第32話 三角関係?
今日は大輝と光君、俺の三人で市場の海鮮丼を目指す。
もちろん俺が車を出す。
高速を使い海の見えるところまで、結構な遠出だ。
朝早い集合に二人は眠そうだ。
「二人とも寝てていいぞー。」
「いえ!僕は起きてます。」
光君は即答だ。
「わりぃ〜な。俺はちょっと寝かせてもらうわ。そのために広々後部座席にしたんだ。よし!光君、直樹の話し相手を頼んだぞ。」
「はい!喜んで♪」
大輝は本当に寝る気だ。
多分爆睡だろう。
「直樹さん、僕どうしても寄ってほしいサービスエリアがあるんですがお願いしてもいいですか?」
「え?あー、いいよ。せっかくだから寄ろう。でも買い食いの量は気をつけてね。」
「はいっ、もちろんです!」
「光君は朝早くても元気なんだね。」
「そうですね、割と。逆に夜が弱いかもです。」
「若いのに珍しいな。」
「直樹さんは朝得意ですか?」
「そうだね、もうおっさんだから意識しなくても5時ごろ勝手に目が覚めちゃうよ(笑)」
「5時って早いですね!朝活充実してそう。」
「朝活?そんなのしないしない。植物の水やりやってゴミ出ししたり、縁側でコーヒー飲んでボケーっとしてるくらい。」
「なんか目に浮かびます(笑)」
「笑うな(笑)。ところでサービスエリアで何か買いたいものでもあるの?」
「はい。焼き立てパン屋さんがあるらしくて、メロンパンが有名だそうです!」
「へぇー。俺も買おうかな。」
「おっ、良いですね。お腹のことも考えて一個を半分個しましょうか?」
「もしもーし、一個じゃ俺の分がないじゃないか。」
すると後部座席から大輝が会話に参加してきた。
寝るんじゃなかったのか。
光君が素早く後ろを振り返る。
「なんだよ〜。こっち見るな。俺を仲間外れにしようなんて。まったく。」
「プッ、ハハハハッ。」
「だからなんだよ光っ!」
「あー、どさくさに紛れて僕のこと呼び捨てしましたね(笑)。直樹さーん、大輝さんが僕のこと呼び捨てにします。」
「なんだよお前ら。朝からうるさい。俺は引率の先生じゃないんだよ。」
「だってー。」
大輝と光君が声を揃える。
「直樹ー、俺がメロンパン好きなの知ってるだろー。お前こそ酷いぞ。光君と二人で楽しそうにしちゃって。俺の分は必須だろ?」
「そうだな。大輝の分も必要だな(笑)。」
「あっ、直樹さん、僕飲み物保冷バッグに数本用意してます。お茶、コーヒー、紅茶、どれがいいですか?」
「おー、気が利くな。有り難い。」
「もしもーし、俺には聞いてくんないの〜?」
大輝がふざけた声で言う。
「もちろん聞きますよ。こういうときは運転手さん優先です!で、直樹さんは何がいいですか?」
「あ、じゃあコーヒーで。」
「はい。今飲みますか?キャップ開けますよ。」
「ありがとう。じゃあお願いしようかな。」
「はい♪」
光君がペットボトルのキャップをひねる音がする。
俺が反射的に左手を出すと、手の甲を包むように光君の手が重ねられる。と同時にペットボトルが手のひらにあたる。
心臓がドキッとする。
「どうぞ。キャップは僕が閉めますから必要なら言ってくださいね。」
「あ、うん。ありがとう。」
「さてさて、大輝さんは何がいいですか?」
「ついでみたいに扱うなよ。」
「そんな滅相もないです。大輝さんは何が飲みたいですか?」
「お茶ください。」
すると光君はそのままスッと未開封のペットボトルを大輝に手渡す。
「あれ?俺には開けてくれないの?」
「何言ってるんですか?子どもですか?大輝さんは両手空いてるでしょ。」
「別にいいじゃん、俺だって優しくされたいわ。」
「もう(笑)仕方がないですね。」
そう言うと光君はキャップを開けて大輝に優しく手渡す。
なんかこう、なんでもないやり取りいいな。
なんか癒やされる。
そうこうしている間にサービスエリアに到着した。
「よし!みんな降りてメロンパン行こうか。」
「おぅ!」
「はいっ!」
大輝と光君が元気に返事をする。
おっさん二人と若者一人、周りから見たら一体どんなふうに見えてるんだろう。
二人はすでに店内の中に吸い込まれていった。
俺も慌てて追いかける。
「どうしましょう、大輝さん!こんなに美味しそうなパンがたくさん…」
「だな。メロンパンだけなんてあり得ないだろ。」
「ちょっと!二人とも落ち着け。このあと海鮮丼を美味しく食べるために今買ってもメロンパン以外は食わせないぞ。」
「おまえ、そういうとこな。いちいち段取りちゃんとし過ぎてつまんねぇ。」
大輝が不貞腐れる。
「あっ、大輝さんそんな言い方ダメですよ。今日は海鮮丼の日です。」
「よし、そしたら傷まなそうなパンならお土産として少し買おうか。な、大輝。」
「ん?まぁ、それならいいよ。」
「それならってなんだよ(笑)さっ、好きなもの選んで買ったら行くぞー。」
また再び目的地まで車を走らせる。
二人ははしゃぎ疲れたのかウトウトしている。
しばらくすると完全に寝たのか、車内は静かになった。
ふと横を見ると光君の頭がすごい角度で横になっている。
これはそのまま放置する?
でもな…あの首の角度、起きたら絶対首痛くなるやつだよな…
どうする俺。
光君のこととなると、いちいち触れていいのか迷っちまう。
どうするよ。
何だ、別にちょっと頭に触れてそっとまっすぐにしてやるだけだ。
そんな考えることでもないだろ、俺よ。
渋滞が抜けそうにない。
このまま30分以上寝かせるのも首が痛々しい。
俺は光君を起こさないよう、そっと頭の後ろに手を置いた。
柔らかくてサラッとした髪だ。
そのまま傾いた頭を戻す。
戻した瞬間微かに良い香りがした。
優しい匂い。
このままもう少しだけ光君の髪に触れていたいと思った。
男の子だけどまつげも長くて、なんて綺麗な顔立ちなんだろう。
思わず見とれてしまいそうになる。
渋滞が流れ始めた。
俺はそっと手を離し運転に集中した。
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