第11話 部長の話③
「行くって一体どこに行くの!?こんなドラゴンが出てくるなんて聞いてないよ!」
「どこに行くかは着いてからのお楽しみさ。それに安心するといい。この竜はよく飼い慣らされていいるからね」
そう言うとウサギは軽々とジャンプし、竜の背に着地した。
そして「君も早く乗りたまえ」と言わんばかりにじっとボクを見つめている。
「食べられない?」ボクは尋ねた。
「食べられないさ。こう見えてこいつは頭がいいんだ」
ウサギの言葉に応えるにドラゴンは低く唸り、肩を低くしてボクが乗りやすいようにしてくれた。
そこにしっかりとした理性を感じて、とても安心したのを覚えている。
ボクは凸凹した鱗を掴みながらゆっくりと竜の背に登った。
登り切ってウサギのすぐそばから下を見ると思っていたよりも高い。
それに、ドラゴン自体が多少揺れているので足元が不安定で怖かった。
「せっかくならお嬢さん。頭に乗っけてもらうといい」
不安そうなボクに向かってウサギはそんな無茶ぶりを言った。
「え!いや!絶対いや!」
猛烈に拒絶するボクをウサギは笑う。
「はっはっは、そんなことを言わずに乗ってごらんよ。角に掴まれるからここよりも安心して座れるよ」
「……でもいいのかな。ドラゴンが嫌がったりしない?」
「そんなことはないさ。見てごらん」
ウサギが短い腕で示した方を見ると、ドラゴンの眼が静かにこちらを見つめていた。頭に乗ることを承諾してくれているのかは分からないけども、少なくとも嫌がっている様子ではなかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ボクは慎重に竜の首を渡りその頭にまたがった。
両脇に生えている角がいい具合に曲がっていて小学生の女児でも掴みやすい。
そしてウサギはボクの目の前に知らないうちに鎮座していた。
「うん、大丈夫そうだね。それじゃあ、行ってくれ!」
「えっ!ちょっ、わあ!」
ウサギの高らかな合図とともに竜が翼を動かし、その巨体が浮かび上がった。
その浮遊感がボクにも伝わり心臓がキュッと縮む感覚がした。
そんなことはお構いなしにドラゴンはどんどん上昇していく。
「しっかり掴まっておきなよ。落ちたら大変だからね!」
「やっぱり怖いよお!!」
もう引き返せない状況にボクは叫んだが、確かに、言われた通り竜の頭は存外揺れが少なく、じっとしていれば決して落ちることはないほど安定していた。
数分もすればボクはさっきまでの恐怖を忘れて、星空の旅を満喫する側に回っていた。
「すごい!星が近くに見える!」
「そうだろうお嬢さんがいた世界とは色々と違って見えるだろう」
「うん……。ほんとにすっごく綺麗」
これまで混乱と恐怖に包まれた旅路だったが、ここにきてようやく連れてきてもらえてよかったと思えた気がした。
それからどれくらいの時間飛んでいただろう。
上空から見える景色に夢中だったボクには一瞬だったように感じた。
ドラゴンは崖の上にそびえ立つ大きな塔の屋上に着陸した。
「ここだ。着いたよ」
またウサギの言葉に沿うようにドラゴンは姿勢を低くする。どうやらここで降りろ、ということらしい。
少し名残惜しかったけれど、角を掴んでいる手も疲れたので素直に降りた。
感謝のつもりで竜の頭を撫でてやると、ドラゴンは黙ってそれを受け入れてくれた。
「それで、一体ここはどこなの?」
周囲を見回しても特に何もない。しいて言えば屋上に上がるための階段が見えるぐらいだ。
いつの間にか竜の背から降りていたウサギが答える。
「ここは『星降りの塔』だよ。上を見て」
「上?」
ボクは言われた通りに上を見上げた。
そして言葉に息が忘れるほどに感動した。
「わあ……綺麗……」
そこにはさっきまでさんざん見てきたものよりも、さらに美しい星空が広がっていた。
星たちの大きさが先ほどとは比べ物にならないほど大きい。
「手をかざしてごらん」加えてウサギが言った。
正直意味が分からなかったけど、ボクは言われた通りそうした。
すると、ボクの手の平になにか固いものがぶつかった。
「わっ!?」
驚いたボクは反射的にその物体を握りしめてしまった。
ほのかに温かい。そして握った指の隙間から光が漏れていた。
「手を開いてみて。いいものが入っているよ」
「いいもの……?」
なんだか気味が悪かったけれどボクはゆっくりと拳を緩めた。
指が開くほどあふれ出る光。
そしてその中に入っていたのは。
ビー玉ほどの大きさの光り輝く石ころだった。
「星、だよ」
「え?星?」
「そうさ、君が掴んだんだ」
見た目はただ光っているだけの石だった。
でも、それが空に浮かぶあの星たちの一つだと聞かされると、喜びが湧き上がってくる。
「すごい!星を捕まえちゃったんだ!」
嬉しさのあまりボクはその場を駆け回った。
隅で佇んでいたドラゴンに見せびらかしたりもした。興味なさそうに顔をそらされたけれど。
「はっはっは。あまりはしゃぐと危ないよ」
「だって星だよ!もっと捕まえてもいいかな!」
ボクは再び夜空に手をかざした。
もっと、もっと、星に近づけば……、そんなことで頭がいっぱいで回りが見えていなかったんだと思う。
ふいに足場がなくなった。
「……え?」
いや、ボクが塔から落ちただけだった。
「桐子!!」
そんな叫び声を最後にボクの意識は途絶えた。
そして、次に気が付くとボクは自室のベッドの上に寝転がっていた。
手にはまだ淡い光を放つ石ころが握られていた。
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