第13話 ともだち

 今週は普段より仕事もはかどった。

あっという間に週末がきた。


身支度を整え店に向かった。


店の前には大輝がいた。

俺は慌てて小走りして駆け寄った。


「はやいな!待たせたか?」


「いや全然。仕事の癖で10分前には来てないと落ち着かなくて(笑)」


「そっか。ちなみに俺は5分前派」


「ハハハハッ」


二人で同時に笑い合った。


「じゃ、入ろうか。」


「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ。」


そう言われ、俺は窓際の景色が見える席を選んだ。


大輝は目をキラキラさせてメニューを見ている。

俺は何にしようかな…。


すると大輝が照れくさそうに話しかけてきた。


なぁ…

俺2種類食べたいのあるんだけど。

結構腹空いてるから両方頼んでいいか?


俺はなんだか気持ちがほっこりしてしまった。

なんて可愛らしい質問なんだ。


「もちろん。食べきれるならいいんじゃないか?

俺はそんなに食えないから手伝えないぞ。」


すると大輝は「よし!」と嬉しそうに言った。


店員を呼ぶ。

「ご注文をお伺いします。」


えっと…

俺は濃厚カルボナーラのランチセットでお願いします。


大輝は?


あっ、俺は国産牛のロースステーキとペペロンチーノで。


「かしこまりました。食後のデザートとお飲み物はお決まりですか?」


俺はティラミスとコーヒーを。


大輝は?


じゃあ俺も同じものを。


「かしこまりました。」


店員がいなくなってから、大輝にツッコんだ。


おまえわんぱくだな。

40代の胃袋とは思えない。


大輝は恥ずかしそうに言った。


だよな?

俺もそう思う。職場とか家族の前じゃやんない。

おっさんがデブになっても困るしな。

でも今日は特別。

お前と食事するときは我慢しないんだ(笑)


すると料理が運ばれてきた。


「お待たせいたしました」


反射的に顔を店員に向けると、店員と目があってしまった。

!!!

そこにはハチワレ男が立っていた。


ハチワレ男も一瞬手が止まる。


するとハチワレ男が小さな声で話しかけてきた。


あの…間違いならすみません。

喫茶店のときの方ですよね?

確かこの前もこのお店にいらしてましたよね?


すると俺よりも先に大輝が口を開いた。


え!?

お前にこんな若い知り合いいたの!?

人見知りのお前が!


そのまま大輝はハチワレ男に話しかけだした。


あ、ねぇねぇコイツ、すっげぇ人見知りでさ。

ともだち少ないんだよ。

おっさんだけど、いいヤツだから仲良くしてやってください。


大輝が一気に喋るせいで、俺は否定する隙もなかった。


ハチワレ男は驚いた顔をしている。

一瞬間があった。


ハチワレ男は運んできた料理を並べながら言った。


そうなんですね。

実は以前人違いで僕が話しかけてしまって。

ご迷惑をおかけしまして。

失礼ながら、僕もその時この方、優しそうで良い人そうな印象でした。


俺は完全に会話の蚊帳の外状態だ。


またしても大輝が口を開く。


そうでしたか!

これもなにかの縁ですから、ご迷惑でなければ

ともだちになってやってください。


ハチワレ男はまたも驚いた顔をした。

が、そのあとニッコリ笑って言った。


ありがとうございます。

僕、同世代苦手で。

歳上のおともだち、大歓迎です。

えっと…

でも、よろしいんでしょうか?


とハチワレ男は俺を見る。


俺は咄嗟に「よろしくお願いします…」と言ってしまっていた。


ハチワレ男は笑顔で言った。


こちらこそです!

あとでデザートメニューをお持ちしますので、そのときに連絡先お渡ししますね。

では。


というと店の奥に戻って行った。


俺は慌てて大輝にクレームを入れた。


おい!なんで勝手に…。

俺完全に会話に参加する隙なかったぞ。

お前一方的に…。


すると大輝は笑った。


直樹は世界が狭すぎ(笑)

もう45歳だぞ?

会社以外でこんな若い子と、ともだちになれる機会なんてないんだぞ?

ましてや女じゃないんだ、相手は男。

ずっと同じ人間関係は安心安全だろうけど、

このままじじいになってもつまんないぞ。

こう見えても俺は人を見る目があるし、あの子はきっと良い子だ。

お互いしっくりこなきゃ自然と関係も切れるだろうし、いいじゃないか、こんな出会いも。


大輝にそう言われると、そうなのか?と思えてしまう。

それに俺からよろしくお願いしますなんて言ってしまったんだ。

今更断ることもできない。


俺の心拍数はとんでもないほどドキドキしていた。






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