第9話 演習前夜

 「いいか?動き方はこうだ、分かるか?基本的に俺たちの任務は偵察と伏撃だ、だから演習もそれにあった目標が設定される」


 なかむら君が僕に一生懸命教えてくれてる。明日はついに演習の本番。動きは大体教練とかでも教わったけど、でもなかむら君の話には初めて聞くみたいなものもいっぱいあった。


 「よし、わかったか?」


 わかったって思ったから、うんって頭を振った。


 「じゃあ、いま俺が言った事、俺に説明してみろ」


 「えっと……」


 なんだか、どうやって言えばいいのかすぐには出てこない。どうすればいいのかとかは自分ではわかってるのに…。言葉にできない。


 「うん、説明するには完全に分かってる必要がある、まー最初のうちはそんなものだから……1回だけ聞いて理解するなんて難しいからね、じゃあもう1回言うからね」


 そうやって、なかむら君がちょっと宙を見ながらこっちに説明する。蛍光灯がまぶしくないのかな…。


 「俺たちの主な働きは情報小隊って言われるもので、基本的に敵の配置だったり様子を確認して本隊に報告したり、逆に攻撃を加えてその反撃でどれくらいの力かっていうのを図ったりするんだ…あとは敵の前進を待ち構えて攻撃する伏撃…これが基本的にやらされること」


 なかむらくんがベッドから立ち上がって、中腰になる。


 「演習場がどういう場所なのかはまだ分かんないけど、森の中とかだったら歩き方があって、1歩1歩自分の足の踏み場を確かめながら進んだりするんだ、その時、多分この部屋で1分隊だから全員同じ距離を保っていくぞ」


 「ははは、おれできるかなぁー!」


 うえだくんがあっちのベッドで言う。たしかに、うえだくんはマイペースなところがあるからなんか難しそうな感じがする。


 「おまえ…そうか、おまえも演習初めてだったか……」


 「ま、なんとかなるよ」


 ゆうたくんが半長靴を磨きながらもごもご言った。


 消灯。


 明日は演習。どこに行くんだろう。任務については何も聞かされてない。なにをするんだろうなって思う。どんな場所なんだろ。この数週間つらいこともあったけど皆のお陰でなんとかなってきた。きっとこれからも。そして明日も……


 え?


 少し遠くのほうで一瞬大きな音が聞こえた。これは……僕たちが普段聞いてる銃の音にそっくりだった。


 「ゆうたくん……」


 上のベッドにむけて小さな声をかける。


 「うん…」


 返事を待たないで横を見たら、なかむらくんが半身を立ててこっちを見てる。


 「パンクの音ではねぇな……間違えるわけがねぇ………」


 ………


 「こいつ、起きねぇな…起床ラッパ以外では起きないのか?」


 なかむらくんの上のうえだくんは寝息を立ててるみたい。


 「学校内で発砲事件が起きたとすれば大変なことだ、それが事故だろうがなんだろうがな、危険性がある限り警報でもなんでも鳴らして蜂の巣を散らした騒ぎになってるはずだ…だけど……」


 なかむらくんが回りをゆっくりと見回す。少しカーテンを開けてみる。窓の外は宿舎に囲まれた中庭と向かい側の窓が見えるだけだ。


 「静かなもんだ………空耳じゃないよな?……」


 「まー…考えてもしょうがないよ、明日は演習なんだしうえだ君を見習ってぼくたちも寝るべきなんじゃない?」


 ……ぼくはあんまりそうは思わない。なんだか、心臓がどきどきする。いま、横になっても寝れるとは思えない。何があったのかがすごい気になる。っていうか、すごくいやな感じがする。


 「お前もか…」


 「おいおい、勘弁してよー…抜け出す気?ばれたら皆躾なんだよ?」


 「あぁ…確かに言うとおりだ、だが……」


 ぼくは音をたてないようにベッドから降りた。


 「行こう、きっと見ないと後悔する」


 「そうだな…」


 「はー?ちょっと、室長なんだからしっかりしてよー」


 「ゆうたは寝たふりしてな…あくまでも俺とたけしが勝手にやったことにしとくから、お前はなんも知らなかったってな…俺は心証が良いから多分、気のゆるみだとかの指摘はされないさ」


 「…なに言ってんのか分かんないけどー…躾がないなんてことはあり得ないんだからさ…どうせなら、やることやって怒られたいからなー…それに3人で行けば見つかりにくいだろ?」


 ゆうたくんは耳が良い。ていうか、勘が良いのかな?壁1枚隔てても中に人がいるかどうか分かるし、少し離れた所から歩いてくる人に気づいたりできる。すごいなって思う。だから、いてくれたらすごく助かるだろうなって思う。


 「おうよ…そういうと思ったぜ」


 なかむらくんが先頭になって、自然と中腰のまま並んだ。先頭がドアを少しだけそっと開けて様子をうかがう。


 なんだか、少しだけワクワクする。こんなことは初めてだ。


 「多分、音からしてなんかあったとしたら宿舎の向こうの校庭のほうだ……いま廊下には誰もいない……当直が気づく前に戻る、スピード勝負だ、衣擦れがうるさいから上を脱げ」


 上半身をさらして僕たちは廊下に出た。なんだかツンとして少し寒い感じがする。まだ冬じゃないのに。


 


 


 


 

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