第3話

 今回のライブで私が歌う曲は、全員で歌う曲が四曲、五人組で歌う曲が一曲、美湖みことちゃんとの同期二人で歌う曲が一曲の、計六曲を担当する。


 全員曲は、研修生のオリジナル楽曲。明るくて元気な曲ばかり。


 私と美湖ちゃんを含む研修生五人組で歌う曲は「ビート・クイーンズ」という、リズム感が必要となる曲で、かなり難易度の高いダンスが特徴。強気な歌詞が私のお気に入り!


 美湖ちゃんと二人で歌うのは、「片思いの欠片かたおもいのかけら」という曲で、歌唱力を試されるバラード。失恋がテーマの曲。


 今日はユニット曲の「ビート・クイーンズ」と「片思いの欠片」のレッスンをする。


 だけど、レッスンはさんざんだった。昨日遅くまでかけて覚えたはずの振付はところどころ忘れてるし、忘れていることでパニックになって頭が真っ白になるし。


 研修生になりたてのころは、明るい曲調のものばかり任されていた。けど、研修生歴半年ともなると、課題が増えてくる。


 カッコいい表情を見せたり、切なさを表現するダンスをしたり……。


 正面の大きな鏡を見ながらダンスレッスンをするけど、私の隣に映る先輩研修生や美湖ちゃんはやっぱり上手い。


 リズムを刻みながら、ダンスを踊って生歌で歌って表情も管理して……って、難しい!


彩葉いろはさん! 集中!」


「はい!」


 ミキ先生は声が大きくて怖いんだよね。レッスン以外では、きさくでおもしろい先生なんだけど。


 ほかの研修生もいるし、曲数はたくさんあるから、ミキ先生がつきっきりで教えてくれる時間は少しだけ。貴重な時間だから無駄にはできない!


 とはいえ、「片思いの欠片」は自分でも上手くできたなって思えたけど、「ビート・クイーンズ」はダンスが難しすぎてついていけない。体力もすぐになくなって、自分の歌パートも忘れてしまうほどぼーっとしてしまった。



 悪戦苦闘しているうちに、あっという間に今日のレッスンはすべて終わった。全身汗だくだけど、この時に飲むスポーツドリンクは何よりも美味しい!


「次は、通しリハーサルとなります! 復習をしっかりして来てください!」


「はい!」


 声をそろえて、研修生たちは返事をした。アイプロって上下関係もあるし、めちゃくちゃ体育会系なんだよね。


「彩葉さん」


 帰り支度をしていると、ミキ先生が私を呼び、手招きした。


 嫌な予感。


 私は嫌だなぁという顔を表に出さないよう、表情を引き締めて小走りでミキ先生の元へ向かう。


「彩葉さん。五人組で歌うビート・クイーンズ、難しいですか」


 やっぱり。


 さっきまで熱を持っていた私の身体が、一気に冷める。


「すみません……」


「現状では、ステージに立てないレベルです。次回のリハーサルまでにお客様にお見せできるパフォーマンスになっていなかった場合、彩葉さんには参加を見送ってもらいます」


 ミキ先生は淡々と、でもどこか悲しそうに告げた。


 わかりました、とは返事ができず、うつむいてしまった。


「わからないことがあったら、いつでもなんでも聞いてください」


「はい」


 それしか返事ができなかった。ただでさえ参加曲数は他の子に比べて少ないのに、さらに減ってしまうなんてイヤだ。でも、実力不足は本当のことだ。自分でもわかってる。


 前回のライブも、一曲外されてしまった。どこか習い事気分が抜けなくて、「こんなもんでいいでしょ」っていう思いがあったし、本当に外されるとは思わなかった。


 いざ本当に外されてみると、信じられないほどショックだった。せっかく覚えた歌もダンスも、お客さんに見てもらえないんだよ。


 ミキ先生がレッスン場を出ていくと、美湖ちゃんが来てくれた。


「少し、居残りさせてもらう? 一緒にレッスンしよ」


「美湖ちゃん……ありがとう」


 こんな私のために、一緒に居残りしてくれるなんて。


「私たちも残る!」


 一緒に「ビート・クイーンズ」をやる三人の先輩研修生も、声をかけてくれた。一番研修生歴の長い岸田綾菜きしだあやなさんが、率先そっせんしてスタッフさんにお願いしてくれる。綾菜さんのおかげもあって、二十分だけレッスン場を延長してもらえた。


「五人で練習してきたんだから、五人でステージに立とう!」


 先輩研修生たちも、みんな優しい。できない自分が恥ずかしくて、申し訳なくて。でも嬉しくて、二十分の居残りレッスンに集中した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る