第20話 帝天

「はい、そこまでーぼくのかち〜」


動けない!なんて力...


レインはカインに押さえつけられた自身の頭を起こそうと必死に藻掻く・・・がビクともしない。


「いでで! 全くなんだよ〜ここであの悪ガキ殺さなけりゃ大勢の犠牲が出るって言ったのお前だろ?カイン」


ヴァンは口を尖らせ不満を垂れる。


「はい論破。今まで多くの人の善意を踏みにじり、その被害で利益を得てきて尚、迫害されても自分で何が悪いか考えず、改めようともしない...他人よりも優れてるとこが何一つ無いのに自分の自尊心を守るために他人を見下してばっかりのゴミ屑って言っただけだし...」


ディーンは心泣いた。


「それに今お前たちが暴れたら、あの化け物だって・・・」


カインはそう言いながら周囲を徘徊する化け物たちを見る。


「倒置論破すんなし。それに、化け物っつったってしれた数...」


苛立ちを隠せない様子でヴァンが反論しかけたところでディーンがふらふらとした足取りでこちらに歩いてくるのが目に入り話すのを反射的に辞める。


ディーンは必死の形相でヴァンとカインの二人に捲し立てる。


「お前ら怒鳴り合いしてる場合かよ、化け物共の気配が俺達のすぐ...


ディーンはバッと天を仰ぎ叫ぶ。


上だ!!」


押し付けられた頭をグッと持ち上げレインとヴァンの二人は上を見上げる。


「「!?」」


「あ~カイン? 悪かったよ..お前の言う通りらしいどうやら...」



一同がディーンの言われた通り上空を見ると、自分たちを囲うように10メートルは超えようかというほど巨大な野菜の大根を彷彿とさせる白い植物の化け物が派手なピンク色をしたツタと葉の生えた口を大きく広げている。


大根の化け物の口内には無数の緑の結晶を背負う化け物が潜んでいるのがかろうじでわかる。


音も無くこんな巨体が?


レインは内心驚愕する。


隠密特化の種類か...僕もヴァンも一切気配を感じなかった、それをこいつ...


カインは驚いた様子でディーンに視線移す。


脳の性能はやはり..


「確かに争っていられる状況とはとても言えません。しかしだからといってこの状況をどうするか」


レインは思案げに顎に手を当てながらそう言った。


「そりゃ」


「使うしか...」


ヴァンの楽しげに言いかけた続きをカインが不承不承といった様子で言い切る。


「伏せろ!!」


ディーンが叫ぶ。


ディーンの言葉に反射的に全員従いその場に伏せる。


伏せるとほぼ同時に伏せた全員の頭上スレスレを何かが凄まじい速度で通過しそのまま建物に衝突し崩壊させる。


動線上にいた化け物たちは木端微塵になり肉片が雨のように降る。


なに?今の!?


レインは激突し動きを停めた何かを目で追おうと崩壊した建物の先を凝視する。


ヴァンは立ち上がりバラバラになった化け物達の死体を見てその速度に驚愕する。


ソニックブーム!?音速を超えた何かが!?


全員の意識が瓦礫の山に集まったとき皆の視線の先、瓦礫の山から突如として女の声が聞こえてきた。


「ワタシの解覚石かいかくせき返せ〜!!」


声の主は銀髪の少女、エニアだった。


「人を泥棒呼ばわりすんじゃねーって言ってんだろ!テメェが俺に預けたままあの日帰ったんだろうが!!テメェが忘れただけじゃねえか。それにもう売っちったっつてんだろ!?」


言い合っている相手はいつぞやの翠緑の三角帽の男だった。


「人の忘れ物勝手に売るなんて信じられない!?」


「忘れるくらいどうでも良かったんだろ?それを売って何が悪い。だいたいそんなモノを帝城から盗むのに付き合わせやがって!俺がキレたいわ。」


「何よ!?金払って依頼したことなんか...」


「あのぉ」


二人の口論の間に間の抜けたディーンの声が割って入る。


「ん?」


エニアはディーンの方へ振り返る。


顔を見合わせた二人は眉間に皺を寄せ何か思案する。


カインはそんな二人の様子を見て眼を使い内心を覗き見る。


((この人どっかで会ったような...?))


ディーンとエニアはお互いを忘れていた。


(えぇ..なんでこの前やり取りしたヤツの顔を覚えてないのコイツら、、ガチでオークとかを下回る知能しかないんだな.)


カインは驚きを通り越して呆れた。

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