもって王太子シャルル殿下との婚約破棄を決定!さらに公爵令嬢の身分を剥奪する!そして修道院送りとする!」




 玉座の隣に立ちそう高らかに宣言するのは、ごく最近新興中産階級から貴族に列せられたブルジョワジー侯爵。


 そして、私の婚約者だったはずのシャルル王太子の隣に座って満足そうな微笑みを浮かべるのはブルジョワジー侯爵令嬢ローザだった。




 豪華そうなドレスを身に着け、満足そうに笑っているローザに対し、私といえばさっきメイドの手によって強制的に着替えさせられた粗末な灰色の修道服。長く豊かだった金髪は肩の上くらいで乱暴に切られている。




 ちらちらとシャルル王太子に媚びた視線を送りながら、彼女はこう言い放った。




「どう?今の気分は?何か言いたいことはあるかしら?」


「…こうなったのは私の責任です。全てを受け入れます」




 私は顔を上げ、きっぱりと言い放つ。いくらこの状況でもこの場で無様な姿を見せて屈したくない。


 たとえ身分を剥奪されても、貴族の令嬢としてのプライドが許さない。




「そう。…どう思います?あ・な・た」


そう言って、ローザは王太子シャルルに目配せする。




「テレジア。ローザから全てを聞いた。そなたが王立貴族学院で平民のローザをいじめる悪役令嬢だったとは残念だ。王国は今、王侯貴族と平民の融合を目指している。ローザにかのような仕打ちをした以上、こうなるのは仕方がない。処刑せず修道院送りにするのはわたしの婚約者だったそなたへのせめてもの慈悲だ」




「分かっております」




 シャルル王太子の言葉に、私は頭をうなだれて言う。「王太子殿下のお慈悲に感謝いたします」




「では、連れていけ!」


 ブルジョワジー侯爵がそう、私の両側に立っている兵士に命じた。


「はっ!」兵士たちは私を粗末な荷馬車に乗せた。






 荷馬車は宮殿を出て王都へと出る。道路の脇を埋め尽くす民衆からは罵声が飛ぶ。




「あいつが王太子様の元婚約者の悪役令嬢か!」


「公爵令嬢か何か知らないが俺たちがひもじい思いをしているのに贅沢しやがって!」


「公爵も悪どいことばかりして暗殺されたとか…いい気味だ!」


「公爵家の子息どもも戦死して、公爵家は取り潰しだとさ。いい気味だぜ!」




 彼らの言うことのうち、オブリージュ公爵―私のお父様が暗殺されたことと、公爵家の子息である私のお兄様たちが戦死したことは事実。


 けれど、お父様は悪いことなどしていない。清廉潔白な王国近衛騎士団の団長として忠実に王家に仕えてきた。


 お父様を陥れたのは他でもない、ブルジョワジー侯爵だった。お父様の死後、士官学校を卒業したばかりの私のお兄様たちは勝つ見込みのない戦場の最前線に送られ、戦死した。




 そして、全ての後ろ盾が無くなった私に悪役令嬢の汚名を着せ、シャルル王太子の婚約者の身分を奪い取ったのがブルジョワジー侯爵令嬢ローザ。


 彼女は王立貴族学院にいた頃から、財産はあるけれど平民だったという立場を利用して、私にいじめられているというふりをしていた。


 大貴族の娘でプライドの高い私のことは特に気に入らなかったらしい。王太子の婚約者という立場がますますそれに歯車をかけた。


 ローザは虎視眈々と王太子妃の座を狙っていたからだ。社交界デビューしてからはローザは平然と王太子シャルルに近づき、猫を被って媚びを売った。


 王太子のほうもプライドの高い私より、可愛らしく素朴なふりをしているローザのほうを気に入り、半ば騙された形で私との婚約を破棄したというわけだ。






 そんなことを思い出しているうちに、荷馬車は王都を出ていた。


 荷馬車といっても私が逃げ出さないように、武装した精鋭の兵士が数人、馬に乗って見張りをしている。あくまで私を貶めるための荷馬車なのだ。


 私が送られる修道院は、王国の北西の辺境だという。まだ数日かかりそうだ。


 私は兵士たちに気付かれない程度に、少し身体を楽にすることにした。先は長いのだ。

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