第22話 俺からのお誘い

 散々悩んでやっと大輝と光君を食事に誘った。

二人とも都合のつく日があって無事に今日集合することになった。


今日は大輝の希望でしゃぶしゃぶの食べられる店を予約した。


店の前に着くとすでに大輝がいた。


「さすが10分前の男。待たせて悪いな。」


「いつも通りだろ(笑)。そんなことよりお前から集合かかって驚きだよ!初めてじゃん。」


「そうだったか…?」

なんだか照れくさくて適当な返事でごまかす。


「お待たせしました!」

光君も到着する。


「今日は予約してあるから中入ろう。」


今日は個室を予約した。

周りにたくさん人がいると疲れるからだ。


「初めて予約したから味はわからんよ。」


「心配すんな、俺ネットで見たら口コミ良かったぞ。しゃぶしゃぶ、お腹いっぱい食べるぞー!」

大輝はやはり今回も楽しそうだ。


「僕、しゃぶしゃぶのお店初めてです。」

光君はメニューを見ている。


「食べ放題のコースだから残さないように各自考えてオーダーしてな。」


「はーい!」

大輝と光君が元気に返事をする。

なんて平和な光景なんだ。


あっという間にテーブルが肉で埋め尽くされた。


「光君が働いているお店、もう長いの?」

俺は緊張しながら話を振る。


「はい。今年で2年目です。店長さんがすごく良い人なのとまかないが美味しくて辞められません(笑)」


「そうか。バイト先に楽しみがあるって最高だな。

食べるの好きなの?」


「はい!大好きです。行ってみたいお店沢山あるんですけど一人で飲食店に入れなくて。」


「それは勿体ない。世の中にはうまいものいっぱいあるぞ。」

大輝が言う。


「あのぉ…お二人はお仕事とお家のこと忙しいとは思いますが、月に一回どなたか僕の食べたいお店一緒に行ってくれませんか?」


俺と大輝はお互いの顔を見合う。


「もちろんいいよな?直樹。」


「あぁ。」


「ただ、俺達三人の予定を定期的に合わせるのは難しいかもしれんから、光君のタイミングで俺達に連絡してみて。それで行ける方が行くってのは?」


「そうだな、三人そろえば三人で。ダメなときは二人で。」


おい、待て。それ大丈夫なのか俺は。

光君と二人で会ったことほぼないぞ。

会話がもたなかったらどうすんだ?

若い子の話題なんて知らないし。

そんな事を考えている間に目の前で光君の眩しい笑顔が飛び込んでくる。


「嬉しいです!ほんとに。弟達は味とか見た目とか興味なくて、とにかく腹いっぱいになればいいって感じなんで。それに毎回弟二人連れていけるほどバイト代多くなくて…」


「そりゃそうだ。まぁ俺も直樹も行けないってなることもあると思うけど、気楽に誘ってみて」


「はい!ありがとうございます!ところでしゃぶしゃぶ美味しいです!お肉が薄いので結構食べちゃいそうです。」


「俺もー!俺の胃袋光君と同じかな。俺若いな。」 

大輝が嬉しそうに食べる。


誘って良かった。

なんか俺も楽しいし、嬉しい。

光君が若いからだろうか、この子には美味しいもの沢山教えてやりたい…なんて思ってしまう。


三人で時間ギリギリまで食べた。


店を出ると夜風が気持ちよかった。


「今日は誘ってくれてありがとな、直樹。お前からの誘いすっげぇ嬉しかったぞ。光君も来てくれてありがとな。俺はあっちだから。光君は?」


「僕は逆方向です。」


「そうか、じゃあ直樹と同じだな。俺はここで。またな。」


「おう。またな。」

「ありがとうございました!」


光君と二人になって急に緊張が襲ってくる。


「直樹さん?人見知りですけど僕と二人で大丈夫ですか?」


自分の心の中を見透かされている気分になる。


「え?あぁ大丈夫。」

咄嗟に嘘をつく。この歳で子どもみたいな年齢の子相手に緊張しているなんてバレたくない。


「良かったです。じゃあ一つわがまま言っても?」


「え?何?」


「すごい警戒してますね。怖い事言わないから安心してください(笑)コンビニでアイス買ってもいいですか?」


「プッ。なんだそんなことかー(笑)いいよ。」

俺の緊張が一気にとれる。


「せっかくだし、途中の公園で食うか。」


「良いですね。」


それから小さな公園に寄った。

滑り台にブランコとベンチが一台。


「せっかくなんでブランコに座りましょ。」


「え?俺は恥ずかしいよ。おっさんだし。」


「夜だしこんな小さな公園、誰も来ませんよ(笑)」


それもそうかと思いブランコに座った。

子どもの頃以来でなんか懐かしい。


「直樹さんて背、何センチですか?」


「俺は173。」


「やっぱり。背も高いしスタイルいいなって思ってました。」


「そんなことない。平均並みだよ。」


「平均って言わないでほしいです。僕なんて160しかないんですから。」


アイスを食べ終えると光君がスッと目の前に来て

コンビニの袋を広げた。


「ゴミ、僕捨ててきます。」


「あぁ。ありがとう。」

なんて気の利く。若いけど若さ特有のトガリを全く感じない。

物腰がすごく柔らかくて優しい。


光君がゴミを捨てて戻ってきた。

突然俺の背後にまわる。


背中に手の感触…と思ったときにはブランコが揺れだしていた。


「おいっ!恥ずかしいから止めてくれ。」 


「誰もいませんてば(笑)こんなときぐらい大人を忘れてもいんじゃないですか?」


「…。」

黙ってブランコに揺られる。

夜風のせいもあって、体で受ける風が気持ちいい。

ブランコがキーキー鳴っている。


「俺の体重で壊れないかな。」


「大丈夫。だと思います。どうですか?楽しいですか?」


「…。楽しいというより、風が気持ちいいな。」


「良かったです。次僕が押してもらう番ですからっ。」


そう言うと光君は背後から隣のブランコに座った。


あれ?ブランコってどうやって止めるんだっけ?

久しぶりすぎてどんくさい。

足を地面に付けると足がもたついてしまう。


「直樹さん、もう少し揺れが小さくなってから止めていんじゃないですか?(笑)急に止めにかかると靴脱げますよ。」

光君が隣で大笑いしている。


「お、お、そっか。止め方すら忘れてるよ。」


ようやくブランコから降りて光君の背後に行った。

初めて見る背後からの光君は確かに男にしては小柄だ。

大食いのわりに細身で色白だ。

どのくらいの力で押すのかわからずとりあえず、

子どもを押すのと同じくらいそっと押した。

手を当てると光君の体温が手に伝わる。


「直樹さん、押し方優しすぎです。僕大人なんで小さい子と同じじゃなくて平気です!もっと元気よく押してください。」


「そうか?んじゃもう少し。」

そう言って思い切って押すのと光君は楽しそうに笑っている。


「ありがとうございます。満足しました。」


そう言うと、俺は離れてブランコが止まるのを見守る。


「今日もすっごく楽しかったですね!そろそろ帰りましょうか。」


時計を見ると結構いい時間だった。

なんだろう、不思議な感覚。

気持ちがあったかくなる感じ。


「そうだな。」


そう言って二人で駅に向かった。








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