第26話 王城での一悶着

 訓練場で騎士たちとひっきりなしに戦った後、俺は今度は王城に呼び出された。

 ユーフェリア様は準備があるからと言って先に王城に行っている。


「き、緊張するなぁ……」

「なんだかお上りさんみたいですね」


 大通りを歩きながら落ち着きなくキョロキョロしていたらレイナにそう言われた。


「いや、お上りさんで間違ってないぞ。俺が都会に来るのは初めてだからな」

「確かにそうでした。すいません、失念してました」


 そう頭を下げるレイナに俺は慌てて手を振った。


「謝るほどじゃないから! てかお上りさんみたいに落ち着きない俺のせいだし!」


 そんな俺の様子に彼女は小さく笑うと言った。


「ふふっ……すいません、ちょっと揶揄ってみたくなっただけです」

「あ、ああ、なるほど……。でも少し心臓に悪いからやめてくれ……」


 レイナってあまり感情を表に出すタイプじゃないから、分かりづらいんだよな。

 もっと彼女の感情が分かるようになりたいと思いつつ、俺たちは王城にたどり着いた。


 そして門の前に立っている騎士に話しかける。


「あ、あの……皇帝陛下に呼ばれてきたんですけど……」


 俺がそういうと、彼は胡乱げな表情を向けてきて言った。


「はあ……それは本当ですか? 皇帝陛下の名前を使って虚偽だったら捕まりますけど、大丈夫ですか?」


 どうやら全然信用されていないらしい。

 俺はどうしたもんかと思いながらもその問いに頷いた。


「ああ、大丈夫だと思う。——うん、間違ってはないしな」

「そうですか……それなら招待状を見せてください」

「え……招待状?」


 そんなもの貰ってないんだけど。

 そもそも直接そう言われただけだし。


 しかし俺が思わず首を傾げると、余計に胡乱げに見てくる騎士。


「……招待状をお持ちじゃないんですか?」

「あ、ああ。持ってないな」


 そう言うと、騎士は呆れたようにため息をついた。

 そして腰の鞄から縄を取り出すと近づいてくる。


「それでは招待状をもらってないのに、皇帝陛下に呼ばれて王城にきた、ということで間違いないですね」

「間違いないけど……でも、呼ばれたのも事実だぞ」


 騎士はやれやれと首を振ると、俺を縛ろうとしながら言った。


「よくいるんですよね。皇帝陛下に呼ばれたと嘘をついて王城に入り込もうとする人が」


 いや、俺は違うが。

 そう言いたかったが、それを口にすると余計に拗れそうだから黙って縛られようと思っていると——。


「おい、マルセル! 遅いじゃないか! もう準備は終わってるんだぞ!」


 王城の中からユーフェリア様が出てきた。

 それを見た騎士はその場で固まって慌てたように叫んだ。


「ゆ、ユーフェリア様!? なんでこんなところに!?」

「なんでって、こいつを呼びに来たんだぞ」


 彼女は俺と騎士の状況を見て、首を傾げながらそう言うのだった。

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