最弱四天王の世界革命〜魔王達から「お前は四天王の中で最弱」と無能認定&追放されたので、秘密結社を作って世界を裏から操ります〜

ケニー

第1話 追放

ここは魔王城の一室、円卓の間である。


巨大な大理石の一枚岩を切り抜いて造られた巨大な円卓には、たった5つの椅子しか置かれていない。


魔王城の中でも特別なこの場所に入室を許可されているのは、魔王と最高幹部の四天王だけである。


そのうちの一席、他の椅子とは作りが圧倒的に素晴らしい椅子に座る女性が徐に立ち上がった。魔族の象徴である、ドクロの紋章が輝く紋章旗を背に座ることが許されているのはただ一人しかない。


魔王、アグネスである。


「皆の衆、よく集まってくれた。今日は、君たちに大事な話がある」


アグネスはそう言うと、四天王の一人、シェルマに視線を向けた。


「シェルマ、本日を持って、四天王の座を解任し、魔王城から出ていってもらう」


「は?……いまなんと?」


シェルマは何かの聞き間違いかと期待して聞き返すが、その期待はあっさりと裏切られる。


「クビだと言ったのだ、シェルマ。今日中にこの魔王城から出ていけ」


「なるほど。どうやら聞き間違いでないようですね……理由をお聞きしても?」


その問いかけに答えたのは、魔王アグネスではなく、四天王の一人、ヴィジョンだった。


「だってシェルマ、ザコじゃーん!もしかして自覚ないのー?」


「ザコ?」


「ろくに魔法も使えないし。パワーもよわよわ。控えめに言って、良いとこなくなーい?」


「うむ。ヴィジョン殿の言う通りである」


追い打ちをかけてきたのは、筋骨隆々な魔人、オルノールだ。


「シェルマ殿よ。魔族にとって最も大事なことは全てを破壊する純粋なパワーぞ。しかし、其方は……貧弱すぎる」


オルノールはシェルマの体を上から下まで品定めするかのように見た。

確かに、シェルマは細身である。

筋骨隆々なオレノールと体格差を比べるのも悲しくなるほどだ。


「そうか。言いたいことはわかった。ドルアもオレが出て行くことに賛成なのか?」


シェルマはまだ一度も発言せずにずっと本を読んでいる最後の四天王、ドルマに問いかけた。

彼女は少しだけ顔を上げると、めんどくさそうに答えた。


「興味ない。みんなが賛成するなら、私も賛成する。それだけ」


「そうか」


一連のやり取りで、シェルマは自分に味方がいないことを知った。しかし、だからと言って「はい、そうですか」と簡単に引き下がるわけにはいかない。


「確かに、皆の言う通り、オレは弱い。しかし、それは戦闘面においてだ。オレの専門は戦略立案と組織運営だ。オレがいなくなれば、誰が作戦を立てるんだ?」


「わたくしがやりましょう」


その声はシェルマの背後から届いた。

振り返ると優男風の青年がゆったりと近づいてきた。


「誰だ?お前は?」


「初めまして、シェルマ様。この度、シェルマ殿の後釜として、魔王様に引き上げていただいた、オズウェルと申します。以後、お見知りおきを」


ゆったりとした身のこなし。シェルマはこの一瞬で、この男が自分よりも強いということを察知した。


「なるほど。用意周到というわけか」


シェルマはもう自分に逃げ場がないことを理解した。

おそらく、自分以外の四天王達には今日のことはもう知らされていたのだろう。

だがら、自分が何を言おうとこの決定が覆ることはないと気づいた。

だが、シェルマはまだ諦めるわけにはいかず、アグネスに向き直ると、最後の賭けに出る。


「アグネス様、オレがこの四天王の座にいるのは、先代の魔王様がお決めになられたことです。そのオレを大した理由もなしに追放するのは、先代の魔王様への背任行為と取られても無理からぬことではありませんか?」


シェルマが四天王の座についたのは20年以上前のこと。それまでただの一戦闘員だったシェルマを先代の魔王が起用したのだ。


本当はシェルマは先代の魔王のことを口にしたくはなかった。自分の力だけでこの状況を覆せない自分の不甲斐なさに歯痒くなる。

しかし、ここで諦めれば先代の魔王に顔向けができない。使えるものは全て使う勢いで、シェルマは魔王を説得しようとした。

だが、アグネスの一言によって、それは一蹴される。


「それがどうした?」


「……」


「現魔王はこの我、アグネスである。父親が築き上げた古い体制を破壊し、新たな魔王軍を作り上げる。それが我の使命なのだ。その第一手として、シェルマ、貴様を追放する」


その言葉には、 有無を言わさない気迫があった。 まさに、魔王の気迫。 アグネスは、まだ若い娘だが、すでにそれだけの気迫を兼ね備えていた。


「だいだいさー、シェルマの作戦って、地味で面白くないんだよねー。20年間何やってきたのって感じ? やっぱ無能だよねー」


「その通りである。魔族ならば、力でねじ伏せる。それこそが価値のある勝利である!」


「シェルマ諦めろ。ここに貴様の追放を止めようとする者はいない。恨むなら、無能な自分を恨め」


結論はすでに出ていた。


今日、シェルマは魔王城を追放される。それが揺るぎない現実として、シェルマに突きつけられたのだった。


シェルマは立ち上がり、円卓の間の出口へと向かった。


「ご安心ください。シェルマ様。あなたの分も、私が魔王様をお支えいたしますよ」


すれ違いざまにオズウェルが嬉しそうにそう言うが、シェルマは特に言い返すことはしかった。


「今までお世話になりました」


そう言い残して、四天王最弱の男、シェルマは円卓の間を出て行った。


〜あとがき〜


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