第14話 旅行計画

「俺と部長を……?どういうことだ……?」


 どういうことだ?というよりも、どういうつもりだ?という方が、今俺が抱いている疑問を正しく表現しているかもしれない。

 俺と部長を恋人同士にする。その意味は分かる。

 しかし、どうして今日やってきた転校生がそんなことをしようとするのか、という話になると全く見当がつかない。


「訳が分からない、といった表情ですね。でもそれでいいんですよ。ライトさんはこれからも普段通り、いつも通り、今まで通りに生活してくれれば大丈夫ですから」


 アビルくんは不敵に笑った。


「大丈夫って……」


 こっちは全然大丈夫じゃないのだが。

 第一、部長と恋人関係になれ、だなんてどんな拷問だよ。

 こんなこと本人の前じゃ口が裂けても言えないが、想像しただけでも寒気がする。


 そんな俺の失礼な思考を察知したかのように部長が部室に戻ってきた。

 手に持っていた入部届を「はい、どうぞ」とアビルくんに渡し、彼は「ありがとうございます」と健気に応える。


「……おい、ライト。誰の許可を得てボクの定位置に座ってるんだ?さっさとどきたまえ」


「え。ああ、すいません」


 しっし、と手を振る部長に負けて俺は席を移動せざるを得なくなった。

 そうなると残る座席はアビルくんの隣ということになるのだけれど……、まあこの際我慢するしかない。

 恐る恐る席に着く俺をアビルくんは何をいう訳でもなく、ただ薄気味悪い笑みで迎え入れてくれた。


「……それで、だ。実は今日の本題はアビルくんの紹介の他にもう一つあるんだ」


 こちらも席に着いて、入部届を取りに行くついでに買ったと思われるサイダーに口をつけながら部長が話し始めた。


「まだなにかあるんですか……」


 部長はなんだか楽しげだが、聞かされるこっちは気が気ではない。

 今度は一体どのような面倒ごとを申し出てくるのか。

 許されるならば耳を塞いで、そのまま家に直行したいのだが……。


 そんな俺の願いも虚しく、部長は言った。


「来週末、ボクたちオカルト研の三人で、一泊二日の旅行に行きたいと思う!」


 ◇


「来週末って部長……、あなた修学旅行じゃありませんでしたっけ……?」


 色々聞きたい部分はあるがまずはそこだ。

 自称進学校である北紅葉高校の修学旅行の時期は他校より早く、二年生の六月末から七月の頭にかけて行われる。

 今年も例外ではなく、俺の記憶が正しければ、二年生は来週末から北海道へ旅立つはずだ。もちろんそれには部長も含まれる。


「修学旅行?ああ、もちろん欠席するよ」


「はあ!?」


 なにが「もちろん欠席するよ」だ。行けよ!

 せっかく部長の魔の手から遠ざかれると思っていたのに、なに平然と休んでんだ!

 まあ、答える前から何となくそんな気はしていたけれども!


「だって、ボクって同級生に酷く怖がられてるみたいだからさ。そんな状態で旅行なんて、お互い楽しくないだろう?」


「いや……、まあ、そうかもしれませんけど……」


 実際、修学旅行で部長と班行動なんてことになれば、さんざん振り回されたあげく最終的に「つまんなかったね」とか言われて、最悪流血沙汰も免れないだろう。


「部長さんの持つ特異な世界観を理解できないとは、二年生の先輩方はよっぽど愚かな方が多いんでしょうねー」


「おおアビルくん!いいことを言うじゃあないか」


 アビルくんのわざとらしいフォロー(になっているのかどうか分からないけども)に無邪気に喜ぶ部長。

 この人、試験では毎回学年トップの成績らしいが、本当に頭がいいのだろうか。

 堂々とカンニングしているが、先生から呆れられて放置されているだけなんじゃないだろうか。


「……それで、俺たちは一体どこに行く予定なんですか?一泊二日じゃ、そう大したことはできないと思いますけど」


 もう一つの重要事項について尋ねた。

 週末に一泊二日、という部長にしては無茶のない日程。

 しかし、問題はどこへ行くのかだ。

 いくら部長でも、いきなりアメリカへ行くぞ!なんてことは言わないと思うけれど……。いや、言いかねないか。


 俺の質問に対して、部長は待ってましたというように目を輝かせた。


「よくぞ聞いてくれた!それでは今回ボクが計画した旅行のテーマを発表しよう!」


 既に出発前日のようなテンションの部長は、声高らかに言葉を続ける。


「題して、『廃村から異世界へ!山神様召喚ツアー』だ!」


 しまった。やはり耳を塞いでおくべきだった。

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