転生先が××漫画だったんだが!?

マニアック性癖図書館

【転生】トラックに轢かれるとどうなるのか?【人生二周目】

「おい!危ないぞ!」

「えっ――――?」



俺は極めて一般的な成人男性。独身で彼女無し、ややオタク趣味の社畜だ。

今日も今日とて上司の圧力に負け、特にしなくても良い残業で無駄に時間を使った俺は、すっかり暗くなった夜道を一人トボトボと歩いていたのだが……。

目の前が急に眩しくなったと思えば、離れた所から男性の慌てたような声が聞こえ、遅れてキキーッ、という甲高い……そう、まるで急ブレーキをかけているかのような音が耳をつんざいた。


あれっ。もしかしてこれってアレですか。

所謂、異世界トラックってヤツ―――?


走馬灯は流れず、代わりにそんなどうでも良い事を思った直後、俺の体は宙を舞った。

……かと、思ったら。


「あばぅ!?」


言葉にできない程の痛みと恐怖心に反射的に叫んだつもりが、口からは喃語が飛び出すばかり。

声も露骨に高くなっているし、視界もおかしい。薄ぼんやりとしているのは事故に遭った影響と言えばなんとなく納得できるが、それにしても景色が妙に明るい。

俺の帰宅時間が日の出ている時間なはず無いのに。


え、まさか本当に転生?

冗談のつもりだったのに、マジの転生トラックだったの?


まだ事故の影響という可能性は全然あるにも関わらず、俺の脳内は既にお祭り状態だった。


良く聞く転生の間……神様との対話とかは全く無かったし、なんなら轢かれたと思った瞬間には赤ん坊になっちゃった感じだけど、これってやっぱ転生だよな?

よっしゃーッ!どうせ前世にゃ未練なんて殆どねぇ!そりゃやってたソシャゲはまだサービス終了まで程遠い感じだったし、アニメ化決定としか情報が出てない好きな漫画やラノベがいくつかあったし、名前は知ってるけど実際には見れてない気になる作品もいくつか……あれ?俺って結構未練タラタラ?

と、とにかく異世界転生は前々から興味があったんだ。こうして体験できるなんて嬉しいにも程がある!特にチートを受け取るシーンがあった訳でもねぇけど、どうせ転生者なんて無双してなんぼ、ハーレム作ってなんぼだ。

灰色の人生が一変!異世界生活の始まりだぜ!!


[トラックに轢かれて起こる事#1 転生する]


「あぅあっ!?」


えっ今なんか見えたぞ!?

まるで動画のテロップみたいな……?


視界は未だにぼやけたまま。ただ体はなんとなくながら動くので、多分本当に転生したとみて良いだろう。

本当はそれに関して色々と考えたい所だが……なんか、それどころじゃない物が見えてしまった気がする。

いや嘘。まだ見えてる。俺の視界の端で存在を主張している。


なんだよ[トラックに轢かれて起こる事#1 転生する]って!さも当然のことのように言ってるんじゃ―――っていうかマジでなんなのコレ!?


[転生したら起こる事#1 特殊な力を手に入れる]


テロップの文字が変化し、まるで呼び出しベルを鳴らしたかのような音が頭の中に響く。


何度も言うが神様とあった覚えはないし、転生自体も一瞬だったが、どうも俺は特殊能力を手に入れたらしい。態々親切に、能力自身が教えてくれたようだ。

この動画のテロップみたいな……それも、なんかどっかで見た事あるタイプのヤツが、俺の能力らしい。


えぇ……と、心の底から困惑する。正直チート能力が貰えるのはありがたいし、存分に使わせてもらおうとは思う。

だがこの能力、とても過酷な異世界を生き抜くには力不足というか、戦闘能力はまずないような気がする……。


つーか言わないようにしてたけどコレ!漫画解説動画のヤツじゃん!!

よく見る解説テロップじゃんッ!!!


[特殊能力を手に入れて起こる事#1 苛立つ]


いや、必ずしも起こる事ではねぇよ!稀有な例だよ転生の時点から!

しかもテーマが統一されてねぇし!なんで大きなテーマをちゃんと用意しなかった!?


いつまでも曇ったままの視界に、恐らく天井が映る。

唐突に第二の人生が始まった訳だが、開始十分未満でもう疲れ切ってしまった。

赤ん坊だから、大人ほど眠気に逆らえないというのもあるのだろうか、すごく瞼が重い。


というかこんなに騒いで両親が一度も現れないってどうなの?そもそも本当に、今生の俺の家はここなの?捨て子とかじゃないよね?


いらない疑問や、これからどうなっていくかという不安。第二の人生初の入眠時は、前世同様マイナス思考ばかりが頭を埋め尽くすのだった。


※―――


時は流れ15年後。中身おっさ……いや、お兄さんの俺にとってはあっと言う間だったが、それなりの月日が流れた。今や俺は高校生。どこにでもいる男子高校生だ。


そう、高校生。つまりは、俺の転生先は異世界では無かったという事である。

高校という概念のある異世界の可能性を疑う人もいるだろうが、普通に15年間生活して、前世と変わらない現代日本である事は確認済み。夢も希望も無かったのである。


[転生したら起こる事#431 夢も希望も無くなる]


「うっせ」


15年間、ずっと俺の視界から立ち退く事の無かったこのテロップ。今日も今日とて呼び出しベルの音を俺の脳内に響かせ、どこか間違っている情報を表示している。

まるで某動画投稿サイトの漫画解説動画のようなテロップ。転生先が現代日本な挙句に能力がこれか、という思いはあるが、そもそもチートがそんなに必要ない世界だ。鬱陶しい以外には無害だし、俺は早々に諦めて受け入れた。

ツッコミはするが。


「……ん?電話?」


ベッドに寝転がってスマホを弄っていると、友人から電話がかかって来る。

この世界で幼少期からずっと仲が良い男友達だ。いつもゲーセンやらカラオケやら食事やら誘ってくるし、多分今回もそうなのだろう。

通話に応答し、雑な「もしもし」という挨拶をすると、相変わらずの元気な声で「今暇か?」と尋ねられた。

ジャラジャラという音や派手なBGMが聞える当たり、コイツは今ゲーセンに居るのだろう。正直うるさい。


[友人から電話がかかってくると#65 背後がうるさい]


別に友人全員がゲーセンから電話かけてくるわけではねぇだろ。


「当てようか。大方欲しい景品があるけど金がねぇんで助けて欲しいってとこだろ。ゲーセンにいるのなんざお見通しだぜ?」

「ゲーセンにはいるけど違ぇよ。しかも今日は特に欲しい景品無かったし。――いやな?メダルゲームで負けて、しょうがねぇから帰ろうと思ったらたまたま……うぉっ!?」

「もしもし伏見か?俺だよ俺。たまたまコイツと会ってさ、これからカラオケ行くって話になったんだけど、お前も来るよな?いつもの店だから、さっさと来いよー!んじゃな!」


ぷつっ、と電話が切れる。

電話を強奪し、オレオレ詐欺みたいな語り出しの挙句俺のカラオケ行きを勝手に決定しやがったのは、もう一人の幼馴染。

いわゆるオレっ娘というヤツで、兄の影響で男らしい口調をしているが普通に女である。


いやまぁ、暇だけどさぁ。


勝手に決めてくれるなよなぁ、とか考えながら起き上がり準備を終え、すぐに家を出る。

俺達がよく行くカラオケ店は、俺の家がある場所から徒歩二十分。ゲーセンから向かえば五分圏内なので、あまりのんびり向かうと待たせてしまう。

気持ち駆け足で歩く道中、住宅地や繁華街、すれ違う人々を密かに観察してみるが、まぁ当然ながら特に変わったところは無い。何度確認してもやはり、ここは普通の現代日本だ。

ある一点を除けば。


「おっ、やっと来たか!おせーぞ伏見ぃ」

「いきなり呼ばれてこの速さで来ただけ良いだろ」

「ははは、お疲れさん」


労うように笑いながら、ジュースを手渡してくる幼馴染(男)。名前は近藤拓人こんどうたくと。細身で高身長のイケメン。よくモテるが俺とつるむくらいにはオタク趣味。いつも爽やかで気の良いヤツである。

逆に労いも何もなく、馴れ馴れしく肩を抱いてくるのは幼馴染(女)。名前は金本音々かなもとねおん。前述した通り口調も態度も男らしいが、性格は結構乙女。やや高身長の美人で、スタイルが凄く良い。今も胸が当たっているくらいだ。俺が本当の意味での思春期だったら不味かった。


「へー、それでフラれたって?」

「うん、そうなの……はぁーあ。太ってても君が好きー、とか言ってた癖に。アイツマジ許せないんだけど」


俺達の前に並んでいる女性二人の会話が聞えて来る。そこそこ大きな声で話しているせいで、別に聞き耳を立てているわけでもないのにバッチリ聞こえてしまっている。

ちょっと気になってしまって前の女性二人を見て見ると、どちらも茶髪の二十代前半くらいで、片方が細身、もう片方(フラれたとかいう方)がかなり太っている。

一朝一夕でどうにかなる脂肪ではないな。素人の意見だけど。


「じゃあ痩せて見返してやったらいいんじゃない?」

「そう思って、最近運動頑張ってるんだけど全然ダメで……私、やっぱりこのままデブス人生を歩むしかないのかな……」

「そんな事無いわ、大丈夫よ!」


元カレに対し怒っていた時とは打って変わって落ち込んだ様子を見せる彼女へ、恐らくは友人だろう女性がスマホを操作し、画面を見せた。


「ただ運動したり食事制限したりするよりもっと効果的な、新しいダイエット方法!このサプリメントを毎日摂取するだけで激ヤセ激モテ間違いなしよ!」

「さ、サプリメント?」


……突然だが、ついさっき俺が「ほぼ」前の世界と変わらないという話をした事は覚えているだろうか。

まぁ、ぼかして言っていた時点でなんとなく察している人もいただろうが、俺の転生した先は、ただの現代日本では無かった。


「なんか怪しいイメージしかないけど……」

「それも心配ないわ。なんとこのサプリメントは特許取得済みの唯一無二の成分配合で作られた、国も認める医薬品なの。普通に生きているだけでカロリーを消費するって話は知ってるわよね?このサプリメントの成分はなんと、そのカロリー消費量を大幅に増大させる効果があるの。一日眠って過ごしても、三日間毎日欠かさず三時間ランニングしたのと同等の脂肪燃焼が見込まれるのよ!」

「えぇっ!?寝てるだけでランニング三時間三日分と同じ!?それも、国が認めたなんて……それなら安心かも」

「しかも今なら期間限定で、同社の体調管理サプリメント『SWSスス』三十日分がついてくるの!効果が認められなかった場合は返金対応ありだし、痩せて元カレ見返したいなら今がチャンスよ!」


お分かりいただけただろうか。俺の転生した世界は、漫画の世界。


―――漫画は漫画でも、のな!!


テロップが見えるの下りで、漫画解説動画の世界って勘違いしてただろ。俺も最初、そうとしか思わなかったし。

けどさ、あまりに多いんだよ。こういう唐突にサプリメントとか脱毛サロンとかプロテインとか消費者金融とかの話をし始めるシチュエーションが!

しかも広告の世界だからか、どれもマジで効果あるし良い事しかねぇの。それがマジで怖い。


今紹介していたサプリメント(どこの会社の何という商品かは不明)だって、マジで痩せるはずだ。

この光景を画面越しに見ている人間にとっては、別だろうが。


「ん、どうした?なんかゲッソリしてるけど」

「あー……走ったせいで疲れただけ」

「ふーん?お前、結構体力ある方だった気がするけどなー」

「さぁな、寝起きだったからじゃねぇか?」


適当な返事をして天井を仰ぐ。


解説漫画のようなテロップと、唐突に入って来る謎の宣伝。

記憶、知識チートや大人な中身で恋愛無双だとか、そういう期待に満ちた現代日本転生物語とは程遠い、疲れるだけの日常。

転生したいとは言ったが、これならあのまま死んだ方が楽だったかもしれない。


俺の人生、これからどうなっちゃうの~~!?


……なんてな。ははっ。




[転生したら起こる事#432 転生した事が辛くなる]

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