エゴについて

 専門的な話はしないし、できないのですが、エゴという言葉だけ紹介させてください。


 ここで言うエゴは、わがままという意味ではありません。


 生まれてから今までに身についた経験や知識、それにまつわる思考のすべて、つまり、あなたの頭の中の言葉すべてのことを指します。自我とも言います。


 言葉って何のために必要でしょうか?


 もし世界に自分一人だったら、言葉は要りません。自分が思ったことを誰かに伝える必要がないからです。


 言葉は、自分が思ったことを他人もしくは未来の自分に伝えるためにあります。コミュニケーションツールです。


 この言葉こそが「自分は不幸だ」と感じる原因になります。


 なぜか。


 言葉があることで、他人もしくは過去の自分と今現在の自分を比較した結果を自分が認識できてしまうからです。短く言うと「評価ができる」ということです。


 言葉がなければ、自分も他人もただそこにいるだけです。


 でも言葉があると「あの人は私より裕福で幸せな家庭で暮らしている」「私はあの人より太っている」「私は以前に比べて齢を取り衰えたようだ」「あの人は旅行に行けるのに私は行けない」のように、自分に不足があるという評価ができてしまいます。


 これら評価や、自分の常識に照らし合わせた判断などが、あなたが幸せになることを妨げます。


「私はコンテストでいい結果を残せなかった。コンテストでいい結果を残せないのは悲しいことなので、幸せを感じてはいけない」

「私は容姿が劣っている。容姿が劣っているのは悪いことなので、幸せを感じてはいけない」

「私には休日に遊びに行ったり、ほしいものを買ったりする経済的余裕がない。経済的余裕がないのはみじめなことなので、幸せを感じてはいけない」

「私には子どもがいない。親に孫を抱かせてあげられないのは親不孝なので、幸せを感じてはいけない」


 これらはただの思い込みです。この言葉を囁いているのがエゴです。


 エゴは何のために存在しているのでしょうか?


 それはあなたを守るためです。


 エゴは生まれたときからの経験や知識の蓄積です。あなたが今まで、その環境で生きるのに適した常識(思い込み)を溜め込んできてくれました。そしてあなたが安全に生きられることを第一に考えています。


 そのためエゴは臆病です。既に経験したことから今後を予測するのは得意ですが、新しいことに挑戦する、つまり「変化」が大の苦手です。


 あなたが今の環境に強い不満を持っていて、それを変えたいと願っているとしましょう。


 エゴはあなたにこう囁きます。

「でも今まで、少なくとも生きてはこられたよね。今まで通りの生活を続けていれば、生きてはいけるよね。もし生活を変えたら、生きていける保証もないんだよ。だって経験したことがないんだから、どうなるかわからないでしょ。もっと悪くなるかもしれない。そんな危険を冒してまで変えたいって言うの?」


 ブラック企業で働いているとか、配偶者からDVを受けているというような深刻な場合でもです。

 結果、あなたは転職や離婚を躊躇うことになります。


 エゴは決して敵ではありません。ただ、おしゃべりしすぎるのです。あなたが話しかけなくても、一人でずっとしゃべり続けています。


「さっきあの人、怒ってたみたいだった。何か気に障ることをしちゃったかな。何か失言したっけ。そういえば私は前にもデリカシーに欠ける発言をして相手を怒らせたことがある。そうだ、私はデリカシーに欠ける発言をしてしまうダメな人間なんだ。直さないとみんなに嫌われてしまう。どうしたらいいんだろう……。でもあの人だって、そんな簡単に怒らなくてもいいのに。こっちに悪気はないって雰囲気でわかるでしょ、普通。あの人もちょっと神経質すぎだよね。こんな簡単に怒るんじゃ、つき合いづらくてしょうがない。今後はなるべく距離を置くようにしよう。でも一緒に仕事してる以上、私が避けていると気づかれても困るし……」

 と推測や未来予測を繰り返したり、


「私が子どものとき、親は私に何もしてくれなかった。他の家庭の子は、外食したり旅行に連れて行ってもらったり新しいゲームを買ってもらったりしてたのに。お金がないからできないって言われたけど、だったらもっと働けばよかったじゃない。子どもにいろんな経験をさせるために頑張って働く親もいるのに、うちの親はそういうことをまったくしてくれなかった。それに親らしく、子どもを気遣うような発言もなかった。言うのは『~しなさい』『~してはダメ』ばっかりで、私の感情や考えを受け止めようとはしてくれなかった。私はこの親の元に生まれて幸せだと思ったことがない。だから私にもこの親を幸せにしてあげる義理なんてないんだ」

 と過去を思い出して今現在と結びつけたりします。


 こういうエゴのおしゃべりが、何か役に立つでしょうか?


 日々の生活をそのまま継続するという点では役に立ちます。あなたはずっと今まで通りの思考を繰り返して、今まで通りの幸福度(不満度)を維持できます。


 でも願いを叶えるという点では役に立ちません。


 なぜならエゴは、過去から継続した未来を予測するだけだからです。


 過去とつながらない未来、例えば宝くじで10億円当たった、何の実績もないのになぜか大企業の正社員に採用されて年収が倍になった、という未来はエゴには予測できません。だからエゴに訊いても無駄なのです。


 試しにエゴに訊いてみましょうか。


私「宝くじで10億円当てたいです。どうしたらいいでしょうか」

エゴ「宝くじの1等に当たる確率を知っていますか? 1000万分の1ですよ。1口300円で1000万口分買うとしたら、30億円必要になります。あなたが買えるのはせいぜい10口でしょう。当たるはずありませんよね。買ったつもりでその分を貯金したほうがよいのでは?」


私「Googleに就職したいです。どうし――」

エゴ「いや、あなたプログラミングもできないし、英語もできないでしょ。無理ですよ」


 問題解決をする力もエゴにはありません。エゴはむしろ、問題のないところに問題を見つけ出す存在だからです。


 今、目の前に「将来の困窮」はありません。将来の問題は、将来になってから起きます(もしくは起きません)。

 でもあたかも今、目の前にそれがあるかのように「このままじゃ大変だ! 何とかしないと!」と騒ぎ立てる、それがエゴです。


 幸せになる方法を思い出してください。


1.「自分は今現在、完璧で最高に幸せだ」と決める。

2.あとは何も考えないようにする。


 この2が「エゴにしゃべらせないようにする」ということです。


 エゴにしゃべらせないようになんてできるのか?


 普通、できません。瞑想の上級者でも丸一日思考を止めることはできません。初心者は一呼吸分も難しいでしょう。


 なので、できるだけで大丈夫です。できるだけ、自分や他人を見て評価や判断をすることをやめる。自分も他人も、現象として生じているだけだと思うようにする。

 気にしない、どうでもいいと思う。

 執着しない。

 特にネガティブな感情がわいたときには、その感情を受け流します。ぐずぐずと引っ張って囚われていても、いいことはありません(嫌な感情の取り扱い方については後の項目でご紹介します)。


 それでもエゴのしゃべりすぎを止められない。どうしてもネガティブな感情に浸ってしまう。


 大丈夫です。「エゴに願いを叶える力なんてない。エゴがしゃべる内容は無駄だ」ということだけ認識して、好きにしゃべらせておいてください。


 幸せになるのに条件をつける必要はありません。自分が「こうしなければ幸せになれない/幸せを感じてはいけない」という条件づけをしているのに気づいたら、その都度外してください。

 当然「エゴのおしゃべりを止められなければ幸せになれない」なんてこともありません。


 大事なのは「自分は今現在、完璧で最高に幸せだ」ということです。

 あなたが認めても認めなくても、これが真実です。

 あなたがネガティブでも、何を考えていても、そのままで完璧です。

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