青い手帳と決意表明

 事業所に二年程通う様になったその年。私は役所で手続きを取り、精神障害者保健福祉手帳を取得した。

 役所の福祉課で青い小さな手帳を手渡された時、私は「何だか見た目よりも少し重たいな」と思った。役所の福祉課の窓口の方はとても淡々としていて、事務的にすらすらと説明の言葉を述べた。

 相手の説明が終わった後、役所の方に会釈をし、席を立った、その瞬間。

 私は何だか不意に泣きそうになった。突然目頭が熱くなり、力を抜くと零れ溢れ出そうになる涙を、私は懸命に我慢して、ぐっと瞳の奥に押し込める。

 目が少し赤くなったことを周囲の人々に悟られぬように、私は顎を上にグイッと突き出して役所の真っ白で無機質な天井を見上げた。

 そして私はこう思った。

「今日から私は精神障害者だ。うつ病と診断されてもう何年も過ぎた。苦しくて、辛くて、しんどい思いも沢山してきた。だけれど、この病気になったからこそ、出逢えた人やものがある。だから全てを否定する事もないし、悲観することもない。障害を抱えながらも、病気と上手く付き合いながら、生活を送ろう。そして生きてみよう」

 そう己の心に誓いを立てて、私は足早に役所を後にした。そこには今までと違う決意で満ちた私が居た。

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